第19話
別に初めてというわけではない。なんなら今までだって何回もやったことのある行為。だが、流石にバイト先では…。などと考えていると福宮さんの顔が曇ってきた。
「もう!アイス溶けるよ!食べるなら食べて」
「あ、ごめんごめん」
念のため周りを確かめてから口を持っていく。うん、美味しい。スリルの分が上乗せされているのかいつもより甘く、美味しく感じた。
「はい次ー」
「へい」
「はい次ー」
「へい」
多分福宮さんも恥ずかしいんだろうな…。微笑ましく思うがものすごくペースが早いので口の中の感覚が麻痺してきた。
「ちょ、ちょっと待って」
「えー」
笑いを堪えきれない様子でニヤニヤしている。最初は微笑ましいなんて思ったが、間違いだ。少し憎たらしくさえ思えてきた。
「もうお腹いっぱいだから福宮さんあげる」
「あざーす」
食べるんかい、というツッコミは心の奥にしまった。なぜかって後が怖いから…。
「ねえ福宮さん」
「ん?」
「楽しかったよ」
「それな」
彼が福宮さんと遊んだとき、終わりが近くなるとお互いが気持ちを再確認するようにどちらからともなく「楽しかった」と言葉にする。
22時が近くなり、家まで送ってあげた。
「オッチー今度は私が奢るから」
「期待しとくよ、またね」
「うんまた、ありがと」
「じゃあねー」
「バイ」
車を発進させ、曲がり角でブレーキを5回踏む。間違っても「アイシテル」ではない。「ありがとう」だ。前初めてやった時は紛らわしいことすんな!って怒られたっけな。
ありがとうのことだよって説明したら嬉しそうにしてたのを覚えてる。
小田さんの時とは違って「今」が惜しくないのはなぜだろうか。明日は福宮さんと会わないにしても、また会えるという安心感があるからだろうか?今この瞬間に大事にすべき感情が特にないからだろうか?
自分の中の関係性として2人に大きな違いを抱いたことはなかったが、この言葉にできない感情の違いに気付いてしまった。まあ、気付いたからといって特に接し方などを変えるつもりは毛頭ないが。




