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白封大戦  作者: 十二支剣精
6/15

5話  楽しい夕食です!



 夕暮れ、焚火を囲っての食事……。


 女帝リリスは自分で釣った魚(この1匹のために2時間ほど要した)が焼けるのを心待ちにしていた。


 ちなみに釣竿は、私が食料不足を補うために作ったものである(作ってみると意外とできるものです…)。


「スープ、こちらに置いておきますね?」

「うむ」

 リリスは私が作ったスープを受け取ると、再び魚が焼ける様を見つめている。


 こうして見ていると目を輝かせながら、おあずけをされている犬のように見えなくもない。


 犬もしくは子供といったところでしょうか?

 見ていて微笑ましく思う。


 ただ魚の方に目を移した瞬間には、星華がリリスのスープを奪っていった。


「………ずずずずず~っ」

「なに、勝手に飲んどるのじゃっ!」

 リリスは隣の星華が自分のスープを飲んでいる事に気付き、声を荒げる。


「嫁が作った料理をくれてやるわけないだろぅ?」

 星華がスープ片手にリリスに胸を張った。


 たいへん激しく揺れた。


 ……何を言いたいのかよくわかりませんが、

「誰が嫁ですか。星華はおかわり無しです」

「そんなっ!?」

「天罰が下ったのじゃ。食い意地ばかり張りおって」

「ふ……」

 星華は不敵に笑う。


 リリスはそんな星華を見て、眉をひそめる。


「な、なにがおかしいのじゃ」

「食い意地を張ってるのが、私だけだと思ったの?」

 星華の言葉にリリスが反応して、自分の魚を見る。


 ちなみに私は、

 なんで自慢げに言うのでしょか?


 そんな事を思っていた。


 呆れてモノも言えなくなってしまう。


 どこで教育を間違えてしまったのだろうか。


「っ!? こりゃっ! それはわらわが釣った魚じゃぞっ!」

 リリスは自分の魚に貪りつくアイリスを見て、顔面蒼白になりながらも激怒する。


 本当に油断も隙もあったものではない。


 もちろん、私の方は隙をみせたりなどしていませんが……、もぐもぐ。


「塩は濃い方がいい」

「誰もおぬしの好みなど、聞ぃとらんわっ!」

 リリスが徐々に減っている魚を見て、涙目となる。


 まるで捨てられた子犬のようだ。


「どうしてもと言うのなら一口くらい」

「なぜ、わらわが一口なのじゃっ!? その魚は全てわらわのもので」

「はむっ、んぐんぐんぐ」

「あぁっ」

 アイリスはリリスの魚を丸飲みするという高度な技を披露した。


 リリスはというと口を開けっ広げて涙目のまま、固まってしまう。


 なんて意地悪な……。


 いえ、食い意地を張ってるだけですよね……。

 この短い期間で見てきた彼女の人間性を考慮すると、間違いなく食い意地を張っていると言える。


 なにせ毎食、星華と食べた量を競い合って喧嘩をしていたのだから(星華が仕掛け、アイリスが仕方なく乗る…)。


「おかわりは?」

 彼女にその気がなくても、これは挑発の言葉となってしまうのは誰がこの現場を見ていてもわかる。


「…………貴様~~っ」

 リリスは怒りの形相で腰に差していた剣を抜く。


 金の柄に宝石が散りばめられた宝剣と呼ぶにふさわしい物である。


 この感じ……。

 私は喧嘩を止めるよりも剣から放たれた魔力に意識を持っていかれた。


 普通、宝剣なるものはお飾りの剣で武器としてよりも、秘めたる能力が重視される。


 だが、あの宝剣はそういう能力などの類から外れた力が感じられた。


「あれ? これって……」

「………魔剣」

 私はその剣の見た目とは打って変わっての禍々しい魔力を感じ取り、言葉を漏らす。


 星華は魔剣に気付いたようだけど、喧嘩に参加せず、見物をするようだ。


 小細工を弄する能力ではなく火力重視のものですね……。


 私たちの魔剣と同格のものでしょうか?

 感じ取った魔力的にはティルフリンガーやガラティーンと非常に似ている。


 だけど決定的な何かが欠けている気がした。


 おそらく属性を扱う魔剣ではなく、特定の種族に対して特攻を発生させる魔剣なのだ。


「喧嘩はよくないって、いつも言ってるのにな~」

「「原因が何か言ってる」」

 私と星華は冷静につっこんだ。


 アイリスは「え、私?」みたいな顔をする。


 自覚がないというのも考えものである。


「食事はみんなで楽しく分け合うものだよ?」

「わらわの魚を全部食べたのは貴様じゃっ!」

「盲点であった……」

 アイリスはこめかみに手をやり、ため息をつく。


 原因となった人がやるような動作ではない。


 これで本当に勇者なのだから世の中は間違い過ぎている。


 神様は、もうちょっと人選に力を入れるべきだと思う。


「こんっ、の!」

 リリスは高く跳び上がると、両手で握りしめた剣に魔力を込める。


 それに対して、アイリスはため息を尽きながら、右手を自分の胸元へと持っていく。


 するとアイリスの胸元の前、空間にぽっかりと穴が開く。


 あの穴はなんでしょう?

 初めて見る現象だ。


 なにせ、星華とアイリスの喧嘩は剣ではなく拳であるため、アイリスがどんな戦い方をするのかは一切知らない。


 アイリスが同行してからは龍との戦闘もなかった。


修羅(しゅら)初刀(しょとう)

 空間に空いた穴から取り出したのは極々普通の短剣。


 取り出し方意外は別段変わったところはない。


 なんかカッコイイです。

 私は短剣を構えるアイリスを見て、感動を覚える。


 ナニに感動を覚えたのかと聞かれたら、武器の取り出し方と答えるわけであり、アイリスがカッコイイわけではない。


 現にアイリスの目は眠り掛けており、かっこよさには欠ける。


 アイリスはリリスの一太刀を受け止める。


 ペキンッ!

「「弱っ!」」

 私と星華はあっさりと折れてしまったアイリスの短剣を見て、衝撃を受ける。


「っ」

 リリスは短剣を折られながらも寸前のところで攻撃をかわしたアイリスに追い撃ちをかける。


 一方のアイリスはというと、

阿修羅(あしゅら)()(とう)

 胸元に空いた穴から先ほどとは打って変わっての刀が出現した。


「っ!」

 私はその刀を見て、背筋がぞっとする。


 ……先ほどのモノとは違う。

 刀から発生する威圧感が一回り大きい。


 得体の知れない力を感じる。


 おそらく、なんらかの能力を有しているのだと思われる。


「はあっ」

「せい」

 ガギギ……、パキンッ!

 アイリスの刀が折れた音であった。


 リリスはアイリスの剣を折ると跳び下がる。


 アイリスはとくに反応しない。


「「また折れたっ!?」」

 私と星華はアイリスの折れた刀を見て、またも衝撃を受けていた。


 なんなんですか、いったい?

 理解できない事が多過ぎる。


 武器の取り出し方法もそうだけど、威圧感こそあっただけであっさりと折れてしまった。


 武器として出しているはずのものがあっという間に壊れる。


 普通に考えればあり得ない。


 自分の身を守るための武器だからこそ、丈夫………壊れにくい物を用意するのは常識だ。


 しかし、アイリスはそうではない。


「うむ、それが噂に聞く『(しん)(けん)』というやつかのぅ。厄介極まりないものじゃ」

 リリスの額には冷や汗が浮かんでいる。


 彼女は言葉を発すると剣をしまってしまった。


「その剣もなかなかに危険な代物のようだね。もう3本くらいは折られそうだよ」

 アイリスはそう言いながら、焚火のところまで歩いていくと座り込む。


 まだ残っている鍋からスープを装い始める。


 これは……。

 ………喧嘩ついでに実力を測っていたらしい。


 お互いに名の知れ渡る実力者なだけあって抜け目ない人たちだ。


「それはよい。問題はわらわの魚じゃ」

「あ、やっぱりその話は続くんだね……」

 私は再び勃発しそうな喧嘩をどうしようものかと考える。


 もちろん、いい考えなどでない。


 なにせ、食料には限りがあるのだから……。


「ずずずずずずずずずずっ」

 アイリスは自分の取り分を装うのをやめると、鍋を掴み取って、私が作ったスープを丸ごと飲み尽くす。


「あっ、それまだ、おかわりしてないよっ!?」

 許可した覚えがありませんが……。


「わらわは一口も飲んどらんぞっ!?」

 それに関しては自己責任という事で勘弁してください、女帝リリス……。

 星華とリリスがそう言い、私が心の中でつっこんでいる中、アイリスが空っぽの鍋を放る。


 あ~……、私も味見しかしてなかったのに………。

 お腹が空いているのはわかるけど、食事を用意した私の分まで食べてしまうなんて、どういう了見だろうか。


 そもそも出会って、ほんの2日足らずだというのに容赦がなさ過ぎる。


 私の飢えはどうしてくれるのでしょうか。


「魚釣ってきてもいいよ?」

「お主が釣ってこんかいっ!」

 リリスが再び剣を振り抜く。


 それに合わせて、リリスの隣に移動していた星華もガラティーンを抜き放つ。


 2人とも目がマジな感じである。


「2人分じゃ~い」

「3人ですよ」

 私は星華の言葉を訂正する。


 言葉こそ優しくはしたけれど、額の青筋は消えそうにない。


 それよりも、

「2人とも剣を収めてください」

 私はアイリスに向かって今にも跳びかかろうとする野獣2匹に向かって言う。


 魔剣というのは鞘から抜いているだけで体力を消費するのだ。


 これ以上、お腹を減らされて暴飲暴食の限りを尽くされたら破産してしまう。


「でもっ」

「それはできぬ相談じゃっ」

 2人は抵抗すべく私の方に向き直る。


 私の言葉が気に入らなかったのだろう。


「何か言いましたか?」

「「………………………いえ、なんでも」」

 2人は私の手の平で揺らめく炎を見て、身体中を強張らせる。


 彼女たちは私の手にある炎を恐れて、身を引いてくれる。


 まあ、魔力が肉眼で捉えられるくらい濃くなっているのだから危険なのは誰でもわかる。


 これを解き放てば、今いる場所は火の海になる事請け合いなのだ。


「では、みんなで釣りに行きましょうか」

 幸いにも川はすぐ近くにある。


 私は魔法の式をリセットして、みんなに携帯用の竿を渡す。


 お手製である。


「私たちも?」

「わらわは昼間、さんざん」

「何か言いましたか?」

「早く行くのじゃっ」

「よっしゃ、釣り大会だぞ~」

 リリスと星華はとてもとても楽しそうに川の方へと駆けていく。


 一方のアイリスはというと、

「みんな元気だな~」

 のんきに座っていた。


「……………………ファイアーストーム」

 その夜、炎の渦が上空まで登って行った。






「さあ、みんなっ! 今日は大物釣るまで眠れないからねっ!」

 身体中が焦げてボロボロのアイリスが涙目で釣竿を川へと向ける。


 そんな彼女の隣でユフィーが火を焚いている。


「刻み付けられたね……」

「いや、焦がし付けられたのじゃ……」

 私とリリスは横目で暴食の限りを尽くしたアイリスの変わり果てた姿を見つつ、一度は恨んだ(食べ物の恨み)彼女に憐みさえ向け始めていた。



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