第32話
『お疲れ様。小田さんとの件は一応片付いたよ、色々心配かけてごめんね』
福宮さんに送ったのとまったく同じメッセージを早川さんにも送る。昨日はあの後福宮さんが眠いと言っていたのですぐに切り上げて寝床についた。
個人的には早く寝た方だったのでいつも昼ぐらいまで寝ているのが今日は10時には目が覚めた。うちは母子家庭で母は朝早くからパートに行っているので基本的に会うことはない。
「んー、久々にゆっくりするかな」
とりあえず最近汚れてきてるなと思ったのでマイ洗車グッズを持っていき近くのガソリンスタンドで洗車する。途中、ヘッドライトの黄ばみが気になって嫌な気分になった。
洗車で体を動かしたらお腹が減ってきたので、新しくできたというチェーン店に行きお昼ご飯を食べる。オープンしたばかりでお客さんがごった返していたせいか、料理も美味しいと思わなかったし、サービスもイマイチだった。しかし最初はこんなもんだろうと思い次は少し落ち着いたくらいに来ようと思った。
お昼を食べていて気付かなかったが、早川さんからメッセージがきていた。
『よかったです。安心しました!でもやっぱり小田さんは苦手です』
少し棘がある言葉が返ってきた。好き嫌いは誰にでもあるし仕方ないか。次小田さんと早川さんが一緒になる時があったらうまいこと遠ざけてあげよう。
前までなら頑張って仲良くなるように色々と手を施したと思うが、今はもう、わざわざ嫌いな人間と付き合わせるのも面倒な気がしてやめるようにした。
『あはは、苦手なのは仕方ないよ。今回はたまたま俺が一枚噛んでたわけだけど、気になることとか嫌なことがあったら俺が関係してなくてもいつでも相談してきていいからね』
頼りになる先輩っぽい返事を返したところで眠くなった。午後1時を回ったところで、昼寝するにはちょうどいい時間帯だと思う。
家に戻って自室の電気を点け、ぼんやり天井を眺めたところでえもいえぬ倦怠感に襲われた。このまま眠ってしまえと体が言っているに違いない。
今日はバイトも休みだし1人の時間を大切にしよう。そう思いながら瞼が重力に逆らわないよう力を抜いて眠りについた。
朝焼けが、やけに白くて目が眩んだ。時計を見るとまだ午前5時にもなっていなかった。外は深夜かと思うほど暗かったし、さっき朝焼けかと思ったのは昨日点けっぱなしにしていた蛍光灯だった。
昼寝のつもりが、軽く12時間以上睡眠をとってしまった。寝すぎたせいか体が重い。そのくせ、意識だけはえらくハッキリしているのでこのまま横になっていても寝れないだろうし、寝すぎた体を慣らすついでに散歩に行くことにした。
まだまだ冬の雰囲気が拭えない街は静かだった。感じるのは肌を突き刺すような痛みの寒さと霜が靴の下でパリパリ鳴る音。それから遠くの道路を時々思い出したように走る車の走行音だけだった。
世界に1人だけ、というロマンチックな思考をするタイプではなかったが、いつもと違う街並みに胸が打たれた。




