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白封大戦  作者: 十二支剣精
12/15

11話  クロンちゃん、パネェ!



「おっぱ~い☆」

「やかましいですよ、星華」

 私、ユーフィルは村で一番安い宿で部屋を選ぼうと話し合いを開始しようとした矢先、飛び込んできた星華にアイアンクローをかます。


 魔力による身体能力の強化はこういう時に便利である。


 だって、か弱い私でもアイアンクローができてしまうのですから(クロン談・果たしてアイアンクローを躊躇なく行う少女がか弱いのかは謎である)。


「あぐぁっ!」

「ここ最近、星華の扱いが雑になっておるのじゃ」

 鎧を脱ぎ捨てて、薄いシャツ姿のリリスがなんとも言い難そうな顔で私と星華を見比べる。


 鎧を脱ぎ去ったリリスは一回りどころか、二回りくらい小さくなったように感じる。


 きっと本人に言ったら拗ねてしまうだろう。


 なお、アイリスは立つのも面倒なようで床に突っ伏して動かない。


 傍から見たら意味不明集団ですね……。


「私、誰と一緒でもいい」

 アイリスは首だけを動かして私の方に視線を向ける。


 ちなみにここは宿の中とはいっても玄関であるため、他の旅人も行き来しており、奇怪な目で見られている。


 この状況に慣れつつある自分が嫌になりますね。


 額に汗が浮かぶのを察し、心の中でため息をつく。


「それは星華と同じ部屋でも構わないというのじゃな?」

「……………まあ」

「今の間は何!?」

 アイアンクローをされている星華が激反応する。


「わらわは嫌じゃぞ。星華は危険過ぎるでのぅ。それにわらわには決まった殿方とユフィーがいるので却下じゃ。……ちらちらと胸を見るでないのじゃ!」

 リリスが私の指の間から瞳を覗かせる星華をチョキで突く。


 見事である。


 それにしても決まった殿方だなんて大胆な事を言う。


 私にも決まった殿方がいればな~。

 私は妖狐さんの事を思い出しながら頬を緩める。


 この胸の内で疼くモノが恋である事はちゃんと理解している。


 私は素直な乙女である。


 自分の気持ちに目を逸らすことはしない。


 妖狐さんに会いたい。

 言葉にすれば星華が騒ぎ出すので胸の内だけにしておく。


 しかしである。


 私も年頃の乙女だ。


 そ、その……、淫らな事の7つや8つは仕方がないのである。


 具体的にい………、失礼しました。


「ぎゃあああああああああああああ! 目が~っ、目がぁぁぁ~~~~!!」

 星華が足をばたつかせるのでアイアンクローをしている腕の力を強くする。


 星華はビクンと体を跳ねらす。


「星華はうるさいので静かにしていてください」

「…………」

 私の言葉で星華は黙る。


 現状では私に反抗しても勝ち目がないと悟ったようでおとなしくなった。


 いつも、こんなふうにおとなしくしていてくれればいいのだけれど。


「取れた部屋は2つ。2人部屋と3人部屋。どう、組んだらいいのでしょうか」

 私はそう言いながら、クロンの方に視線を向ける。


 彼女は近くの椅子に腰掛けてお茶を啜っている。


 渋い感じです……。

 この子は歳の割に落ち着きすぎている気がする。


 おまけに他人の思考でも読んでいるかのごとく、相手の考えている事を的確に察し、対応してくる。


 こんな子はなかなかいるものではない。


 お嫁さんにほしい。


「仕方がありません。星華さんは私が受け持ちましょう」

 クロンはそう言いながら立ち上がると星華の首根っこを掴んで彼女の頭を自分の胸に押し付ける。


 傍から見てもその柔らかさが見て取れるほどに星華の頭は胸の奥へと沈んでいく。


「むひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 星華が不意に発生した至福の時を受け入れて、黄色い声を上げる。


 指を湧き湧きさせていたがすぐにクロンの腰に腕を回してホールド。


 離れないようにする。


「「「なっ」」」

 私たちはクロンの想像を絶する行動に衝撃を受ける。


 一方のクロンは全く動じていない。


 絶えない笑顔が眩しい。


 なぜ平静を保っていられるのだろうか。


「ふふふっ、えいっ♪」

 クロンは星華の頭を自分の胸に押し付けたまま、身体をゆらゆら………違うゆさゆさと弾ませて、さらに埋没させていく。


 わざと揺らしてクロンの柔肌が星華の顔を包み込んでいく。


「ひもふぃい……、んん~~~~…………」

 星華もクロンの腰に回していた腕の力を強くし、その柔らかさを堪能し出すが、すぐに動きがなくなった。


 まるで糸を切られた操り人形のごとくだらりと両手を垂れ下げている。


「幸せ過ぎて息をするのも忘れてしまったでしょう? ……って、聞いてないですね♪」

 クロンは妖艶な笑みを浮かべるとそう言いながら星華を解放する。


 幸せそうな星華の顔を見ているとどうしても腹が立ってしまう。


 嫉妬ではない……はず。


 私には妖狐さんという想い人がいるのだから。


 なお、リリスとアイリスが締め落とされた星華の脛を容赦なく蹴っている。


 私も便乗して蹴ってもいいのでしょうか。

 とは思うものの乙女にあるまじき行為をそんなに簡単に容認していいはずがないため自制する。


「クロン……、恐ろしい子なのじゃ」

「肉を切らせて骨を断つって、こういう事を言うんだね」

 リリスとアイリスは恐怖しながらも星華への攻撃はやめない。


 クロンの胸に顔をうずめるという行為がよほど羨ましかったのだろう。


 確かにアレほど立派な胸なら同性でも惹かれてしまうのは仕方がない事なのかもしれない……のでしょうか?


 私はというとクロンの両手を取る。


 ゴツンッ!

 気を失った星華がクロンの腕から零れて床に額をぶつけるけど本人は起きないので気にしない。


 っていうか自業自得である。


「私にもその技の伝授を!」

 私はクロンに頭を下げてお願いするのであった。


 そんな私の頭の中には星華と旅をしてきた日々の記憶が浮かび上がっていた。


 いつもいつも服を剥ぎ取られる毎日。


 メンバーが増えて以降はそれも収まっているけれど、いつ再発するかわかったものではない。


 今のうちに手を打つべきである。


 もはや星華を力で抑えるのには限界が来てますからね。


 多少の犠牲は止むなしです!

 今回のアイアンクローも滅多なことでは決まらない。


 よって新しい技が必要なのである。


 この地べたで伸びているエロの権化には力だけではダメなのだ。


「確かにユフィーには合っているかもしれませんが」

「どういう意味ですか!?」

 その言いようでは、まるで私が淫乱だと言われているようではないか。


 断じて私は淫乱ではない。


 星華と一緒にされては困る。


 まあ、妖狐さん相手ならやらない事もないというか、頼まれればやるというか、むしろ率先してやるというか……。


 い、いけません!

 なぜか妖狐さんと密着していちゃいちゃしている姿を思い浮かべてしまう頭を振る私。


 これでは星華と同類ではないだろうか。


 間違っても私と妖狐さんの関係は純粋でなければならない。


 もちろん妖狐さんの求めであれば不純であることも辞さないけれど。


「自分の身体について思い当たる事があるのではありませんか?」

 しかしクロンは真面目な顔つきのままである。


「………………気付いていたんですね」

 まさかこんな短い期間に、それもなんの発作も起こしていないのに気付かれるなんて思ってもいなかったので、私は心の底から驚愕する。


 私と星華の呪いに気付いている。


「はい」

「……やはり影響するのでしょうか」

 私は不安になって聞いてみる。


 確かに呪いの力を戦闘に活かす技術などもあるのだから可能なのかもしれない。


 職業を確認された時だろうか。


 あの時であれば、少しだけ反応してしまったかもしれないけれど……。

 あの時の事を思い出して、急に恥ずかしくなり頬を染めてしまう私。


 本当に今更である。


「より凶悪な効果をもたらすかと」

 クロンは苦笑いをしている。


 彼女ですら有り余るほどのモノになるという事だろう。


「ぜひ、伝授を! 今から2人で温泉など!」

「「私も」」

「後でお願いします!」

 私はリリスとアイリスを突っぱねる。


 さすがに大勢に自分の体を見られるのは恥ずかしい。


 乙女にそんなことができるはずない。


 ………え?


 すでに乙女ではない?


 またまた、そんなことを~♪


「「即答!?」」

 2人は衝撃を受ける。


 私はというとクロンの手を引いて温泉に向かうのであった。


 余談ではあるけれど、生のクローゼ・T・ルージュは想像以上に凄かった。






 翌日、クロンの事が心配になった私たちは朝食の時間になっても全く起きてこない2人の部屋へと突撃……、ではなく訪問をした。


「あは………、あはは………、あははははは」

「「「……………」」」

 言葉を失うより、ほかに何もなかった。


『『『これは星華が壊れても仕方ない(です)(のじゃ)(な~)』』』

 心の中の言葉が見事にハモッている事に気にもしない私たちがベッドの上の2人を見る。


 ベッドの上には、大の字で幸せそうにヨダレを垂らす完全夜更しな星華と彼女に抱きついて耳たぶをはむはむしながら未だに目を覚まさないクロンの姿であった。


 星華の方はちゃんと下着を身につけているが(ちゃんと?)、クロンは素っ裸であり、周囲に服が散乱している。


「これ、明らかにクロンの寝相が悪い感じなのじゃ。星華がいかにエロくてもコレなら勘違いできぬ」

「寝る前に話してた時、服着てたよね? 寝てる間に脱いだのかな?」

「この寒い中、素っ裸とかどうかしとるのじゃ。……肌もっちもちじゃ」

「クロンがやけに大きな寝袋を使ってる理由がわかったね」

「そういえばクロンのやつ、わらわたちより目を覚ますの遅かったのじゃ。アレはそういう理由かえ?」

「ユフィーが甘やかすから。甘やかすなら私の方がいいのに」

 リリスとアイリスがなんとも言い難そうな顔で交互に言葉を発する。


「星華をここまで追い込むなんて……。クロン、恐ろしい子」

 私も若干、恐怖心を覚えなくもなかったけど、基本的にクロンはいい子なので今までと同じ対応をする事を神に誓う。


 触らぬ神に祟りなしです!


「わらわたちはどうするのじゃ?」

「寝よ」

「今回は賛成します」

 っというわけで私たち3人はクロンが起きるまで、のんびりと惰眠を貪る方向で話をまとめて2人部屋を後にする。






 残された少女はというと。

「助け……」

「ぱぁぱ~……、ちゅううぅぅぅぅ~~~~~っ」

 未だに夢の世界でパパに甘える爆乳ロリ少女は現実世界において、残された少女の耳たぶを吸い始めた。


「ひゃう!」

 変な断末魔の悲鳴と共に残された少女は気を失うように眠りに就いた。






 珍しくのんびりとした朝を過ごした私たちは長い眠りから覚めた寝ぼけ顔のクロンのほっぺたをむにゅむにゅして覚醒させる。


 そして、もう1人ベッドで横たわる下着姿の少女のお尻を3人で順番に引っ叩いて起こし、朝食を食べさせる。


「今日も素敵な朝ですね♪」

「「「「そうですね」」」」

「良い1日になるといいなぁ」

「「「「そうですね」」」」

「皆さんもそう思いますよね?」

「「「「そうですね」」」」

「………今日のユフィーの下着は布地の少ない真っ赤な蝶蝶ですね」

「「「そうなのっ!?」」」「く、クロン!?」

 なんでクロンが今日の私の下着を知っているんですかっ!?


 この子、心の中が読めるのでは!?

 私が狼狽している中、クロンはなんとも言い難そうな顔をしながら朝食をとり続ける。


 一方の3人は私の下着の話で盛り上がっている。


「真っ赤な蝶蝶……。って事は最近、買ったやつだ」

「……お主、なんでそんな事知っとるんじゃ?」

「でも、見てみたい気がする」

「確かに身につけてるところはまだ見てない!」

「お主ら正気かえ!? ……ま、まあ、偶然見えてしまったら仕方がないかも知れぬが」

 この人たちは後で張り倒しましょう。






 そんなこんなで旅支度を整えた私たちは村の出入り口へと到着する。


 そこには村中の人が集まっており、村に泊まっていた旅人たちに声をかけて呼び止めていた。


「お願いします、どうか!」

「勘弁してくれよ! そんな怪物、勝てるわけないだろ?」

「この村の戦士たちは奴を追い払うだけで精一杯。疲弊しております。どうか、討伐を」

「無理だって。ほかを当たってくれ」

 この村に泊まっていた旅人たちは口々にそう言って、その場を去っていく。


 残された者たちの表情に映るのは絶望。


 もはや、希望の光は無いものだと諦め切ったモノであった。


「あの、なにかあったのでしょうか?」

 ドンヨリとした空気の中、私たち5人は飛び込む。


 明らかに空気読めない感じなのは重々承知しているけど黙っていては話が進まない。


「いや、なんでもありません」

「まさか、こんな少女たちに頼むわけにもいきませんので」

 声をかけられた村人たちは一瞬だけ目に光を取り戻したけど、私たちのナリを見て、すぐさま光が消える。


 確かにこの女の子集団では、討伐依頼をするのは憚られますよね……。


「えと、私はともかくとして、この方々は『重奏魔剣使い』、『水閃』、『心剣の勇者』『龍絶女帝』ですので龍関係のお悩みであれば、解消してくださるかもしれませんよ」

 クロンが助け舟?を出してくる。


「「「「「「「マジでっ!?」」」」」」」

 村人たちが一斉に反応する。


 っというよりもビビりまくっちゃってる。


 確かにすごい通り名ですからね……。


『龍絶女帝』とか………。

 噂で聞いた時にドン引きした事を覚えている。


 そして実物だと言われて乾いた笑いを漏らしたものだ。


「そちらの黒いコートの方は『黎剱(れいけん)』殿では?」

 っと、そこで村人の1人が言葉を漏らす。


 ふっくらと太ったおじさんだ。


「「「「れいけん?」」」」

 今度は私たちが言葉を揃える番であった。


「はい……。ここ最近、この付近の龍を狩り出していまして……。この古い剱が黎いので『黎剱』と呼ばれるように……」

 クロンは黒いコートの下から古びた剣……否、剱を取り出して撫でる。


 すると剱から黎い魔力が湧き上がる。


 間違いなく魔剣だ。


 それも私たちが使うものとは違い、かなり危険度の高い……。


 リリスが背に差してるモノと同じ次元のモノですね。

 今まで素手で戦っていたクロンの武器はとんでもない代物のようであった。


 もしかしたら使用に際して、なんらかのリスクがあるのかもしれない。


「「「「あぁ~……、なるほど」」」」

 私たちはクロンに対してジト目を向ける。


 きっとクロンならそれくらいの事は造作もなくやってのけるんだろうなと思ったのだろう。


 クロンは「はぅ」っとかなる。


 私たちでも事前に罠とかを準備したり、優位に立てるフィールドを選べば龍を狩り出す事もできなくはないけれど、クロンなら出会い様に戦闘開始しそうだ。


「この方々なら……」

「ああ、倒せるかも知れない!」

「お願いします、どうか倒していただきたい龍がいるのです!」

 村人たちが口々に言い、頭を下げてくる。


 彼らに瞳にようやく、光が戻った。


 そう、希望の……。


「お話、聞かせてください♪」

 私は微笑むよう表情を緩ませ言葉を出す。



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