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51 シルバの無念



 私は汚れた人間だった…





 今から30年以上前のことだ。私はスラム街で日々を生きるのに必死だった。生きるためなら何でもした。殺し、拉致、潜入…スラムの元締めから渡される金で、必死に食い繋いでいた…




 それなりの修羅場をくぐった私は、討伐者になろうとした。しかし、こんなスラム街の人間が、登録出来るのだろうか?


 登録できた。早速モンスターの素材回収に乗り出す。スラムでの経験が、モンスター相手にも生きた。





 2年経った。4級討伐者になった。そして、掛け替えのない相棒を手に入れた。ある時、彼女が見たことのないモンスターから攻撃を受けた。何とか退け、王都に帰る。だが、彼女の様子が変だ。


 調べた結果、そのモンスターは毒を持っているらしい。徐々に体が弱っていき、おおよそ1月から2月で死に至る。大変珍しい事なので、薬も存在しないらしい。私は絶望した。彼女は徐々に弱っていく。


 1週間経った。ようやく希望を見つけた。過去同じ症状になった者が、薬がないにも関わらず生き残ったことがあるらしい。その患者や森のとある植物をよく食べていたようだ。早速出かける。






 必死の思いで、その植物を見つけた。街には無かったので森で探すしかなかった。そして、帰り道、モンスターに襲われている集団を発見した。大した強さではないが、かなりの数に囲まれている。恐らく途中で仲間が集まってきたのだろう。


 私は時間を掛けたくなかったが、行く手を塞いでいたので助力せざるお得なかった。何とかモンスターの包囲網を突破し、私達は逃げた。


「助かった。何かお礼を…」


「気にするな。」


 時間が惜しいので相手が言い終わる前に彼女の下に走った。


 彼女はもう既に立ち上がれなくなっていたが、その植物をすりつぶし、与え続けていると、2,3日で何とか容体は落ち着いた。私は彼女にプロポーズした。



「君無しの人生は考えられない。俺と一緒になって欲しい。」


「嬉しい…でも…討伐者はもうやめて…私も貴方を喪ったら…」


 しかし何の技術もない私は、討伐者以外で収入を得ることが出来るのか?早速職を探してみるが、なかなか見つからない。途方に暮れ王都の広場にある噴水の前で項垂れていた。


「やっぱり、俺なんかを雇うところなんてないよな…」


 スラム出身の礼儀も何も知らないゴロツキを雇うところなどない。


「なら俺に雇われないか?」


「?」


 そこにはこの間偶然助けた奴が居た。


「最初は見習いだけどな。」


 これが若かりし頃のフォーチャー家先代当主との出会いである。















 月日が経った。妻は、あの時の毒の影響か、体が弱かった…3年の結婚生活で彼女を喪ったが、双子の子を私に残してくれた。息子と娘もいずれフォーチャー家にふさわしい使用人に育て上げてみせる。






 さらに年月が経った。現当主のフリオ様からミトリーの街に来て欲しいと通達があった。なんでも、タリアお嬢様が度々屋敷を抜け出すため、彼女を止められ、尚且つ陰から守れる者が欲しいという事であった。


 子供達も使用人としても経験を積んで、一人前になっている。私が居なくても大丈夫だろう。私は新たなる地に行くことを決めた。










「何でシルバには見つかってしまうのです!!?」


 タリアお嬢様が憤慨する。


「それが仕事ですので…」


 私は荒れからも経験を積み、隠密術に関しては、この街でも5指に入ると自負している。タリア様は頬を膨らませ、


「絶対にあなたを出し抜いてみせます!!私にはリーナの傍に居る義務があるのですから!!!」


 私はお嬢様の護衛任務にやりがいを感じていた。




 しばらくするとお嬢様から気配が感じられないことがたまにあった。


「??」


 何かが変だと思っていると、どうやら魔術を覚えたらしい。本人はただただ、気配を消すことだけを求めていた結果だが…恐らく闇属性の魔術…そして、隠密術も私から学んだらしい…この方は天才だ!



 それから私はただ捕まえるよりも、さりげなく教えるように身の振り方を考えなおした。正直反省している。しかし、独力で技術を習得したお嬢様の成長を見るのが楽しみになってしまったのだ。


 お嬢様は魔術を使っているご自覚が無かったので、そのことをお伝えする。


「!?…とうとう私も魔術を使えるようになったのですね!!」


 花のような笑顔を浮かべるお嬢様を見ていると、私もより一層この方の成長を手助けしたいと思いだした。今は反省している。





 闇魔術というのは使い手が限られている。世間一般のイメージが良くないためだ。そして、適性を持つ者も少ない、貴族令嬢という立場上、このことを知られることは非常に都合が悪いので、お嬢様には口外しないようお願いした。


「それでは…教師を付けてもらうことは…」


「不可能でしょう。もし、他の者に知られれば、今のような行動は出来なくなるでしょう。それ程貴族令嬢としてのイメージが悪いのです。」



 お嬢様は意気消沈していた。だが、自分の中で折り合いをつけたようだ。


「ならば、この魔術を屋敷を抜け出す為だけに使います!!」


 早まったと思った。そこから魔術と隠密術を駆使したお嬢様に出し抜かれることが多くなった。とは言っても、屋敷の中で止められないだけで、いつも屋敷から出るルートは同じだ。最近はそこで待ち伏せをするようになった。今日もお嬢様は屋敷を抜け出す。



「ご隠居様、タリアお嬢様の件ですが…」



 前々からトレーター家で見習いの現場研修をしているが、その中にお嬢様の護衛として、何人かを交代で入れるようになった。さらに、街のいたるところに、衛兵の派出所を作った。流石ご隠居様…行動が迅速でらっしゃる。


「分かりました。屋敷を抜け出した後は大通りを堂々と通ります!!」


 屋敷を無事に抜け出せたならば、お嬢様の勝ちとし、止めないことを条件に、大通りを通ることを了承させることにしたようだ。 







 数年経った。お嬢様は美しく成長なされた。しかし、カトリーナ上のご両親がお亡くなりになったことで、ご自分を責めてらっしゃる…





 学園に入学することになった。私もお供として王都に同行する。



 


 ご友人が亡くなったようだ…日に日にお嬢様から笑顔が無くなっていく…


「私は大丈夫です。」


 そう、寂しそうな笑顔を浮かべる。私はまた昔のようなお嬢様の笑顔を取り戻したいと思うようになった。










「それでお父様?話とはいったいどのような事でしょう。」


「うむ…お前の嫁ぎ先が決まった。」


「!?…」





 お嬢様の嫁ぎ先が決まったようだ。どうやら、政治的な理由で隣国に行くことになったらしい。


「貴族の娘としての義務を果たしてきます。」


「私もお供させてください。」


 まだ、成人もしていないのに、貴族としての義務を果たそうとするこの方を傍で支えたいと思った。






 向こうからの要請で、供の数は不自然なほど少なかった。


「構いません。」


 お嬢様はそう仰られた。


 そして、隣国に向かう…この頃から何か頭が靄がかったような違和感が付きまとうようになった。






 お嬢様は学院で虐げられているようだ。


「大丈夫です。耐えてみせますわ。」


 しかし日に日に追い詰められていく。そんなお嬢様を見ていることが出来なくなり、フォーチャー家に手紙を送る……何度も何度も…しかし、返事が届くことは無かった。



 確実に届けるためにはどうすればいいのか…それは自分達で持っていくこと…しかし、人数は限られている…


「お父さん、私が届けてくるわ。」


 お嬢様の身の回りの世話をするのに娘が私と共に同行していた。娘にも武術の手ほどきはしている。ここは娘に任せよう…






 しかし数日後、娘は変わり果てた姿で発見された…酷い暴行を受けたようだ。体は傷だらけだった…身ぐるみを剥がされたようで、全裸で路地裏に転がっていたらしい…



 娘の躯を国に帰す為、ということで、私はこの国から出ることになってしまった。必死に抵抗したが、お嬢様からもそうしなさいと言われ、帰らざるお得なくなった。



「直ぐに戻ってきます。」







 道中何者かに襲撃を受けた。何度も何度も…私はお嬢様の下に引き返そうとしたが、そうしようとする度に何故か頭が霞みがかり、引き返す気にはならなかった…



 ミトリーの街に着いた。娘を弔い、御屋形様に現状を報告しようとした。はて?何を報告するべきだったか…







 時が流れた。おかしい、何か心の奥で違和感が常にあり、どうしようもない焦燥に囚われる。



 ある時庭に出てみた。ここで○×◆△☆様にあれを教えたな…何かがあった気がするが思い出せない…のど元までくるのだが…


 






 大通りを歩く。ここで○×◆△☆様の護衛を務めたことが昨日のことのように…




 トレーター家の館…○×ア△☆様は、よくカトリーナ嬢の下に通っていた…?誰が通っていたんだ?



 館の図書室に行く、此処では様々な本がある。ご隠居様の趣味だ。元々ご隠居様に拾われてからの子フォーチャー家に世話になっている、そして、子供達…娘は…何故娘はあのようなことに…この街に帰る道中、幾度となく襲撃を受けた。相手は手練れの様子…明らかにそういう訓練されたものだった。私は娘に手紙を託した。それが無かった…もしやそれが目的で娘は…


 ならば私は何を伝えようとしたのだ?…誰かの危機を知らせるため…



 冷汗が滝のように流れる。何か取り返しのつかないことが起こったような…



 私は屋敷の中を駆ける。皆そんな私を見て驚いているが、どうでも良い。今動かなければ、この疑問を解決できないと思った。いろいろなところを見て回る。そして、


「何故西側には近づけないんだ?」


 無意識に屋敷の西側から離れていることに気が付いた。私は西側に向かう…ここにあるのは○リア△☆様の部屋…


「?!」


 私はドアを開ける。



「!!?タリアお嬢様!!!!」


 そこは、私が仕えるお嬢様の部屋だった。


「何故このような事を忘れていたんだ!!!」


 私はすぐに御屋形様にお嬢様のことを伝える。数年間もの間忘れていた大失態の罰はこの命を持って償う。だが今は一刻も早く現状をお知らせしなければ!!



「タリア…?誰だそれは?」



 だが、信じられないことに、誰もがタリア様の事を忘れていた。本当にそんな人物はいなかったように…だ。


「何がどうなっている…」


 私はすぐに隣国に発つことにした。


 道中様々なことを考える。何故娘は殺されたのか…もしや現状を知らせる手紙を持っていたから?それを阻止しようとガハマカタラ王国が妨害の為に娘は嬲り殺されたのか…




「確かあの時…」


 襲撃犯は特徴的なナイフを持っていた。何かのマークがどの武器にもついていた。


「何故調べなかったんだ!!」


 様々な失態に自分を殺したくなる。


「お嬢様!!」


 だが、今は一刻も早くお嬢様の下へ!









 バジオン領に入り、お嬢様の現状を探る…


「居ない…!?」


 私は、自分の隠密としての技術を駆使し、情報を集めた。そして、あの時襲撃してきた者と同じマークを持ったものを見つけることに成功した。ゴハラファミリーという組織の者らしい。



「ボンドウダ!もうごのまぢにはいない!!」


 顔を晴らしたその者を処分した。娘を襲ったと思われる物を片っ端から襲撃していき、とうとうその情報を得られた。



「お嬢様が…ジープ子爵領に!?」




 なんでも、お嬢様は冤罪を掛けられたそうだ。王立デパート襲撃事件その首謀者として…表向きは犠牲者の一人として発表された。しかし、ルバーネット王国にはその非を問うためにこのことを伝え、開戦しようとしたらしい。しかし、


 誰もお嬢様のことを覚えていなかった。王国に放った自国の草たちでさえ…


 バジオン達も何が何だかわからず、そして、お嬢様の処分に困った。薬漬けにし、正常な反応をしなくなるほどお嬢様は壊されたらしい、そして、処分先として、秘かにこの国に寝返ったジープ子爵に駄賃代わりに送ったそうだ。見た目は極上の女だから…という理由で…



 許せん!しかし、今はお嬢様を助けることが最優先だ!






 ジープ子爵の所に行く、現在シリウスが代行としてこの街を取り仕切っているようだ。情報を集める。どうやら戸外のゴロツキの所にいるらしい。


「だ…ず…げで…」



 私は既に人の形をしていないシリウスを処分し、そのゴロツキの下に向かう…


 20人程居るであろうか…ここまで来たら正面突破だ…そして、


「お嬢様…」


 既にお嬢様は何時無くなってもおかしくないほどの状態であった。私が…不甲斐ないせいで…



「タリアお嬢様、遅くなって申し訳ありません。」


 体中を切られたが、そんなものどうでも良い、お嬢様を守れなかった、その事実が私の心身を切り刻んだ。後悔しても、し足りない…悔しさに涙が流れる。


「直ぐにここから出ましょう。追手が来ます。」




 お嬢様を抱えながら、ゴロツキの残党を撃退していく。早くミトリーの街に行かなくては…




 体がいうことを聞かなくなっている…血を流し過ぎたか…






 もうすぐミトリーの町というところで、体が動かなくなる…


「お嬢様…」



 こんなところで死ねない!もうまともに動けないお嬢様が、野生動物に襲われるからだ…だが、体が動かない…


「私は…何故…この恨み…例え魂になってでも…」



「あああぁ……」



(お嬢様…)


 タリアお嬢様は動けなくなった私の頭をなで、這いずって移動をする。あの体で私の助けを呼びに行くつもりか…そのようなお体になっても…私の為に…もし…貴女が許されるのならば…来世こそは必ず貴女を守ってみせます…





 そして、徐々に体が冷たくなっていくのを感じる。


(バジオン!貴様らは末代まで呪い、必ずや殺してやる!!必ずだ!!娘だけではなく、お嬢様にまで手を出した報い!!万死すら生ぬるい!!)


 視界が黒くなっていくさ中、発狂しそうになるほどの怨嗟を込めて奴らを呪う。


 死にゆく無様な私にはそれしか出来なかった…




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作者の別作品もよろしくお願いします。 終末(ヘヴィな)世界をゆるふわに!
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