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白封大戦  作者: 十二支剣精
8/15

7話  星華、崖から落ちる!



 白龍に襲われた村を出て、5日目。


 街道は龍とのひと騒動で滅茶苦茶になってしまったため、山道を通っていた。


 山道は岩場も多く、食料になりそうなものもないため、携帯用の食料が底をついた私たちはお腹を空かせていた。


 っていうか、あたしに至っては餓死しそうである。


「ユフィ~……、ごはぁ~ん」

 一番後ろを歩くあたしはいつものごとく、彼女のお尻に見蕩れていた。


 ぷりっぷりである。


 なんかよくわからないけど、呪いに掛かってからというもの、あのお尻に飛び込みたくて仕方がないのである。


「最後の食料を平らげたのは星華です」

「わらわの分まで食いおってからに」

「私が負けるなんて……」

 ユフィー、リリス、アイリスはじっとりとした目であたしを見つめる。


 彼女たちの目には食べ物の恨みが篭っている。


 う~ん……、怒っていますね~。


「食事は戦争。勝者にしか腹を満たすことはできないんだよっ」

 あたしはお腹を摩りながら、自慢げに言う。


 もちろん、今のあたしのお腹は空っぽだ。


 どうも愛剣が魔剣と化してから、お腹が減っていけない。


 この旅を始めて数年。


 龍との戦いに明け暮れている間にあたしの剣は魔剣へと昇華した。


 物は長年、魔力に当てられながら使われ続けていると魂のようなモノが宿るらしい。


 本来は長い年月……数十年とかけて、昇華するらしいのだが、龍のような濃い密度の魔力を発するものと対峙しているとその昇華は加速するらしい。


 おかげで戦いはすごく楽になった。


 ただな~……。

 魔剣を背負っているとお腹の減りが早くて困る。


 どうやら魔剣は持った者になんらかの呪いのようなものを付与させるらしい(ユフィーの推測だけどさっぱり(´∀`*))。


 黒龍に呪われ、魔剣に呪われて散々である。


 自慰の回数がどれほど増えた事か。


「……まあ事実ですし」

 ユフィーは頬を膨らめながら拗ねてしまう。


 本当に可愛い娘である。


 なぜ、あたしのものにならな……、こほんっ!


「あの時、グーを出しておれば良かったのじゃが…」

 リリスは忌々しげに自分の拳を見つめている。


 彼女はあの時のジャンケンを思い出しているのだろう。


「世の中間違っている」

 間違っているのは、ユフィーに呆れられて服を着せてもらえなかったアイリスだ。


 なんとか下着を付ける事ができたようだが、それだけだ。


 本当に生活不全で困る。


 おかげで生の太股を見たい放題だ。


 エロいっ!


 だからいいっ!


「……………」

 ぐううううううぅぅぅぅぅっぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!

 あたしのお腹が轟音を立てる。


 口元からはヨダレがぼとぼとと垂れており、もう限界が近づいている。


 なお、ヨダレに関してはユフィー、リリス、アイリスのお尻を見比べて出てきたものであり、お腹が減って出てきたものではない。


「星華、お腹の音は仕方ありませんが唾液は何とかしてください。はしたないです」

 ユフィーはあたしの顔を見て、顔を歪めるとため息混じりにそんな事を言う。


 お腹が空いて出てきた唾液と勘違いしたようだ。


「っていうか、すごい量のヨダレじゃのぅ。本当に大丈夫かえ?」

 リリスは金色のポニーを靡かせながら、あたしの方に振り返って、そんな事を言う。


「口元がゆるゆる……。なんか変」

 アイリスは立ち止まって振り返ると腕を後ろに回しながら、あたしの顔をずいっと覗き込んでくる。


「へ、変なのはアイリスの方でしょ?」

 揺れた。


 近づかれた時にアイリスの豊満な胸が縦横無尽に揺れた。


 服の体を成していない服から覗ける白い下着からはち切れそうで凄い。


 危うく手が出そうになった。


「私、変?」

 アイリスは自分を差しながら、ユフィーとリリスに問いかける。


「もし、自分の事を変だと思っていないのであれば、あなたの頭のネジは緩んでいますね。えぇ、かなり緩くなっています」

 ユフィーはご機嫌斜めらしく、言葉遣いこそ、綺麗だけど内容は酷すぎる。


 かなり毒の篭った言葉を吐いた。


「う~ん」

 アイリスは思考を回転させているようだが、

「………そうかもしれない」

 考える事をやめたようだ。


「わらわの見立てでもこの中ではお主が一番変じゃよ。これは断言できるのじゃ」

「1番……。さすがは私」

 アイリスは胸を張った。


 自由を求めて暴れ狂うその胸のいやらしさときたら、並び立つものなど、なかなかあるものではない。


 この4人お腹で一番大きいだけの事はある。


 もっとも全員大きいため、どの娘の胸にも不満はないのだけれど。


「いや、褒めてないよね?」

 あたしは胸を揉みたい衝動を押さえ込んで、つっこみに回る。


 いけないね、あの胸は……。


 ユフィー以上………。


 いや、でも、リリスの胸もなかなか……。

 普段は鎧を着込んでいるがリリスだが、服の下はかなり凄かったのは確認してある。


 背が低く、膨らみかけの胸、子供の柔らかさを持ったすべすべの肌………。


 子供に手を出すのはまずいけど、リリスなら……、コホンッ!


「星華、ふらふらしているようですが大丈夫ですか」

「うん。ちょっと、知恵熱を」

 えっちな事を考えすぎたかな。


 本当に体がフラフラしてきた。


 心なしか、脚も震えている気がする。


 魔剣恐るべし。


「無理をするものではないぞよ。すこし休もうかえ?」

「どういう意味っ!?」

 あたしはリリスの言葉に衝撃を受ける。


 まるであたしの頭が足りていないようではないか。


 そんなことがあるはずないのに……。


「星華の脳内には下着の色しかありませんからね」

 ユフィーは忌々しげにあたしを見てくる。


 ユフィーの下着を全て、把握しているせいで敵意を向けられている。


 そんなに怒る事ないのに……。


「肌の色も忘れずにね?」

「あらあら、こんなところに猪が……」

 ユフィーは懐に素早く手を入れると投げナイフを取り出して、崖とは反対の森の中に投げる。


 すると草の中から額を貫かれた白い猪が倒れる。


 凶暴だけど、非常に美味しいモンスター……スノーブヒーモスだ。


「これはもう牡丹鍋しかないですね。リリス、アイリス、ご馳走ですよ?」

 ユフィーは言葉を続け、2人の名を呼ぶ。


 あれ?


 私の名前は?


「「ご馳走っ!」」

 2匹の野獣(注・女帝と勇者です)が素早く、荷物の中から料理道具を取り出す。


 その手際の良さは普段の彼女たちを知っていると想像もつかないものである。


「あの……、ユフィー? ………私の分は」

「………必要ありませんよね?」

 ユフィーはこちらに振り向きもせずに猪を片手で引きずりながら、包丁を回している。


 とても怒っていらっしゃるようだ。


 ぐううううううぅぅぅぅぅっぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!

「みゅ~~……………」

 あたしのお腹が限界点を越えた。


 体中が震え、食料を求めている。


 ダメ……、ガチで限界……。


 もう……、もう…………。


「頂きますですよ~~っ」

 あたしは猪に飛びつく。


 限界だったんです。


 きっと、生でも美味しいと思うんです。


 だからいいんです。


「させぬのじゃ」

「待った」

 瞬間、あたしの前にリリスとアイリスが割り込み、………拳を振るってきたっ!


「ちょ、容赦なしっ!?」

 私は2人の攻撃を回避すべく後ろに跳び……。


「星華っ?」

「おぬしっ!」

「あ~……」

 ユフィー、リリス、アイリスが驚きの表情に変わる。


 なぜ、そんな顔をするのだろうか。


「………………あれ?」

 あたしはある事に気付いた。


 それはあたしの足元だ。


 どういうわけか、一向に足が着かない。


 しかも、段々ユフィーたちが上へと上がっていく。


 あれ……、なんで………。


 あ、あたしが下がってるんだ……。

 あたしは下を見る。


 ………ぬ?

 遥か彼方に地面が見える。


 すっかり忘れていたのだが、ここは崖沿いの山道であり、崖下は千メートル先である。


「にゃああああああああああああああああああああああああああああああっ」

「「星華っ!」」

 ユフィーとリリスの声が響く。


 しかし、あたしの体は真っ逆さまに落下を加速させており、すでに何もする事ができない。


 まずいまずいまずいぞ~~っ!


 物凄くまず~~いっ!






「落ちたね」

 アイリスは崖の底を見ながら、気のない声を出す。


「なんで、そんなにのんきなんですかっ」

 私は慌てながら料理器具を片付けて、白い猪をアイリスの背中に乗せる。


 するとアイリスは珍しく、ぎょっとした顔となる。


「え? 私なの?」

「アイリスはこの中で一番身軽です。リリスはこれ以上荷物を持たせると動けなくなってしまいます」

 ただでさえ金ピカの重い鎧を着て、剣を2本、料理器具を持っている(彼女の意思であり、私は何もしていませんよ?)のに猪を背負わせたら、亀の歩みになってしまう。


 その点、アイリスは自分の服の入ったバックだけだ。


 多少重くなっても魔力によって強化された体なら問題はないだろう。


「わらわはそんなに貧弱ではないぞよ?」

 リリスはそう言いながら、地図に目を落としている。


 この崖を降りるための道を探しているのだ。


「そうですね。……道の方はどうでしょう?」

「うむ、2キロほど行ったところに細道が伸びておるようじゃ」

 リリスは地図をしまうと指差す。


 普段から小まめに地図を見てくれれば、迷わないと思ったけれど、口にはしないでおく。


「じゃあ、行こう」

 アイリスは猪を背負いながら走り出す。


 そっけない様子であっても、やっぱり心配なようだ。


「はい」

「うむ。………しかし、お主ら(しっ)(きゃく)は使えるのかえ?」

「縮地の事ですね? マスターしているわけではありませんが直線に進むものなら」

 戦闘において間合いを詰めたり、距離を取ったりする歩法を言うけど、この場合は間合いを詰める方を継続して行うモノの事を言っている。


「完璧」

 アイリスは親指を立てる。


 さすがは勇者。


 悪魔たちと渡り合ってきただけの事はあるというものだ。


 たぶん、現時点では、この中で一番強いはずだ。


 最も戦い慣れというものもあり、龍を相手にする場合では私や星華の方が優勢なようだけれど。


「では行こうかのぅ」

 リリスはそう言うと、ものすごい速さで崖下へと通じる細道に向かって駆け出す。


 速いっ!

 ほとんど見えない速度だ。


 並みの動体視力では、どちらに向かって駆け出したのかもわからないだろう。


 私はすぐさま、彼女の後を追う。


「それにしてもまずいです」

 リリスに追いついた私は駆けながら言葉を漏らす。


「なにか問題でも?」

 アイリスは首を傾げる。


 やっぱりこの人は地図を見ない人だ。


「魔獣の森かのぅ。確かにまずい事になったわい」

「魔獣?」

 アイリスは疑問符を浮かべる。


「魔王時代の頃に生み出された使い魔です。悪魔が去ったせいで主人を失った使い魔が暴走したんです」

「使い魔は何度も戦ったけど、アレの凶暴化ってやつ? 嫌だね~、不良じゃあるまいに」

 アイリスが顔をしかめる。


 魔王時代に散々悪魔と戦ってきたアイリスは使い魔との戦闘もさぞかし豊富な事だろう。


「暴走した使い魔は周囲に魔力を放出し続けるので大変危険です」

「うむ。個体によっては環境を激変させる個体もおるようじゃからのぅ」

 一度戦った事があるので私にも覚えがある。


 凍り漬けになった森で氷の使い魔と戦った。


 もちろん勝利をもぎ取ったけど、大苦戦であった。


 三日三晩、氷の森で追いかけっこしてやっと弱点を見つけたのは今でもよく覚えている。


 星華を囮にしたのは、いい思い出です。


「見えてきましたっ、細道ですっ」

 私は崖の下へと続く細道を指差し、一番乗りで駆けていく。


 坂道であるため、加速が増す。


 1歩でも踏み外したら星華の二の前になりそうだ。


「無茶苦茶細いのじゃっ! 下手するとわらわらまで落ちてしまうぞよっ?」

「でも、歩いてられないよね?」

「はい」

 私は頷く。


 自殺行為にも程があるけれど、今回に限っては悠長な事は言っていられない。


 星華なら何としてでも転落死は阻止するはずだ。


 しかし、彼女の魔剣は空腹を加速させる。


 先程の状態では、能力を使えるのは一度きりなはずだ。


「あ、人の気配」

「え?」

 っと、そこでアイリスが言葉を漏らす。


 私は迂闊にも足音が消えてしまったアイリスの方を向いてしまった。


 ドッ!

「きゃっ!」

 瞬間、何かにぶつかった衝撃と女の子の悲鳴が聞こえた。


 私はここが細道である事を思い出し、慌てて岩の壁にしがみつく。


 っ!

 壁にしがみつく瞬間、女の子の様子がたまたま目に映った。


 縮地による目で捉える事が困難な速度による突進になってしまったはずなのに、ちゃんと私との間に自分の腕を入れ、ガードし、あまつさえ衝撃を受け流して踏ん張っている。


 かなり出来るという感想が浮かぶ。


「はわわっ、だ、大丈夫ですか」

 私は慌てながら、立ち上がって女の子に頭を下げる。


 ちらりと視線を向けて、女の子の容姿を確認する。


 ………可愛い。

 伸ばしっぱなしの黒髪に銀色の瞳、幼さの残る顔立ちをした美少女だ。


 背は140センチと小柄で、赤いスカーフ、見慣れない白い服と赤いチェックのスカート、その上に黒いコートを羽織っている。


 歳は十三か四でしょうか?


 ……それにしても、この大剣。

 少女の背には、十字を象った風変わりな大剣が差してある。


 こんな年端もいかない華奢な少女(人の事を言えた義理ではない)が大剣なんかを背負っているなんて絶対におかしい。


「すごいタックルだったのじゃが……」

「やるね……」

 リリスとアイリスは私の後ろをのんびりと歩いてくる。


 人がいるなら、もっと早くに言ってほしかった。


 自分たちばっかり安全を確保して……。

 後で2人のほっぺをむにむにする事にしましょう。


「………こちらは大丈夫です。それより急いでいるのでは?」

 少女は銀色の瞳で私を見つめ、すこし間を空けてから言葉を発する。


 もしかしたら、こちらを警戒していたのかもしれない。


 ただ、今回に限っては彼女の言葉の内容に意識がいった。


「そうでしたっ。通してくださいね」

「………」

 私は慌てて、少女を横切る。


 彼女は特に何を言うでもなく、目を伏せるだけであった。


 ぶつかってしまった事は咎めないでくれるらしい。


 まったく、星華ったら。

 星華はたぶん死んでいない。


 彼女は非常にしぶといのだ。


 ただ、怪我をしているのは間違いないと思うので早く行くべきだ。


 そうでないとモンスターの餌になってしまう。


「世話ばかり掛けるんですからっ」



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