第22話
早川さんはまだ入って2ヶ月目くらいのキッチン担当のバイトの子で、彼はその子の教育係になっていた。分からないところはなんでも聞いてくれるし間違えたらフォローしてあげる。バイト先だけでなくプライベートなことも相談してきたりと、相当頼りにされているみたいで、まだ高校二年生らしいが彼はかなり気に入っていた。
「落合さん、小田さんと仲良いですよね」
「まあねー、一応同い年だし仲は良いかな」
「小田さんって気難かしくないですか?」
「いや?そんな風に感じたことはないけど」
「気難かしくて有名だったんですよ」
「前から知ってたの?」
「まあ…同じ地区なんで」
小田さんと同じ地区、ということはもしかして…
「福宮さんとも同じじゃない?」
「あー、そうですよ、沙織も同じ地区です」
福宮さんも小田さんも、同じ地区の子が入ってきたんならもうちょっと仲良くしろよ…。それとも女の子ってそういうものなのか。
「絶対小田さんって落合さんのこと好きじゃないですか?だから良い人そうに振る舞ってるんですよ」
「いや、それは絶対ないよ」
即答。だって小田さんは…と言いたい衝動にかられる。前にも同じようなことがあった気がする。
「だって落合さんにだけ明らかに態度違いますよ」
「そうなの?なかなか自分以外の人と話してるの見ないからなあ」
「話してないですよ」
「え?」
「話してないですよ」
大事なことだったのだろうか、同じことを2回繰り返した早川さんは苦虫を噛み潰したようなしかめっ面をしていた。
「それより沙織と仲良くてビックリしました」
「そう?まあでも、同級生が歳上の知らない人と仲良かったらビックリするよね」
「最初絶対ヤリモクやろーって思ったんですけどね、見てたら普通に仲良いだけっぽかったんで落合さん良い人だなって思いました」
「ははは、俺と福宮さんに限ってそれはないない」
おそらく早川さんもあまり小田さんのことは好きではないのだろう。すぐに話題を福宮さんの方へと変えてしまった。あの子はいったい過去になにをしたんだ…。
「ほら早川さんネギかけるの忘れてる」
「あ、すいません」
「でも大分レシピ見らずに作れるようになってきたね」
「でしょー、頑張ってます」
「で、沙織のことなんですけどー」
女の子ってのは話すことが好きだなあ。感心するよまったく。
「沙織って見た目はめっちゃ綺麗じゃないですか、よく男に好かれてたんですよね」
「そうやろうねー、肌とか綺麗だしね」
「でしょ、だから落合さん沙織を守ってあげてくださいね」
「んー、その時はその時、福宮さんのやりたいようにやらせるさ」
「良い人過ぎるのもダメですよ」
だって別に福宮さんの保護者ってわけじゃないから、友達として仲が良いだけの男がそこまで縛る権利はないように思える。それに、あの子なら大丈夫だろう。自分というものをしっかり持っているから間違った道には進まないだろう。その程度の信頼は持ち合わせている。




