第34話
昨日入っていなかったのでお風呂に入ろうとした。しかし、当然お湯はほのかに温かさが残るくらいでほとんど冷たくなっていたのでシャワーだけサッと浴びることにした。
シャワーを終え、半日以上放置しておいた携帯を見る。幸い、急な用事の連絡などは入っておらず、他愛もない話や暇つぶしの相手をしてくれないかといった内容の通知ばかりだった。
『落合さん良い人すぎますよー、でもこれから相談する機会増えるかもです笑お言葉に甘えますね笑』
早川さんからもここで会話を切っても問題なさそうな返事しか返ってきていなかったので既読だけつけて終わらせることにした。
まだ今日という日は始まったばかり、しかしなんだか普段体験することのない「他人の日常の一部」というものを体験したせいか、1時間で1日分くらいの時間の濃さだったと思う。
「他人の日常の一部」なんて言い方をすると大げさに聞こえるかもしれないが、普通の人と比べて活動する時間が大きくズレている人間にとってこれはなんともいえない感動に包まれるものなのだ。
『なんで無視するんですかー』
なんとなく昼頃までゴロゴロしていると早川さんからメッセージが送られてきた。
もう会話が終わったと思っていたので少し驚いた。無視したわけじゃないとその旨を説明するが
『既読無視されたら傷付きますよ』
この前まで会話を終わらせてもなにも言わなかったじゃないかと思いつつも謝罪すると、なんとか許してくれた。
「今日バイト行きたくねえなあ」
時計が12時を回ったくらいから、急に日常に戻された気がする。アルバイトに行ってお客さんの相手して同僚達と喋って、それで家に帰ってお風呂入って寝て、なんの変わりもない。そんな毎日に戻るんだと実感した。
仕方ない、これが自分が選んだ道だ。
仕方ない、そう、仕方ない。
何度も何度も自分に言い聞かせているうちに、もう一度、眠りについた。




