第14話
袖丈がおぼつかない時期を越えて、すっかり長袖を重ね着しないと寒い季節になった。今日は前から約束していた福宮さんと遊ぶ日である。
「オッチーお待たせ」
「ふぁあ、眠いよ」
いつも集合時間は朝の8時で、昨日夜の12時までバイトをしていた身としては非常に辛いものがある。
「あーもう!相変わらず低いなあ!」
一体なにが嬉しいのか、笑顔で悪態をつきながら車に乗り込んでくる。そういえば小田さんも最初は「低い」って文句言ってたっけな。
「じゃあいつも通りのルートでいい?」
「いいよー、行こうか」
彼女は基本的に自分の本心をあまり話さない。いや、話しているつもりかもしれないが、感覚が独特過ぎてイマイチ理解がおいつかない。そして、いい意味で人間関係がサッパリしている。
「次の彼氏はどうするの?」
「いやー、彼氏欲しいけど今はそういう人はおらんね」
彼女は付き合いこそすれど好きにはならないのですぐに別れる。彼女曰く「好きで付き合ったことないよ」らしい。あまり入れ込み過ぎるのもよくないとは思う。しかしそれはそれで、人を好きという感情があるかどうか不安になってくるのだが…。
「あー、喉乾いたからコンビニ寄ってほしい」
「オッケー、いつものとこね」
彼女はとあるコンビニで売ってあるフラッペ、とかいうのが大好きなのでそこに寄らないと機嫌が悪くなる。少し面倒なようだが、反抗期のようなものだと自分を納得させる。
それに、彼女の得にしかならないようなことでも別に苦ではない。
「はい、オッチーの分」
「ああ、ありがと」
こうやって、たまにだがお返しをしてくれる。その上逆に自分の得にしかならないようなことを協力してくれたりもするので、昔ナントカ先生が言ってたようにお互い支え合ってるような関係なのだ。
「オッチーの氷貰っていい?」
「ん?いいよー」
「あざっす」
「こんな寒いのによく氷食べれるわ…」
「氷好きやもん」
なんだかんだ話していたら、いつも休憩ついでに立ち寄る景観のいいところに着いた。なぜいつも朝8時集合かというとこの景色を見るためだ。
「いやー、気持ちの良い朝だ」
「やねー」
眼下には動き出した街並みがあり、遠くには棚田が見える。後ろを向けばまだ元気いっぱいの太陽が輝いている。彼も、そして彼女もここから見える景色が大好きだった。
「私さっきお菓子買ったからさ、ちょっとここでゆっくりしようよ」
「おー、いいね。ちょっと寒いけど」
「文句言わない」
「はい…」
一体誰が置いたのかわからない、景観を一望できるベンチに腰掛け、言葉を交わす。
もう何度もこういうことがあった。他の人との関係に優劣をつけるわけではないが、福宮沙織という人物と落合安広という人物は、確かに、お互いがお互いの大切な友達である。




