第20話
年末年始の飲食業界はいわゆる繁忙期というもので、密かにどうにかならないかと策を練っていたあの2人の関係も放ったらかしにせざるを得ないくらいには忙しかった。
特に彼らのバイト先のように高校生が多い職場ではお年玉をもらうために親戚の家に遊びに行ったりで繁忙期だというのに極度の人員不足に陥ることも珍しい話ではない。
この期間はとてもじゃないが遊びに行く余裕もなく、メッセージアプリの個人チャットで労いの言葉をかけあうくらいしかできなかった。流石にこの時期までギスギスした雰囲気を持ち込むことはなく(そんな暇がなかっただけかもしれないが)スムーズな営業を行うことができた。
放ったらかしにしたと言ってもなにもしなかったわけではない。いや、行動自体は起こしてないのでなにもしなかったことに違いはないが、少しだけ自分の中で整理してみた。
あの2人は、おそらくお互いが一方的に嫌っているものと思っている。嫌っている相手の気持ちなどいちいち知ったことではないといったところだろうか。
そもそもなぜ嫌いなのだろう。
小田さんは「福宮私のこと嫌いやろ?」と聞いてきたことがある。嫌われてると思っているから嫌いなんだろうか。他にも理由がありそうではあるが、人間関係なんて案外そんなもので好き嫌いが決まるのかもしれない。
福宮さんは「そのうちわかる」と言っていた。こちらは明確な理由があるようだ。だがしかし、少なくとも今のところは小田さんが万人に嫌われるような決定的な欠点があるような人物には見えない。
そういえばこの前、好きなアイドルグループの握手会に行くとか言って小田さんが自慢してきたな、別にアイドルが好きとかは関係ないだろう。実際のところ福宮さんはそんなことで人を判断するような腐った人間ではない。
「そのうちわかる」発言からしてもう少し様子を見てみるか。
…ただのフリーターなのに、なにをやってるんだろう俺は。職場環境をよくするためか?2人のためか?それともただの自己満足か?
職場環境をよくするためとか、2人のためとか、結局そんなものはただの飾りで、自分は誰かのために身を粉にして奮闘している、というくだらない自己満足に過ぎない。
俺が2人のために何かしてあげる必要なんてどこにもないじゃないか。だいたい、2人のどちらかが仲良くしようとしているのなら既に本人たちが行動を起こしているはずだ。なにもしないということはお互いが今の関係以上を望まないということではないか。
色々考えていたのが急にバカらしくなり、ふと我に返った。




