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白封大戦  作者: 十二支剣精
11/15

10話  仲間との旅路です!



「皆さん、ごはんですよ♪」

 その日の夜、調達先不明の食材によって調理された料理が私たちの目の前に並んでいた。


 黒いコートを脱ぎ去り、エプロン姿となったクロンは天使と呼ぶに値するほど美しかった。


「「「………………」」」

 3人の美女は目の前に並べられた墓場………ではなく料理を見て、恐怖のあまりに………ではなく嬉しさのあまりに言葉を失っていた。


 まあ、言葉を失いますよね……。

 私も一緒に料理を作っていて、あれれ?っと思ったものだ。


「どうかされましたか?」

 クロンは笑顔のまま、首をこくりと横に傾ける。


 そんな仕草も乙女らしくて素敵だけど、どうしてあんな見た目の料理になってしまったのだろう。


「いや、これは食べ物なのかな~って思って」

「………あからさまにアレというか」

「墓場なのじゃ」

 星華、アイリス、リリスは額に汗を浮かべながら、手に持つお箸やフォークを震わせている。


 そりゃ、トカゲやナマズなどがぐちゃぐちゃになったようなモノを目の前に出されたらドン引きもする。


「はい、そうですね♪」

「「「自覚してる(のじゃ)っ!?」」」

「大丈夫ですよ? 味見はしましたから。後は口にする勇気だけです」

 私は笑みを浮かべながら3人に料理を勧めてみる。


 なお、目の前に広がる墓場……料理は私が作るものを遥かに凌駕するおいしさであり、心の中で涙を流したほどだ。


 なんであんなものが美味しいのでしょうか?

 見た目を視界に入れた段階で息が詰まる。


 しかしである。


 いい匂いがするため自然と鼻が動く。


 私のような乙女にすら、はしたない行為を強要するかの如き暴力的なまでの美味しそうな匂い。


「心が折れそうなんですけど」

「食べ物として認識できない……」

「同意なのじゃ」

 ガクブルする3人。


「早く食べてください……ねっ!」

 料理の前でたじろぐ星華を捕まえたクロンはそのまま彼女の口を無理やり開いて、料理を詰め始める。


 鮮やかな手際……。


 ………私よりも鬼畜ですっ。

 バタバタと抵抗する星華の手が時々クロンの豊満な胸に触れているのはよろしくないので後で制さ……注意する事にしよう。


「ぐぶ………」

 ばたっ!

 星華はその場でぶっ倒れた。


「「っ!?」」

 アイリスとリリスが同時に立ち上がる。


 しかし、クロンはすでに動いていた。


「ふんぎゃっ!?

 リリスに足払いをかけて転ばせると足蹴にし、抵抗するアイリスの手を取ると引き寄せ様に料理を口の中に押し込む。


「ふふふっ」

「がばば………」

ばたっ!

 アイリスがその場で崩れ落ち、リリスの前に倒れる。


「ひっ、ユフィーよりやばいのじゃ」

「どういう意味ですっ!?」

 私は思わず反応してしまった。


 どうして私がリリスの中でやばい判定されているのだろう。


 どこをどう見ても乙女だというのに……。


 問い詰める必要がありそうだ。


「そんなことありません。ユフィーも私もとても優しいですよ?」

「むぐぐ……」

 クロンはそう言いながら地に這いつくばった女帝の口に料理を押し込む。


 その光景は物凄くよろしくないはずなのに笑顔のクロンを見ていると考えが揺らぐ。


 まあ、仕方がないことなんですよね。


 ………たぶん。


「はい、その通りです。それでは私たちも頂きましょうか」

「はい♪」

 私とクロンは頷き合う。


 視線を3人に向ければ目がキラキラと輝き始めている。


「「「うまっは~~いっ♪」」」

 料理の味を知って、復活した3人が墓場………ではなく料理を貪り始める。


 本当に鞍替えが早い。


 彼女たちは美味しくたくさん食べられればそれでいいのだ。


「おかわりもあるのでどんどん食べてください」

 クロンはそう言いながらナマズのような生き物の目玉を口に運ぶ。


 なんであんな平然と食べれるのでしょうか……。

 理解不能である。


 一体全体どんな生活を送ってきたのだろうか。


 そこら辺のところは後ほどじっくりと聞かせてもらおう。


「「「わ~い♪」」」

 目をキラキラさせながら返事をする3人の心……胃袋はすでにクロンによって掌握されたと言っても過言ではない。


 十四歳の少女は半端なかった。


「その代わり、ちゃんと言う事聞くんですよ?」

「「「うん」」」

「クロン……。恐ろしい子」

 私は身体を震わせながらクロンに視線を向ける。


 クロンは私の視線に気がつくと親指を立てる。


「パパに習ったので鞭も使えますよ? でも、そういう躾はあまりしちゃだめだって」

「クロンのパパは一体何を考えているのでしょうか?」

「小さい頃からあらゆる環境で生き残る術を叩き込まれました。鞭は支配権得るために必要だと」

「途中から言いたい事の意が理解できなかったけど、気にしないことにします」

 世の中には知らなくてもいい事が山ほどあるのだ。


 主に星華の頭の中。


 ただ、クロンがどのような教育を受けて育ってきたのかは気になる。


 あらゆる環境で生き残る術……ですか。

 魔王時代を経験した父親が必要だと思い、いろいろな事を身につけさせたのだろう。


 彼女の父親は相当な使い手且つ、生活能力が優れているに違いない。


「それがよろしいかと。………それでリコリスの街への道なのですが」

 クロンは自身が持っていた地図を広げると山道を指差す。


「あ、はい」

「こちらの山道はホーリードラゴンの龍光咆で崩落しています。少し危険ですが、こちらの道を通られた方がよろしいかと。今の戦力なら問題ないですし、近道にもなるでしょう」

「なるほど、アリですね。………それにしてもホーリードラゴンですか。迷惑極まりないですね。街道で戦い出しちゃった人もですが」

 現在、あまり戦いたくない白龍だ。


 レベルが13~14に達する個体が多く、大苦戦は間違いない。


 私と星華の2人だった頃であれば、よほどの事がない限り戦闘は控えていたレベルだ。


「う、うん。ごめんなさい……」

「ホーリードラゴンと1人で戦ったんですかっ!?」

「いえ、たまたま通りかかった女性だけの軍隊と将軍さんに助力を頂きまして」

「ル~のヤツ……っ。わらわを探さず、勝手に進みおってからに……」

 リリスの額に青筋が浮かぶ。


 物凄く怖い。


「「「なんとも言い難いんですけど」」」

 私、星華、アイリスの言葉がハモる。


「初見で龍光咆を放たれたのは想定外でしたが、おかげで十秒でカタがつきました♪」

 クロンは満面の笑みでガッツポーズを取る。


 歳にあった可愛さなのに話の内容は歴戦の騎士クラスなのはなぜだろう。


「「「「もしかしなくても一撃っ!?」」」」

「魔法の一斉放射をしてもらいまして、龍の衣が減衰した箇所をサクッと♪」

「私の専売特許が……」

 星華がガクリと肩を落とす。


「勇者の中にも魔法が爆散した瞬間に飛び込むような怪物はいない」

「わらわより荒っぽいのじゃ」

「なるほど。防御を削いで攻撃……ですか。まともな方法ではありませんが」

 どんなに防御力の高い龍でも魔法を受けた箇所は一瞬だけ龍の衣が薄くなる。


 無数の魔法を同じところに受ければその効果は絶大。


 そして龍の衣が失われた瞬間に攻撃をしたのだろう。


 という事はレベル13クラスの龍鱗を一撃で粉砕したという事に……気にしない事にしましょう。


「そんなわけなのでこちらの道を行かれた方が」

「とりあえず、そちらへ行きましょう。危険地帯を通り過ぎてすぐのところに村もありますし」

「久々にまともな寝床か~」

「うん。寝袋はね~」

「お主の寝袋は破けておるからの~」

 どうしよもない会話を始め出す。


 っという話の流れによって、龍との遭遇率の高い危険地帯へと踏み込むことになったのですが……。


 龍の出現頻度、遭遇した際の数は格段に増したはずなのに移動ペースが衰えることはなかった。


「クロン、怖いのじゃ」

「いやいやいや、女帝が怖いとか言っちゃダメっしょ。威厳とかあるしさ。その点、あたしは心置きなく怖がれるし」

「悪夢を見そうで寝れない」

 リリス、星華、アイリスの3人は本日十四度目の龍との交戦において傷一つ負わずに3体の内の2体を片してしまったクロンにビビっていた。


 もちろん私はビビっていないという事はなく、心の中は半泣きである。


 この子、いったいどんな教育を受けたの!?

 2体の龍を相手に終始笑顔を絶やさず圧倒する姿たるや物語や伝承に語り継がれる勇者、英雄も顔負けしてしまうほどである。


 もはや勇者や英雄が影と言っても差支えはない。


 そういえばこのパーティには魔王を倒した勇者の1人がいた気がする。


「魔力はともかく筋力は皆さんの方があるので慣れればコレくらいはちょちょいのちょいとできてしまうかと」

 クロンは小首を傾げながら可愛く微笑む。


 確かにクロンは戦い慣れている。


 間合いの取り方。


 大胆な駆け引き。


 手数の多さ。


 どれをとっても私たちとは比較にならない。


 この子がいれば魔王をもっと簡単に討ち取れたんじゃあ……。


「慣れれば……」

「いったいどれほどの時をかければ良いのじゃ?」

「昼寝の時間が惜しい」

 3人は個々の反応を見せる。


 一方のクロンは涼しい顔をしながら、すでに歩き出している。


 私たちはすぐに彼女の後を追う。


「クロンは本当に戦い慣れしてますね」

 私は彼女の隣に移動すると声をかける。


「毎日、自分より強い人達と戦っていましたから」

 クロンの表情がちょっぴり歪む。


 まるで「どうしてこうなっちゃったんだろう」っとでも言いたげである。


「それにお料理とかも、しっかりできますし」

 見た目はアレですが……。

 頭の中にちらつく墓場のような光景を振り払う。


「パパは家を空ける事が多かったので自然と身に付いたんです」

「苦労をされているんですね」

「そんなことはありません。皆さんだって苦労をされているのではありませんか? 少し前までは悪魔たちが世界を支配していたんですし。私はずっと森の中だったので何もわかりませんが」

 クロンは申し訳なさそうに言う。


「やっと、魔王が倒されたと思ったら龍王大戦だもんな~。どいつもこいつも自分勝手なんだから」

 星華は歩きながら文句を言う。


「せっかくですし、使い勝手のいい特殊魔法を教えておきましょうか?」

「ぜひ、お願いします!」

 私が知っているのは世に出回る魔法のみである。


 個人で開発したような魔法は持っていない。


 クロンの戦闘を見ていると見たことのない魔法ばかりを使っているので気になっていた。


「この中で魔法を使えるのはユフィーとリリスだけですよね? ユフィーは………魔剣士と」

「あの、私は魔法剣士で」

「多分違いますよ」

 クロンは立ち止まると私の体を撫で回し始める。


 顔、肩、胸、腕、腰、太股、足と至るところに手を這わせて不意に揉んだりする。


「はぅっ!」

「「「おおっ」」」

「なっ、………変な目で見ないでくださいっ」

 私はどよめく3人に釘を刺すけど、耳に入っていないようである。


「ふむふむ………、感度は良好。……………なかなか濃いですし、結構………」

「あ、あのっ! く、くろ………ひゃう! ら、……らめれすぅ~………」

 私の体がびくんびくんと痙攣を起こし出している。


 これはあくまでも、くすぐったいだけでほかに疚しい事などなにもないのである。


 重ねて言う。


 これはあくまでもくすぐったいだけで、ほかに疚しい事など断じてなにもないのである。


 滴り落ちた体液は誰も気付いていないので本当に良かった。


「コレは……、ホントにこんな職業が存在しているんですね……」

 クロンの手がぴたりと止まり、ようやく私もしっかりと息ができる。


 クロンからはまったく悪意が感じられない。


 星華とは違って素のようだ。


 こんなふうに辱められたのは妖狐さんの時以来です……。

 あの時はコレの比ではなかったので、今回はなんとか意識を保てた。


「ぬ? なにかわかったのかえ?」

「ユフィーの戦闘スタイルを見せてもらった時に魔剣士である事はすぐに気付きました。攻撃と速度に偏っていましたし、距離の取り方や立ち姿は完全に一致していましたので。ですが、ユフィーは魔法を使います。そこでデュアルジョブ、もしくはトリプルジョブである可能性を考えていたのですが……」

「何そのカッコいいやつ!? 私もそうなの!?」

「違います」

 クロンは星華に見向きもしなかった。


「即答された!」

 星華はショックを受けて、両手両膝をついて項垂れる。


「続けます。憶測になってしまいますが、ユフィーの職業はかなり特異なものです。魔法使い系のものが普通なら妥当ですが、体を巡る魔力の流れがかなり荒いので魔法剣士や勇者などの職業を想定しました」

「では、魔法剣士であっていますね。さすがに勇者ということはないでしょうし」

 私はほっと息をつく。


 勇者でもないのに勇者なんて職業になってしまってはさすがに気恥ずかしい。


「いえ、魔法剣士や勇者などに比べると魔力の濃度がとても濃いです。おそらく魔法を使うことに特化した勇者………差詰、スペルブレイバーっといったところでしょう」

「「「スペルブレイバー?」」」

 私、リリス、アイリスは疑問符を浮かべる。


 まったく聞いたことのない職業であった。


 そもそも、魔剣士という職業ですらピンと来ない。


 ま、まあ、あまり勉強してきませんでしたからね。


 私が知っている職業なんて8つあるかどうかである。


「なにそれ!? 魔法に特化した勇者ってこと!?」

 落ち込んでいた星華が激反応する。


 立ち直りが早いことで……。


「言葉的にはそれで正しいです。………こんな職業を持った人と出会うのは初めてですが」

 クロンはなごり惜しそうに私をまさぐっていた両手を離す。


 どうして、わかったのかというと目元がちょっとだけしゅんとなっていたからである。


 この子ホントに可愛い……。

 この子ならもう少し触っていても許せる。


 え?


 星華はダメですよ?


「そんな職業が存在するの? っていうか、私勇者なんだけど」

「アイシスはすっぴんですね。その勇者としての力である炎は精霊の魔力でしょう。体のどこかに紋章が刻まれているのでは?」

「………お尻の辺りに」

 アイシスがなんとも言い難い顔をしている。


 彼女がこんな顔をするのも珍しい。


「あひゃひゃひゃひゃっ! うける~!」

 星華がアイシスを指差してゲラゲラと笑い始めた。


 アイシスは無言で星華のほっぺを引っ張るけど、笑い声は収まらない。


「お主、職業を見分ける事ができるのかえ?」

「基本は戦闘スタイルを見ていればわかります。特殊なものも相手に触れて、肉質や魔力の流れ方、濃度を調べることで把握できます。ただ、リリスの職業は知り得ません。理由はリリスが一番良くわかっているはずです」

「おぬしはほんによぅわかっておるのぅ」

 リリスは自分のことを理解しているクロンに対して若干、恐れ慄いている。


 クロンはぺろっと舌を出す。


「え、え、リリスもすんごい職業なの!? なんかずるい!」

「むっふん!」

 リリスが星華に対して背丈が小さい割に大きな胸を前に突き出す。


 黄金の鎧を纏っているため、星華はお得意の乳揉み攻撃ができないでいる。


 いっその事、私ももう一度鎧を着てみましょうか?

 動きが遅くはなる上に重いのが難点だけど、星華の攻撃は完全防御できるという強みもある。


 以前は重たい鎧を着込んでいた時もあったけど、旅の途中で脱ぎ捨ててしまった。


 あの時は死にかけましたからね……。

 今でも忘れない。


 レベル14の黒龍と交戦し、死ぬ寸前まで追い込まれた事を……。


 もしも、妖狐さんが割り込んで来なければ間違いなく死んでいたはずである。


 その時に呪いを半分解除してもらったのだ。


 しかし、残りの半分を解除するのは今は無理だと言われ、時間がほしいと言われたのである。


 私たちの目的を聞いた妖狐さんは同じ場所に向かうので、もう一度会いに来るように言って去っていった。


「それでは魔法を教えましょうか。………グラビテーションというものです」

「重力制御系の闇魔法じゃのぅ。わらわも闇属性ならばある程度は習得しておるが重力制御系は苦手じゃな」

 リリスは苦い顔をしながらそんな事を言う。


 彼女の魔力はすこし変わっている。


 昼間は白いけれど、夜は真っ黒いのだ。


 きっと職業が関係しているのだろう。


「闇属性には相性がありますからね。スペルブレイバーはおそらく全属性を使用できるので闇属性も問題ないでしょう。……では、私の手を握ってください」

「はい、失礼します」

 私はクロンの手の平に自分の手の平を当てる。


 小さく温かいその手にはとても硬い竹刀胼胝ができている。


 私のモノとは比較にならないほどに硬い。


 どんな修行をしたらこうなるのでしょう……。


「手の平で式を組み上げますのでナゾってみてください♪」

 クロンは微笑む。


「はい…………………、すごく複雑です!? そして早過ぎる!」

 式自体は真似できないほどではないけれど、構成が早すぎて追いつけない。


「あ、すみません。もう少しゆっくりですね」

 クロンは私の手をぎゅっと握りながら、式を組み上げる速度を落としていく。


 しばらくすると私の手の中で式が完成していた。


「実験台は星華でいいですね」

「え? ちょ、ま」

「ぐらびてーしょん♪」

 間髪入れずに問答無用で魔法を使用した。


 グシャ!

 瞬間、星華が地面に這いつくばって泣きそうな顔をしだした。


 ま、まあ普段の行いが悪いので天罰ということにしておきましょう。


 はい、それがいいです。


 まさか、このような効果があるとは思ってもいなかったのである。


 てっきり、重力の塊みたいなものを打ち出す魔法だと思っていたのだ(注・それも危険であることに変わりはありません)。


「グラビテーション」

 すると隣のクロンが星華に魔法を描ける。


 すると星華にかかる重力が倍加されて、地面にめり込み始める。


「重さを無くすのではないのかえ!?」

 リリスがショックを受ける。


 一方、クロンはにこにこしながら口を動かす。


「今回は重さを倍加する方にしてみました♪」

「なんて悪意のない笑顔……。ユフィー、この子は逸材」

 アイリスがクロンの頭を撫で回す。


 クロンは頬を染めながらにこにこしている。


 一方の星華はと言うと、

「………………」

 真っ赤な顔をして固まっていた。


「ちなみに合法的に下着を見れるからいっか~なんて考えているようでしたら、そんな事はありません」

 私は星華の視線からスカートの中を覗かれている事にすぐ気付き、覚えたての魔法・グラビテーションでさらに重力を倍加させた。


 幸い、この位置では見えているのは私のものだけだろう。


 ……失敗しました。


 ……黒のスケたやつにしちゃいました。

 私は恥ずかしさのあまり首から上を赤く染めながら星華を睨みつけた。


 親指を立てているところが腹立たしい。


「ぎゃあああああああああああっ」

 星華が断末魔の悲鳴を上げ続けるので私はクロンに視線を向ける。


「あ、式の組み方を真逆にしてみてください。そのまま、真逆の効果がでます。効果範囲を絞り込めば、対象のみに効果を発生させる事もできます」

「グラビテーション」

 私は早速、効果を逆転させて、星華単体に魔法をかけてみる。


 すると星華の体が浮遊して、風に流されて飛んでいってしまう。


 あれ……今………、気のせい?

 ほんのりと感じた違和感。


 きっと気のせいだろう。


「ちょ! 浮き過ぎ~~~~~~~~~~~~~~!」

 星華は浮遊感で体の制御が効かなくなっており、逆さまのまま、風に飛ばされている。


 幸いにも今、向かっている方角なので追いかける必要はないはずだ。


 もっとも偶然、龍が飛んできたら………。


 まあ、大丈夫でしょう。


「魔力を込めすぎると飛んでいっちゃいます」

「言うの遅くない?」

「えへへ♪」

「クロンいい子」

 アイリスとクロンは漫才のようなやり取りをしている。


 クロンのこのノリの良さはこのメンバーの誰とでも相性がいいらしく、誰といる時でも楽しげである。


「たまにはこういうのもよかろう。お主も言っておったではないか、歩くのめんどくさいと」

 リリスは空に浮かぶ星華を見上げながら、のんきにそんな事を言う。


 他人事とはよく言ったものである。


「そういう問題じゃな~~~い!」

「羨ましい」

 アイリスがそう言うとクロンの方に視線を向ける。


 クロンはニコニコしながら魔法を構成し始める。


 どうして私の方ではないのでしょうね。


 聞いても答えは帰ってきそうにないので黙っておく。


「グラビテーション」

 クロンは苦笑いをしながらアイリスの重さを調整した。


 浮遊するほど重さを抜いていないようであった。


 ま、まあクロンは私に教えるくらいですし、これくらいできても……。

 ちょっとだけ悔しかったりするのはきっと我侭なのだ。


 心なしかクロンは私を見て苦笑いしている気がする。


 察しの良過ぎる子というのも考えものかも知れない。


 ちょっと恥ずかしい。


「体重を半分にしました。どこかに飛んでいかれたら困りますので歩くのはやめないでいただけると」

「わらわにもかけてくれたのかえ?」

「私もです」

 私とリリスは自分の体が軽い事に驚き、その場でぴょんぴょんと跳ねる。


 単純に軽くなったのではなく重力に影響を与えているせいなのか体の動きがふわつく。


「なんだか胸が不自然な動き」

 アイリスが自分の胸を側面からぱんぱんと叩く。


 すると普段とは比較にならないくらいぽよんぽよんと弾む。


 アイリスの胸はこのメンバーの中で一番大きい上に彼女自身が背が高いため、胸がどうしても視界に入りやすいのでその迫力は凄い。


 きっとリリスの視点でアイリスの胸を見ると、もっと凄い事になっているに違いない。


「なんだか、面白いですね。水中でもこんなふうには動かないでしょう」

 私は腰元を左右に捻らせて、自分の胸を揺らしてみる。


 なんだか不自然な揺れが面白い。


 妙にゆっくりとしているというか、ふわふわしているというか、なんだかえっちな感じである。


 これ、星華がいたらとても喜ぶんでしょうね……。

 そんな星華も遥か彼方、空の向こう。


 本当によかった。


 ………本当によかった。


「ぬ? 星華が落下したようじゃぞ?」

 リリスは遠くの空を眺めて、のんきにそんな事を言う。


 やはり他人事である。


 私たちは再び歩き出し、しばらくすると星華を見つけた。


「なんであたしがこんな目に……」

 道端の木にぶら下がっていた星華はだらんと項垂れている。


 アイリスと出会った時の事を連想するのは、このメンバー内では私だけの特権である。


 あの時も酷かったです……。


 えぇ、酷かったです。

 星華は想像以上の体験に心が追いついていないようであった。


 挙動不審というか、頭がフラフラと揺れている。


 ま、まあ、私もあのような体験はごめんですからね………。

 風に流されている中、龍にでも出会ってしまったら一口でばくりと行かれることだろう。


「はよぅ、下りて来んかい」

「まだ、頭の中が揺れて……。うぷっ」

「汚い」

 アイリスはそう言いながら心剣を取り出すと星華が引っかかっている木の枝に投げて星華を落とす。


 乱暴なやり方ではあるけれど、星華なので問題ない。


 これがリリスやクロンであったなら抱きとめていた。


 あ、リリスは鎧着てるのでやっぱり除外で。


「すみません、すこしやり過ぎたようですね」

「ユフィー酷いよぅ~。ふえぇぇぇぇぇん!」

 星華が堪らず泣き出してしまった。


「あ、あ、ごめんなさい。ちょっと意地悪し過ぎちゃいましたね~」

 私は慌てて、いい子いい子する。


 これじゃあ、本当に子供の教育をしてるみたいです……。


「なんだか慌ただしいのぅ」

「いつも通り」

「私、余計な事をしてしまったようですね。次からは私で試し打ちをするようにしてください」

 3人は個々に反応を見せる。


 らしい反応であった。


「ユフィーが下着くれるなら許す」

「3人とも、先を急ぎましょうか」

 私は膝に顔を埋める星華をほっぽり出して道に戻っていく。


 道草ばかりくってはいられない。


 まだまだ先は長いのである。


「「「は~い」」」

 3人もあっさりと頷いて、私に続く。


「ま、待ってよ! ちょっとだけ言い過ぎたかもしれない」

 星華が慌てて取り繕う。


 しかし、私に取り付く島はない。


「ちょっとどころではないのじゃ。お主に脱ぎたてはまだ早いのじゃ」

「誰もそこまで言ってないよ!?」

 リリスに意味不明なつっこみをされて星華が激反応をする。


 いったい、いつから脱ぎたての話になってしまったのだろうか。


「脱がそうなんてもってのほか」

「さらに悪化した!?」

 アイシスに侮蔑の視線を向けられてショックを受ける星華。


 誰も脱がさせてあげるなんて言ってないのに、これまたどこから出てきた話なのだろうか。


 ……なお、星華辺りにそう問いかけると「パンツの中から出てきたんじゃない?」と真剣な顔で言うので聞いてはいけない。


「代わりに私の物をあげようかとも思ったのですが、今日は履くのを忘れていまして」

「それはそれで問題!?」

 なんだか、3人と星華が後ろで騒がしく話している。


 クロンまで一緒になって……。


 あ、あれ?


 なんだか聞いちゃいけない事実を聞いてしまった気が……。


 そんな話に聞き耳を立てながら、長い道を軽い体でスラスラ行く事しばし(星華には私たちの体が軽くなっていることは言っていない)、

「あ、見えてきたようです」

 私はようやく視界に見えてきた村に指を差しながら、みんなに急ぐように促す。


 近くに龍の気配があるからだ。


 龍の垂れ流す魔力が周囲に居る生物に無差別な威圧として伝わる。


 嫌な予感を起こさせるものだが龍だと認識できてしまう事から察するにかなり強い白龍で間違いない。


 さすがに何の理由もなく村を襲って来る事もないでしょう。


 少なくとも私たちが魔力を溢れさせでもしなければ好奇心を刺激する事もない。


「急ごうかのぅ」

「どうやら、近くにいるのはバニッシュドラゴンのようです」

 クロンは風に乗って流れてきた白い魔力を手で触れて分析している。


 ほとんど薄れて無いに等しい魔力から相手を特定するなんてどういう技術なのだろうか。


 っとはいえ、

「レベル15の白龍です!?」

 私はショックを受ける。


 今、この場でそんな怪物に出会ってしまったら勝てるか怪しい。


 例え、勝てたとしてもこの付近一体は消し炭、村も巻き添えになるだろう。


 相手が悪いにも程がある。


「さすがにヤダ。逃げる」

 アイリスが珍しく、その大きな胸を大きく揺らしながら走り出す。


「「アイリスが走った(のじゃ)っ!」」

 星華とリリスが激しくショックを受ける。


 もちろん2人もアイリスに続いて即座に走り出す。


 みんなバニッシュドラゴンとの戦闘は避けたいのだ。


「仕方がありません。来る途中に細工しておいた罠を作動させましょう」

 クロンはそう言うと指をパチンッと鳴らす。


 すると小さな火花が今まで通った道を勢いよく逆走する。


 まるで導火線を走る火花のように。


「なにをしたのじゃ、クロンよ。あの火花は一体」

「十キロほど離れたところにある罠を作動させました」

 っと、同時に遠くの方で爆音が響き渡る。


 クロンが仕掛けたと思われる罠が爆発したのだ。


 単純な炎属性魔法と思いたいところだけど、ここまで音が響いてくる事を考えるとレベル5の最強爆裂魔法フレアだろう。


 フレアのような高位魔法を罠なんかに使うなんて……。

 クロンの常識をかけ離れた感性に思うところがあるけれど言うのはやめておく。


「これで消龍の意識はあちらに行ったでしょう。今の内に」

 クロンは慣れた様子で村の方へと駆けていく。


 私たちは舌を巻くような想いで彼女と共に村へと入っていくのであった。





 お久しぶりです。


 ……気まぐれな投稿で無仕分け御座いません。


 メインはノクターンで投降しておりますゆえ、ご容赦下さい



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