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第12話

もうすっかり真夜中と呼んでいい時間帯になり、窓を開けて走ると車内に冷たい空気が流れ込んでくる。彼はたまらず窓を閉めた。

晩秋から初冬にかけて、街がクリスマス一色になっていく。夜の間にも季節が変わっていくのをひしひしと感じる。


「本当に?言葉だけじゃなくて?」


小田さんが疑いの目つきで彼を見る。きっと今まで差別、もしくはそれに近い扱いを受けてきたのかと想像がつく。


「じゃあもう一回確認するけど」

「うん」

「小田さんは女性でしょ?」

「うん」

「で、好きな人も女性なんでしょ?」

「うん」

「それのなにがおかしいことなの?」


少し意地悪だったかもしれない。彼自身、同性愛をおかしいと思ったことはない。ないが、一部でそういう人たちがひどい扱いを受けているのを知っている。


「だって、普通そういう感情は女同士じゃ生まれないんだよ?」

「だってそれがたまたま女同士で生まれちゃったんでしょ?」


小田さんが「あー」とか「うーん」とか声にならない声を繰り返す。


「だいたい俺は男女の恋仲でもそういうもんだと思ってるよ」

「そういうもんっていうのはたまたまってこと?」

「うん、そう、たまたま。たまたま男女の間でそういう感情が芽生えたんだと思ってる。それが小田さんの場合は、相手がたまたま同性だっただけじゃないかな」


彼としては、「だからそんなに悩む必要はないよ」と言ってあげてるつもりらしい。しかしそんなことを今の小田さんが汲み取れるはずもない。


「ふふ、落合面白いこと言うね」

「いやいや、面白いこと言ってるつもりはないんだけどね」

「ううん、そんなことないよ」


汲み取ってくれなくとも、少しだけ不安は和らいだようだ。


「まあ俺の考え方がかなり特殊なのは自覚してるよ」

「そうだね、かなり特殊だと思うよ」


「落合、誰にも言っちゃダメだからね、誰かに知られたらまた変な目で見られちゃう」


小田さんの声の音色が半音上がった。はっきりと彼に心を許したのか、それとも半信半疑でまだ彼を試しているのかは分からないが、昨日までと同じ関係でいられなくなるのは確実だと予感、いや確信した。


「分かってるよ」


彼も事の重要性は把握しているらしい。ケラケラ笑いながら答えた。


「あ、もうそろそろ着くね」

「あーもうそんな時間?早いなあ」


途中途中での沈黙が多かったせいか、2時間半でそれだけの会話しかできなかった。


「まあ、明日もあるさ」

「あ、私明日休み」

「それは残念、ゆっくり休みなよ」

「ありがと、落合も無理するなよ」

「ははは、ありがと」

「じゃあまたね」

「うん、また今度」


小田さんの車が出て行くのを見送り、彼も家路につく。


きっとこの先に出逢う誰とも共にできない秘密を彼らは共にした。


そう思えるような特別な夜だった。

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