第1話
「はー終わった終わったー」
「お疲れー」
時刻は午前1時を回ったところ。ようやくアルバイトの締め作業が終わった。
「小田さんお疲れー、まだ慣れないでしょ?遅くまでごめんね」
「いやいや、落合が色々教えてくれるから助かるよー」
「そうだろそうだろー、疲れたしなにか食べに行かない?」
小田さんはまだアルバイトとして働き始めて間もないが、彼とは同い年ということもありすぐに仲良くなれた。
「いいよ、どこ行く?」
だいたいこの時間に外食となればファミレスや24時間空いてるファストフード店だ。
「俺牛丼食べたいんよねー、牛丼屋行かない?」
「あ、私牛食べれない....」
「え、マジで?アレルギーとか?」
「そー、牛アレルギー」
少し申し訳なさそうに小田さんが言う。
アレルギーなら仕方ないな、他のところにしようか。彼がそう言おうとした時だった。
「あ、豚丼なら食べれるよ!豚丼あるかな?」
「多分あると思うけど...でもそんな無理しなくていいよ、ファミレスとかでもいいしさ」
おそらく、小田さんは彼に気を遣って言ってくれたのであろう。それくらいは鈍感で通ってる彼でも分かった。
「いや、豚丼食べたいから。行こうよ!牛丼屋!」
「わ、わかったよ」
さて、問題は車だ。お互いが自分の車で行くか、どちらかに乗り合わせて行くか。小田さんの車は普段からよく見る軽自動車、彼の車は少し型の古いスポーツカーである。
普通なら男の方が何も言わずに車を出すべきなのだろうが、なにぶんハイオク車の上燃費が悪いため、余計なガソリンを使いたくないというのが本音である。
「車、どうする?」
もしかしたら小田さんが意外と車の運転が好きで、自分から車を出すと言ってくれるかもしれない。そんな淡い期待を込めながらとりあえず聞いてみた。
「落合の車乗ってみたい!なんかカッコいいもん!」
即答。女の子にそう言われては断れない。それに、よく考えると今回は自分から食事に誘ってるわけだから自分が出すのが礼儀というものだろう。
「マニュアル車だから少し揺れが気になるかもよ」
「いいよ!気にしない!」
「オッケー、ちょっとエンジン温めるから待っててね」
エンジン始動。スポーツカー独特の乾いたレーシングサウンドが響き渡る。
「うるさっ!落合!うるさいよ!」
小田さんは笑いながらそう言った。
「これでも一応車検通るんだけど...」
「うそだー、うるさいよ」
「そんなこと言ってたら乗せないからね」
「ごめんて、怒んなて」
お互い笑いながら冗談を言い合う。きっと他人から見ても良い仲に見えるはずだ。
そんなやりとりをしているうちにエンジンも十分に温まってきた。
「それじゃ、行こうか」
午前1時20分、少し型の古いスポーツカーは静かに(?)走り出した。