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白封大戦  作者: 十二支剣精
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4話  きまぐれ勇者と迷子の女帝



 龍に襲われた村を発って、3日ほど過ぎた頃であった。


 あたしはユフィーの後ろで重い荷物を運びながら、丸みを帯びた物体を見ていた。


 お尻って、どうしてこんなに丸いのかな~……。

 ここ最近は……もとい、旅を始めてからというもの移動を繰り返している時はいつもユフィーのお尻を見つめていた。


 幸いにもユフィーは周囲に食料がないか、この道が正しいのか、モンスターに襲われないかなど、意識することが山ほどあり、あたしの事は一切気付いていない。


 大地を踏みしめる度にユフィーのお尻はふにっと動き、女性であっても抗う事ができない程に手を伸ばしたくなる(一度も触ってはいないけど)。


 魔性の魅力とは、こういうものを言うのかもしれない。


 厚着をしても溢れだす魅力……。


 ユフィーの身体はエッチだな~……。


 ユフィーからしてみたら謂れのない事である。


 っと、まあそれはいいとして………。


「ユフィー……」

「なんでしょう?」

 あたしが声を掛けるとユフィーは立ち止まって、私の方に振り向く。


 もちろん、あたしの視線はお尻から外れているのでばれていない。


「木に全裸がぶら下がってる……」

 あたしは左側の森の方、大きな木の一際太い幹にぶら下がっている全裸を指差しながら言う。


 ちなみに逆様でぶら下がっている全裸の下には、ウルフが集まっており、早く落ちてこないかと待っている。


「星華、そういうセクハラはやめてくださいといつも言っているでしょう? あれは妖精です」

 ユフィーは木にぶら下がっている全裸を指しながらはっきりと言う。


 いったい彼女の目には、あの光景がどんなふうに映っているのだろうか。


 心配になる。


「妖精っ!?」

「そうです。ああやって、ウルフを引き付けて旅する人々を守っているんです」

「そんな妖精聞いたことないよっ!?」

 こういうバカな事を言うのは私の仕事である。


 ただ、ユフィーは気が動転するとおバカさんになる傾向がある。


 もちろん、今のユフィーは顔がまっ赤だ。


 とても正気とは思えない。


「………………………、大変ですっ! 女の子がウルフに襲われてますっ!」

「正気に戻った? じゃあ、助けに………、なんで私が目隠しされてるの!?」

 突然、正気に戻ったユフィーは自分のバッグから目隠しを取り出すと私に装着する。


 ちなみにこの目隠しはマジックアイテムであり、着けた者にしか外す事ができないという非常に厄介な代物だ。


 おちおち凝視もできないよっ!


「野獣はおとなしくしているべきかと……」

「なにっ、その冷め様はっ!?」

 見えなくてもユフィーが冷たい視線をしているのがわかる。


 だって肌がピリピリするもん。


「それでは行って来ますっ」

 ユフィーはそう言うと駆け出す(音でわかる)。


 あたしはため息を尽きながら笑みを浮かべるのであった。




 なお、ユフィーが倒し損ねたウルフが目隠ししたあたしに襲いかかってきたのは余談だ。






 足首に縄が付けられ、逆様にぶら下がっていた女は木から下ろされると地面にべたりとへばり付いた。


 立つ意思はないようだ。


 なんだか、あまりいい予感がしませんね。

 心の中でそう呟くけど、すでに助けてしまったので後戻りはできない。


 それにあの状態で放置するのは心情に宜しくない。


「いや~、ありがと。お腹減って力でなかったもんでね」

 女はじっとりとした目で私たちを見る。


 もちろん、地面に突っ伏したままだ。


 なんというやる気の無さ……。

 もう、地べたにへばりついたままの態度から滲み出ている。


 でも、綺麗……。

 別に星華と同じように女の子が好きになったわけではない。


 本当の意味で美人と呼べるからだ。


 銀色の長髪に大人のお姉さんといった顔立ち、体中が引き締まっているが重要な部分がむっちりとした色気肉に覆われており、星華風に言うのなら食べ頃な身体………こほんっ!


 とても魅力のある人であった。


 ………やる気さえあれば。


「これはまたダルそうなのが出てきたよ……」

 星華はそんな事を言いながらも彼女の身体を凝視している。


 どうやら目隠しを取ったのは失敗であったらしい。


 まあ、下ろす作業は彼女にこそふさわしいわけですし、仕方ありませんが……。

 肉体労働は彼女に任せておけば問題ない。


「あの……、服とかは……」

「寝る時は全裸じゃないと寝れないでしょ? でも、見られるのも困るし、木の上に寝てたんだけど、落ちちゃった」

 彼女は頭を掻きながら、ようやく体を起こす。


 その凶悪な胸がぷるんっと揺れて、星華は幸せそうに息を吐く。


「縄で縛ってあったのは落ちないため、と」

「そうだよ。下に落ちなかったのはいいけど、あの体勢だと体動かすの大変でしょ? お腹減って力も出ないし……」

 彼女はのんきにそんな事を言うとあぐらを掻く。


 全裸で。


「女の子がそんな格好しちゃダメですっ! はしたないですっ!」

 私は慌ててそう言うも、彼女は面倒そうな顔をするだけだ。


「まあまあ、そう固くならず……。自分の家だと思ってゆっくりしてってよ」

「森の中ですっ!」

 私はつっこむが、彼女はお構い無しに話を進める。


 マイペースにも程がある。


「君たちが助けてくれてよかったよ。……服着た方がいいかな?」

「「今頃っ!?」」

 この時は私のみならず星華までもがつっこみに参加した。


 彼女は木の根元に置いてあったバッグから服を取り出すと着始める。


 ちなみにバッグのほかにも簡単な軽防具があった。


 疑問に思ったのは武器が1つもない事だ。


 黒魔導師か、白魔導師でしょうか?


 それにしては知的とは言い難い、この上なくボケた顔ですが……。

 失礼を承知でも心の中でそう思わずにはいられなかった。


 それに杖も持っていませんし……。


「下着つけてくださいっ!」

 私は涙目で訴えた。


「持ってないから」

 彼女はそう言って、服を着終えると軽防具を纏う。


「そう言えば自己紹介がまだだったね? 私はアイリス……。アイリス・フィン・フリードだよ」

「「勇者(様)っ!?」」

 まさかの発言に、私と星華は乗り出してしまう。


 彼女が名乗った名は『()なる(なな)勇者(ゆうしゃ)』……、魔王を討伐した者の1人と被ったからだ。


 ……な、なんて現実。


 これがあの人の周りにいる勇者様?

 底知れないガッカリ感のようなものが沸いた。


 この全裸で逆さ吊りになっていた人が勇者……。


 言っても誰も信じてくれないだろう。


 ただ、私は疑う事なく信じてしまった。


 そういえば、あの人の周りは変な人ばかりでしたっけ?

 初めて会った時も悪く言うと変人を連れていた。


 いくら彼がいい人であっても、そのレッテルは砕く事ができない。


 それほど印象が強いのだ。


「アイリスでいいよ? それで君たちは?」

 アイリスはそう言うと、私たちの方に視線を向けてくる。


 無茶苦茶興味なさそうな目だけど、実際に他人には興味を持たないだろう。


 自己紹介するのを憚ってしまう人物に出会ったのは生まれて初めてだ。


「ユーフィル・メリアスです」

「天城星華だよ」

「へ~……、『重奏魔(じゅうそうま)剣使い(けんつかい)』に『水閃(すいせん)』か~。これも運命って奴かな?」

 アイリスは私たちの事を知っているらしい。


 そんなに有名になった覚えはないけれど、知る人は知っているようで、旅をしている間にも私たちの事を噂で聞いた人と何度か会った事がある。


 気恥ずかしいけど、どんな噂が流れているのか興味ある。


「私たちって、そんなに有名人だっけ?」

 星華が疑問符を浮かべる。


 まあ、今の通り名を聞く限り、有名になっているのは私たちが持っている魔剣のような気もするのですが……。


 ティルフリンガー……か。

 おそらく、この世に存在する剣の中で唯一、どんな事象が起きようとも、折れるどころか刃こぼれ1つする事のない『不壊属性』を有している。


 それでいて龍との戦いを繰り返している内に魔剣に昇華し、どんな属性でも付与できるようになった。


 神話に謳われる魔剣にも引けを取らない。


「ここに来る途中に耳にした。桜色の髪をした美少女と短髪のアバズレが」

「美少女……」

「誰がアバズレだっ!」

 星華がアイリスのほっぺたをムニムニする。


 しかし、アイリスは気にしていない様子だ。


「乳繰り合いながら龍を倒す旅をしてるって」

「えへへ~、照れるな~」

「乳繰り合ってなんかいませんっ!」

 星華がアイリスの頭をなでなでし、私が2人のほっぺたをムニムニする。


「それで2人はなんでこの道を? ここから先は寒いから、あえて旅をする人なんて稀なんだけど」

「………白封大戦です。アイリスもそうなんですよね?」

「はくふう? ……あぁ、それだよ。私もそれに参加するつもりでここまで来たの。目的は同じようだし、一緒に行かない?」

「それは構わないのですが……」

 言ってはなんだが不安で仕方がない。


 なんと言っても星華より面倒が掛かりそうな人であるからだ。


「何か問題でも? ………あ~、私は役に立たないよ?」

「初めから役に立たない宣言されましたっ!」

「ユフィー……、乗りかかった船だよ?」

「星華に言われたくないですっ!」

 星華という泥船を沈まないようにするので必死なのに、この上、まだ仕事をしろというのだろうか。


 鬼ですか!


「……………無理にとは言わないけど」

「大丈夫です。一緒に行きましょう」

 私は意を決した。


 正直に言うとこの人だけにしたら大戦に間に合わなそうで不安だからだ。


 戦力は多い方がいい。


 なんと言っても今回戦う敵は龍たちの王、九大龍王の一角なのだから。


「助かる」

 彼女はそう言いながら自分の荷物を背負うと私たちの方へ歩み寄ってくるのであった。






 アイリスを旅の友に加えて2日目の事であった。


 とりあえず、彼女に服を着せて眠らせるのは無理という事以外は普通の女性であった。


 それなりに常識も持っているし、怠けたりもしない……なんて事はない(眠気がある時は特に)。


 星華よりは大丈夫な人であった。


「こっちでいいのかな?」

「違います。左側の道のようです」

 私は地図を見ながら、そちらに行くように言う。


 彼女もまた星華同様に方向音痴であるようだ。


「あ~、やっぱり君たちがいてくれて助かったよ。私は自分1人で目的地まで行けた事はないからね」

「この人、私よりバカだっ!」

 星華は衝撃を受ける。


 あなたも相当なものなのですが……。

 とは口が裂けても言えない。


「アイリスは魔王と戦った事があるのですよね? どのような方なのですか?」

 私は彼女と会ってからものすごく気になっていた事を聞く。


 それは気になるだろう。


 一度は世界を手にした魔王……。


 どんな方なのか気になるに決まっている。


「う~ん……、ぶっちゃけ今この世にいる人間じゃあ勝てないような奴かな……。何といっても強い」

 アイリスはなんとも言い難い顔をしている。


 なんとも言い難いアイリスがなんとも言い難い顔をするのだから常軌を逸した強さなのだろう。


「勝ったんですよね?」

「勝ったというより、勝手に降参したっていう方が正しいかな?」

「降参したのっ!? ………え、ちょっと待って。魔王生きてるのっ!?」

 星華が目を見開きながら問いかける。


 あまりに衝撃の事実に、私は言葉を失っている。


「生きてるよ? 今頃、(こう)()を追いかけてるんじゃないかな?」

「紅至さんをですかっ!?」

 紅至とは魔王を倒した………事になっている魔力を持たない青年の事だ。


 ちなみに私は彼とは幼い頃に面識があり、命を救って頂いた事がある。


「紅至は罪な男だよ。あんなに美女ばかりに追い掛け回されて……」

 アイリスはものすごくダルそうな目をしながら、過去にあった事を思い出しているようだ。


 彼女の過去に何があったのだろう。


 ふ、深く聞くべきではないですよね……。


「ちゃんと働けよ……」

 星華がため息交じりに言う。


「働いてるよ? だって、もう片方の龍王『灼炎(しゃくえん)(りゅう)(くん)』ヴィラールの足止めをしてるみたいだし」

「火龍種の龍王をっ!」

 星華は素っ頓狂な声を出してしまう。


 しかし、それも仕方のない事だ。


 火龍種は龍族の中で最も凶暴であり、その王と戦おうとしているのだ。


 足止めと言えども、命懸けである。


「そんなわけだから、こっちも頑張ろ?」

 アイリスは気楽に言うが、事の重大さが本当にわかっているのだろうか。


 どうも彼女は気楽過ぎる気がする。


「「………はい」」

 私はどっと沸き上がった疲れで肩を落としてしまうのであった。


 事実は小説よりも奇なり……ですね。






「すまん。道を尋ねたいのだが良いかのぅ?」

 少し進んだ分岐路のところで止まっていたのは、金髪ポニーテールの少女であった。


 少女はとても煌びやかな装飾が施された黄金の鎧を着込んでいる。


 腰と背には1本ずつ剣があり、どこからどう見ても戦士のそれである。


 ………綺麗。


 ……だけど。


 きっと場違いとは、こういう事を言うのだろう。


 そして、非常に嫌な予感も拭えない。


 例えるなら私の布団に潜り込もうとする星華が連想される(別にいやらしい意味ではなく、嫌な予感での方だ)。


「「ユフィー、出番」」

 私は星華とアイリス(いつの間にかあだ名で呼ぶようになっていた)に押されて前に出される。


 彼女たちは完全に面倒事を押し付けてきたと言ってもいいだろう。


 2人の夕食は半分ですね……。

 もちろん、私が残りをすべて食べる事はない。


 そんな事をしていたら、あっという間に太ってしまう。


 女性とは自分の重さに気を遣ってしまう生き物なのだ。


 決して私が太っているわけではない。


 断じて、である。


「はい。私もこの地域には詳しくないのですが、わかる範囲でなら」

 私はいつものごとく他人に対しても笑顔で接する。


「リコリスという街にはどう行けばよいのじゃ? ちと用があって行かねばならんのじゃが……」

 金髪ポニテの少女は独特な喋り方でそんな事を聞いてくる。


 もしかして、この子も……。

 目的地といい、身に纏っている鎧といい、明らかに目的が被っていそうな雰囲気であった。


 なにより纏っている魔力からタダ者ではない事が見て取れる。


「大戦に参加するのですか?」

「うむ、当然じゃ。そうでなければ、こんな飾りの鎧など着まい?」

「ただの飾りっ!?」

 私の後ろにいた星華が驚く。


「そうじゃ。こういうモノを着ていないと他の者に舐められると部下たちに言われてのぅ」

「部下?」

 アイリスが首を傾げながら彼女の顔を覗き込む。


「うむ、わらわは女帝じゃからのぅ。威厳がないと示しがつかんそうじゃ」

「「またしても大物(です)っ!」」

 私は帝国をまとめる女帝だという少女を見て、驚きの声を漏らす。


 狼狽し過ぎて、挙動不審になっているかもしれない。


 な、なな、なんですかっ!?


 この道はっ!?


 凄い人ばかりふらふらとっ!


 まあ、1人はぷらぷらと風に揺られていたわけであるが……。


「威厳って……。部下は?」

 アイリスはなんとも言い難そうな顔をしながら問いかける。


「そ、その……。ちょっと……は、花摘みにと、馬車を出たら………」

「「置いてかれて(る)(ます)っ!?」」

 私と星華は予想外の事実に衝撃を受けてしまった。


 女帝少女は顔をまっ赤にしている。


 なんてドジな人……。

 まあ、私もうっかり星華に餌をやるのを忘れてしまったりするので人の事は言えないわけなのだが……。


 そう、あくまでもうっかり。


「………そ、そんなことないのじゃ! 皆の者が気付かなんだだけじゃ!」

「いや、恥ずかしいから気付かれないように抜け出したんじゃないの?」

 アイリスは女性として、ごく当たり前の事を言う。


 この人がそんな事を言うなんて……。

 とても茂みに入るのが面倒だからと歩いてる最中にその場へ座り込む狂人の言葉とは思えない。


 星華を押さえつけるのに毎度、苦労させられているのは言うまでもないでしょう。


「っ! ………そうであった」

 女帝少女は頭を抱えて蹲る。


 なんとも哀れな光景であった。


 一国を束ねているはずの女帝とは到底思えない。


 偉い人は皆、抜けているのでしょうか?

 決して自分が偉いと思っているわけではない。


 ただ、純粋にそう思っただけだ。


「……………一緒に……行く?」

 星華はなんとも言い難そうな顔をしている。


 彼女自身、あまり気乗りはしていないのだろう。


 それでもそう問いかけたのは彼女なりの優しさか、憐みのどちらかだ。


 星華が面倒事を自ら……。


 まあ、結局のところ私に回ってくるのでしょうけど……。

 私は星華の成長に感動するが途中、自分への責任転嫁に気付いて気を落とす。


 それさえなければ、素直に褒めてあげられるのに……。


「良いのかえっ?」

 女帝が目を輝かせる。


 その表情が太陽のごとく眩しいのは、彼女がこちらに期待のようなものを向けているからだろう(そんなに期待されても困りますが…)。


「はい。旅は道連れといいますからね……」

 私はそう言いながら、短い旅の仲間に手を伸ばす。


 女帝はその手を取ると嬉しそうに名乗った。


「わらわはリリスじゃ。リリス・アルクゥ・ランディア」

「よろしくお願いします♪」

 私はいつも通り笑みを浮かべる。



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