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第29話

「小田さん今日はありがとうね」

「こちらこそ、スッキリしたよ」


なんとかわだかまりは解けたようで、小田さんの声のトーンがいつも通りに戻っていた。


「ねえねえ、このままドライブ行こうよ」

「え」


思わぬ提案だった。「仲直りしたからさ」と小田さんは続けたが、そもそも喧嘩をしていた自覚がないからそんな実感もわかない。今から2時間半は体力的にきつい部分もあるので正直気は進まない。


「えー、もう疲れたよ」


「謝るって意外とエネルギー使うもんだね」と適当にそれっぽい理由を付け足した。小田さんも「そうだね、もう帰ろうか」と納得してくれた。


すんなり話が通るが、そんなに簡単に人を信じるものなのかとこちらが不安になってくる。それとも、それだけ信用されているということだろうか。もしそうなら、さっき偽の謝罪を行ったことに対して良心が痛む。


「なに難しい顔してるの?」


顔にでていたのだろうか。まるで当選待ちの政治家でも見るような目で覗き込んできた。


「仲直りしたくなかった?」


イタズラに小田さんが笑う。


「そんなわけないよ、まあ、でも、ごめん」

「もういいって」


今の「ごめん」は二重の意味での「ごめん」だ。小田さんがそれに気付くことはないだろう。しょうがないな、といった風に笑っている。


つられて少しだけ笑みがこぼれた。こうやって笑いあったことが前にもあったような気がする。


駐車場に着いてこのまま解散というのも少し寂しく思えたのでコーヒーを買ってあげた。


「はー、あったか」


寒かったのか缶コーヒーを頬に擦り付けている。なんだ、女の子っていうのは暖かいものを頬に擦り付ける習性でもあるのか。


「ふふふ」

「なに笑ってんの、きもいよ」

「そんなにズバッと言うなよ」

「だって1人で笑ってんだもん、そうなるでしょ」

「まあ、ちょっと…思い出し笑いだよ」

「変な落合」


「君は君の嫌っている相手と同じことをやっているよ」なんて言えるはずがなく、きもいと言われたのが気にかかるが無言で微笑み続けることにした。


コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に捨てる。アルミ缶なら潰していたところだったが、あいにくスチール缶だったので潰れなかった。運が良かったな、なんて心の中で呟いてみる。普段はこんなことしないのに、どうしたんだろう、俺は。

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