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白封大戦  作者: 十二支剣精
9/15

8話  星華、奮闘する!



 数分前。


 あたしは背にしていた大剣ガラティーンを持ち、魔力を剣に集中していた。


 地表への落下までもう少し……。


なんとか落下の衝撃を相殺したい。


そのためには……、

「刃じゃなくて、塊でいいからね~」

 あたしはガラティーンにそんな事を言ってやると大剣の魔力が揺らめく。


 これはガラティーンが「え~、やだ~」と言っているのだ。


 まったく、なんて我儘なのだろうか。


 いったい誰が魔剣にしてあげたと思っているのだろう(偶然だけどね)。


「ボカ~ンッ♪」

 そんな掛け声と共に放った大質量の水の塊が地表にぶち当たり、四散する前にあたしは水の中に飛び込む形となる。


 ある程度、落下の衝撃を打ち消せたなら頑丈なあたしなら早々死ぬ事はないだろうという安易な考えであった。


「ごぼぼぼぼっ、ぷはっ」

 あたしは周囲に四散した水から解放されると大きく息を吸う。


 ぐううううううぅぅぅぅぅっぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!

 魔剣としての力を使ったせいで、あたしの空腹はさらに加速する事となった。


 これでは、まともに動く事もできない。


「はぁ、はぁ、はぁ…………。あんた、タチ悪すぎ」

 あたしはそう言いながら、隣に転がっているガラティーンを叩く。


 ガラティーンは無反応だ。


 どうやら、あたしの体力を喰らうことができて満足したらしい。


「にしても……」

 ぐるるる………っ。

 あたしは周囲にある気配を感じ取り、冷や汗を垂らし始めていた。


「これはいけませんね~」

 周りにある気配。


 おそらく狼系のモンスターのものだ。


 だって気配の数が、数十という単位だもん。


 数十なんて言ったら群れで行動する狼くらいのものだ。


 ウルフとかが想像される。


 うん、頑張れば、もう少しくらいは動けるかな?

 あたしは力が抜けていく体を意地のみで動かして立ち上がる。


 ガラティーンを拾い上げて、杖の代わりにしながら歩き出す。


 ガサ、ガサ、ガサ……。

 草むらの中から姿を現したのはやはり、狼。


 しかし、

「はぐれ使い魔……」

 そのモンスターはウルフではなく、体中に風を纏ったモノ、水を纏ったモノ、雷を纏ったモノだ。


 炎を纏ったモノがいないのが救いというべきだろう。


 山火事なんて洒落にならない。


 今はお得意の水属性が使えないのだ。


「ユフィ~……」

 あたしは涙目になりながら、魔犬たちに囲まれていく。


 どうやら、あたしの人生はここで終わりのようだ。


 まだ、やりたいことが山ほどあるのに……。


「くっ、まだユフィーとベッドインしてないのにっ!」

 無念っ!






「人をダシに変なことを考えないでくださいっ、星華!」

 私は魔犬の群れに囲まれた星華に制裁を加えるべく、周囲にいる魔犬を切り飛ばしていく。


 手に残る違和感は魔犬たちが纏っている属性のせいだろう。


 龍の衣ほどではないけれど、それでも異様に硬い。


 ただの獣とは感触が違いすぎる。


「そうじゃ。お主は如何わしいことを考えすぎじゃ」

 私の隣でリリスが魔剣リジルを振るっている。


 相手が龍ではなくても多少の特攻が発生するため、切れ味と合わせて、だいぶ優勢のようだ。


 ただ、相手の数が多過ぎる。


「なんか、どんどん増えてくよ?」

 パリンッ!

 アイリスは手にした短剣を折られながら、周囲の様子を伺っている。


 彼女はすぐさま、胸元から新しい剣を出現させて、戦いに戻ってくる。


 実に鮮やかな動きで魔犬を翻弄する様は、正しく勇者のソレだ。


 どの使い魔がどんな攻撃をしてくるのかしっかりとわかっているように見える。


「普通のモンスターとまぐわって、急激に数が増えたんだと思います」

「という事はどこかにボスがいるのかえ?」

「なるほど。手応えがないのはそのせいか。あの頃のヤツの方が遥かに強いもんね。それにしてもこいつら食えるかな?」

 アイリスはヨダレを垂らしながら、またも折られてしまった剣を捨てて、再度剣を呼び出している。


 先程よりも魔力の質量が多い。


 猪を担いだ下着姿の美女が剣を手に大立ち回りですか……。

 場違いにもほどがあるけれど、それを言って拗ねて戦いを放棄されると困るので言葉には出さない。


 なぜだか、最近は思っても口にできない事が多い気がする。


「それよりも私にご飯を」

「ありません」「ないのじゃ」「ねぇよ」

 私たち3人は息を揃えて、否定の言葉を紡ぐ。


 若干、怒り気味なのはなんででしょう?

 自分にも覚えがない。


「もう、生の猪でもいいからさっ」

 星華がそんな事を言うと、アイリスが背負っていた猪の事を思い出して、木の幹に引っ掛ける。


 戦う前から気付いてもよかったのでは?


 やっぱり下着姿で立ち回られると雰囲気台無しですねっ!

 胸をぶるんぶるん揺らしながら、狼と交戦するアイリスはまったく意識していない。


 しかし、その動きの冴えには見習うべきものがある。


 プラスとマイナスを同時に内包しないでほしい。


「狼を食べれば?」

「先に食われるわっ」

 星華は体力が尽きかけているはずなのに盛大に腕を振り回して、つっこみを入れてくる。


 どうやら、意外と元気らしい。


「リリス、アイリス」

「「っ………、了解っ」」

 2人は私が立ち止まり、魔法を構成しているのを確認すると魔犬たちを固めるような立ち回りをし始める。


 1回の範囲魔法で全てを片付けるつもりでいるようだ。


 私的には3回は必要かと思ったのですが。

 リリスとアイリスの立ち回りが想像以上にうまくいっているため、1回の魔法で全てを片付ける事ができそうだ。


 ただ、2人共明らかに無茶をしている。


 たった2人で数十もの魔犬を相手にするなんて普通にできる事ではないのだ。


 ルオオオオオオオオオオオッ!


「「「「っ」」」」

 私たちは今までに聞いた事もないような恐怖を沸き立たす遠吠えに背筋を凍らす。


 ………いる。

 少し離れた所にこの魔犬たちの親玉が………。


 私は魔力によるサーチを行うと、事もあろうに、こちらに向かって移動している。


「いかんのぅ。今でもかなりきついのに親玉とな?」

「星華いけそう?」

「木にしがみつくので精一杯」

 星華はいつの間にか近くの木に登り、戦いから離脱していた。


「「戦え」」

「無理だしっ」

 リリスとアイリスに責められた星華は魔犬にスカートを引っ張られて、落ちそうになっている。


 彼女の手はぷるぷると、生まれたての小鹿のようになっていた。


 このままだと全滅……。

 私の魔法は当分完成しない。


 これほどの数の敵を倒すにはそれなりに式を重ね合わせ、魔力を圧縮しなければならない。


 範囲魔法を高威力で放つのは大変なのだ。


「リリス、アイリス。なんとかなりそうですか?」

「程度にもよる。ただ、咆哮に乗った魔力を感じる限りだと、サシじゃきついかもしれない」

「龍と同等の戦闘力じゃろうな」

「そうですか」

 私は奥歯を噛み締めながら、言葉を漏らし、今後の対応を考える。


 ここは魔法を中断してでも私が戦って、

「私が引き受けましょう」

 瞬間、そんな声と共に木々を飛ぶように駆けていく影が見えた。


 十字を象った大剣を背にした黒いコートの人影……。


 先ほどの少女だ。


 私はすぐさま判断を下した。


「……、任せますっ」

 私は魔法の構成に精神を集中させる。


「なに、今の美少女! 天からの贈り物っ? ベッドインありっ!?」

 星華が物凄く興奮気味にこちらに問いかけてくる。


 全然余裕そうだ。


 ちょっとお灸を据える必要がある。


「リリス」

「わかったのじゃっ!」

 リリスは私の言いたい事を察したらしく、戦闘を一時的にアイリスに任せて、星華の下まで行き、

「え?」

 星華を魔犬の群れの中に放り込んだ。


「完璧なのじゃ」

「ナイス」

 リリスはガッツポーズをしながら、戦いに戻り、アイリスは親指を立てていた。


 この2人も意外と余裕があるように見えてならない。


「もう少しですっ。派手にやるので回避の準備を」

 私は自分の魔法の完成度が九割を超えた事を2人に伝える。


「「了解っ」」

 2人の攻撃の激しさはさらに増す。


 魔犬に合わせた低めの剣閃は鋭さを増し、彼女たちの素早い身のこなしにより、一箇所に固められていく。


「なにが了解だ~っ!」

 星華はガラティーンで大きく薙いで魔犬を吹っ飛ばすと高く跳び上がり、木の枝に掴まる。


 魔犬たちの攻撃が届かないところだ。


「「ちっ」」

「あっ、今、舌打ちした~っ」

 私は苦笑いをしながら、魔法を放つモーションを取る。


 本来ならそんな事をしないのだが、リリスとアイリスに魔法の発動を知らせる必要がある。


 2人は私の動きに気付き、いつでも退避できる構えを取る。


「撃つのじゃ」

「ボカ~ンっとね」

「フロントブレイズッ!」

 ヒュオオオォォォォォォォンッ!

 瞬間、冷気でできた幻の炎が渦を巻きながら凍え上がり、一箇所に集められた魔犬たちが氷漬けとなる。


 真っ白になった風景を見渡して確認する。


 本当に一瞬の出来事であった。


 残りはいないようですね。

 私はほっと息を吐くと、木の枝に捕まった星華を見る。


 頑張って体を上に持ち上げていたようだけど、ギリギリ魔法の範囲に入ってしまったらしく、お尻が凍りついている。


「「ちっ」」

「あ~っ! また舌打ちした~っ!」

 星華は木の枝から手を離し、凍りついた大地に足を着けると、こちらに歩いてくる。


 お尻が凍っているせいで中腰だ。


 まるで老人。


「みなさん、肝心な事を忘れていませんか?」

「うむ。そうじゃったのぅ」

 リリスは思い出したようだ。


「あの謎の美少女のスリーサイズを確かめに、ぐぶっ」

「助けに行かなくては」

 私は星華の言葉を中断させて言う。


「ゆふぃ~……、さすがにぐ~は……」

 星華は涙目になりながら鼻を押さえている。

 

 天罰がくだらないのなら人の手で罰を与えなくてはいけない。


 悲しい事だけど、星華なら仕方ないのだ。


「早く行ってあげないとね」

 アイリスは剣を握り締め、少女が向かった方に体を向ける。


 しかし、

「その必要はありません」

 森の奥から姿を現したのは先ほどの少女だ。


 彼女は先ほどとほぼ同じ姿で服装の乱れすらない。


 唯一変わった事を言うならば、右手に掴んで引きずってきた巨大な狼型の使い魔くらいだろう。


 後頭部を一刺し……、おそらく一撃だ。


「だ、大丈夫ですかっ!」

「見ての通り怪我はありません。……立ち話もなんですから、場所を変えましょう」

 平静を保つ少女に対して、私は頷くことしかできなかった。


 星華は涎を垂らし(お腹が空いただけですよね?)、リリスとアイリスは私と同じように絶句していた。



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