第26話
「落合さん落合さん」
早川さんが神妙な顔つきで話しかけるものだから、少し身構えてしまった。
「どうした?どこか分からない?」
「ある意味分からないです」
「ある意味?」
ある意味、ということは絶対に作業内容ではないな。プライベートのことだろうか、恋愛について以外なら頑張って相談に乗ろう。
「落合さん最近小田さんになにかしましたか?」
なにか?最近は一緒に外食も行ってないしアルバイト中に少し話す程度しかしていない。前が異常だっただけで今くらいが健全な付き合い方だと思っている。
「別になにもしてないよ、どうして?」
「小田さんが明らかに機嫌悪いです」
「小田さんも女の子だし、そういう日もあるんじゃないの?」
「それセクハラですよー」
「あはは、ごめんごめん」
「でもこの前なんて、料理は急かされるし、ゴミ箱は蹴るしで大変でした」
最近、ゴミ箱が一つありえないくらいの形で凹んでいたのはそういうことだったのか。すごい脚力だ。
いやいや、感心している場合ではない。
「それは問題だね、今度しっかり言っておくよ」
「お願いします。今の小田さんとは一緒に入りたくないです」
まずいな、ハッキリと「入りたくない」と言うということは相当不満が溜まってそうだ。
しかしなぜ早川さんは俺が原因だと思ったのだろう。
「なんで俺だとおもったの?」
「あ、それはなんとなくです。最近あんまり2人でも喋ってるところ見ないから喧嘩したのかなって勝手に思いました」
「喧嘩はしてないよ、少し落ち着いただけ」
少し落ち着いただけ、という言葉に早川さんの顔が曇った。不機嫌な感じではなく、ただ単純に意味が分からないといった様子だ。
「どういう意味ですかー」
「高校生にはまだ早い」
「えー卑猥」
「そんなんじゃない!」
「あははー、怒らないでくださいよー」
「怒ってないよ、もう…」
まったく、福宮さんといい早川さんといい、最近の高校生は先輩をからかうのが上手いらしい。
「もー、呆れないでくださいー」
「呆れてない、ちょっと疲れただけ」
「うわー、落合さんひどい」
人によっては敬意がないとか怒りそうなものだが、これはこれで取っ付きやすい先輩と思われてそうで気は悪くない。




