93 冬也の怒りの拳
何とか辿り着いたようだ、しかし…
リーナはボロボロだった。
お出かけするからと皆で可愛いらしい服を選んだが、ところどころ裂け、土埃で汚れてしまった。
そして、この愛らしい顔も赤く腫れ、吐血もあるようだ。
体の方もあちこちから血が出ており、辿り着いたはいいが…間に合わなかった。
リーナに即座にハイヒールを掛け、念のため異常解除もかけておく、
「後は俺に任せて。」
「…はい…」
そう言ってリーナは意識と失った。
「彼女を頼む…」
「分かったにゃ」
アル達も負傷しているようだ。そして、腕を切りつけられたこれまたボロボロの男の子もいる。俺は皆に範囲回復を掛け、下がるように指示する。
「……」
「……」
相手は魔族のようだ。ヘルクから情報の有った暗殺者か?
俺は身を焦がすほどの怒りを感じながら、冷静な部分で分析する。
また俺の友達を守れなかった。
腕を切りつけたということは衣服に刃物か暗器を仕込んでいるという事だな。
こいつ許さねぇ!
殺し屋のくせに一思いにリーナをヤらなかったのは、女の子にしてやられてプライドを傷付けられたから?
ボコボコじゃ済まさねぇ!!
素早さはそれほどでもないようだな…
色々と考えが交差するが、どうやら敵も動き出すようだ。
「降魂術」
(九錠院、奴を読めるか?)
(今のままでは難しいです。どうやら相当な実力を持つようでしばらくかかりそうです。)
九錠院の能力は、能力差があるほど容易に発動できるが、差があまりない、もしくは相手の方が上だと発動率はかなり低くなる設定だったな…
(なら、相手を弱らせるからよろしく。可能な限りすべて読んでくれ。)
憤怒している自分、冷静な自分、殺意を持った自分、それら全てがアイツをどうにかしたいという思いが一致した。
「?!」
みぞおちに拳を打ち込む。しかし相手は咄嗟に腕を間に入れてくる。
打ち込んだ衝撃で少し距離が出来た。相手が地に足を付ける前に雷撃魔法を放つ。
「フッ!」
奴が拳で迎撃しようとしている。しかし、普通そんなことをするか?
(あのグローブは魔術をはじいたりできるのか?)
威圧を発動する。
「??!」
俺は普段、スキル猫かぶりを発動している。そのおかげで、やたらめったらと周りを威圧しないでいることが出来る。じっちゃんによると、魂の位階が上がった俺は、何もしなくても一般人に酷い圧迫感を与えるらしい。
今回はこのスキルを取り消し、即座に威圧を掛ける。
相手は急に大きくなった俺の気に気を取られ、魔法を迎撃できずに真面に喰らう。
「うがあっ!!」
そして出来た隙を突き、降魂した雷真族の武術を雨のように叩き込む!
「奥義芯撃ち」
この奥義は、相手の芯を打ち、打ち込んだ衝撃を相手の体内から逃がさないようにする技だ。まだまだ成功率は低く、1000回やって1度成功するかどうかだったが、どうやら100以上打ち込んで1度だけ成功したようだ。
「ぐふっ」
ただ一度だけで十分!その威力は想像を絶する!!
敵はそのダメージでさらに隙を作る。
「呆然」
追い打ちで相手の意識に空白を作り、雷撃を纏った魔纏術で拳を強化、そして相手の喉笛に加減無しで打ち込む!!
「?!…っぐ」
打ち込む時に相手の右腕を左手で引いていたため、さらに威力は倍加している。そして、意識を途切れさせ、崩れ落ちる相手の顔面に、渾身のアッパーを喰らわせ、落ちてきた相手に合わせて、その頭蓋に本気で踵落としを決める。
ドゴッ
地面にクレーターを作り、相手は沈黙した。
「読み込みが完了しました。」
「ありがとう九錠院。」
動き出さないよう、傀儡の魔法を掛け、撃退完了!




