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36 ミトリーの攻防 アイギス・パートナーズ

山田サイド





 先ほどトーヤ君から連絡があった。どうやらまだ危機は去っていないようだ。我々はあの後、子爵達を拘束し、ミトリーの街に更迭こうてつした。


「敵は子爵の手の者か?」


 賞金首ヴァイパー、毒を使う凄腕の殺し屋だ。だが、奴をトーヤ君は見事に撃退した。


「俺ならどうやって奴を切る?」


 恐らく真正面から戦えば俺が勝つだろう。だが、街中で不意に襲われた場合は?人質を取られたら?など、条件によっては危ない。


「一応貰った腕輪は付けているが…」


 妻と二人分、特殊な腕輪をトーヤ君から受け取った。なんでも毒やマヒに耐性ができるとか…これって国宝級の品だよな…効果は内緒にしなければ、厄介事が舞い降りる気がする。


「これ1つでひと財産稼げるぞ…はぁ、これを持っていてもまだ危機が迫っているとは…何が起こるんだ?」


 ヴァイパーのようなものが他にもいるとは考え辛い、ならば子爵を取り戻しに来る?いや、御屋形様を害そうとした下手人だ。少なくとも厳重な監視を敷いているし、街には留守を任されている次期当主のカリム様が居る。彼ならば、滞りなく処理するだろう。


 ならばなんだ?…はっ!


(「ということでここからが俺の仮説になります。この時、お二人の連携で恐らくドラゴンを倒せた。そして、何者かに暗殺された。いくらお二人でも仲間と思ってる者からの不意打ちなら、その者の実力次第では害される可能性がある。」)


 まさか、味方の中にも紛れ込んでいるのか?!…可能性はあるな。子爵領から調達した食料には、毒が混入されていた。しかし、思い返してみれば、あの場で子爵達も同じ食材を使って、昼食を用意していた。そして、毒の有無を調べていたのは我が部隊の人間だ…


「確かに、仲間と思っている者からの不意打ちならば…しかし、信じたくないな…」


 だが、警戒するだけなら只だ。そして、トーヤ君からもたらされた草の情報。


「草…国民として潜り込んだ工作員。何代にも渡って国に馴染み、いざという時に工作員として動く者達…ならば十分にあり得るか?」


 だとして一体誰が?









 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











 こんばんは、山田です。今社長命令で、大急ぎでミトリーに向かっています。この車を運転するには、大量のMPが必要になりますが、MP回復薬は、相当数この車に載せてあります。これで夜通し走り、ミトリーには12時頃着くはずです。


 念のため、ステルスモードで走行しています。だって、人に見つかったらヤバいですからね。




「………………」


「どうしたんですか?佐藤さん。」


「…作者メタボ、俺のこと、忘れてた。」


「ちょっと何言ってんのか分からないです。」


 そういうメタいことを言わないで頂きたいです。りゅうは、時間的にもう眠っています。この悪路でよく眠れますね。さっき連続で、ドンッ、ドドドンッ!って、車が揺れた時には本とうんざりしましたよ。でももう街が見えています。…あれ?門締まってるよね…どうやって入ろうか…








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








 目標はカリム・フォーチャー。次にレオナルド・フォーチャー、可能ならば、アイギス・トレーターの暗殺、それが我らに与えられた任務である。



「ジープ子爵をこちらに取り入れる策は失敗した。そのため、警備の手薄な今、攻める。」


 例年の王都のパーティの傾向を調べていたが、今年は少し違い、ほとんどの貴族と子息令嬢が王都に召集された。これにより、フォーチャー侯爵が不在の間に、取り込みやすそうなジープ子爵に接触する予定であった。だが、防衛部隊に潜り込ませてある草による報告で、その作戦が無駄になった。



 なんと、子爵の配下に賞金首が紛れており、討伐者によって確保されたようだ。それにより、謀反の疑いで拘束されてしまった。


「与しやすそうであったが、ただの莫迦ばかであったか…」



 そのため、作戦は急遽変更された。子爵領で用意された食料に、毒物を混ぜ、子爵の罪状を確定させた。この時期の事である。ミトリーに戻るには時間が掛かり過ぎ、さらにエーシュ町に近いために、より警戒しなければならない。その為、苦渋の選択として、戦力を分散させることを選ぶことになる。そして、思惑通り、アイギスが侯爵の護衛から外れ、兵も更迭の為、相当数が割かれた。


 この少ない物資の中、恐らく相当な消耗を強いることになるであろう、しかも、補給できるのが、2日以上移動した先でないと無い。消耗した相手ならば、如何様にも出来る。そう思っていたが、誤算があった。



 討伐者達である。なんとこやつらは大量の物資を用意してしまい。しかも、侯爵の護衛に就いてしまった。これにより、物資面でも戦力面でも侯爵一行は十分な余力を持ってしまった。



 そして作戦を変更せざるを得なくなり、目標は次期当主のカリムへと変更された。幸い草はアイギスに付くことになったので、奴の背を狙うことは容易である。何より、草はアイギスからの厚い信頼を得ているため、不意を衝くことは可能であろうし、予測も出来まい。


 そして、カリムを消した後は、レオナルドを即座に消す。今は、拘束してある子爵を奪還する勢力がいる。という方針を組み立てている。なので、子爵の方に意識は向いているだろう。





 作戦遂行は2日後の明け方、今は、この領に手引きされた者達と合流のため、街から離れたところにいる。今我々は、ガハマカタラの技術の粋を集めた、この迷彩テントにより、完全に周囲に溶け込んでいる。夜が明け始めたころ、朝一で街に辿り着いた行商として入るためにも、今見つかる訳にはいかない。


 集めた盗賊たちを街の外で、待機させている。明日の夜には草がその情報を流し、子爵の勢力と勘違いさせ、兵を分散させたのちに行動だ。実行まで草との不用意な接触は無くしている。見つかるかもしれないリスクを取るよりも、既に綿密にスケジュールを決めている。秒単位での遂行がプロの仕事だ。









 そう、仲間たちと打ち合わせしていると、妙な音が聞こえてきた。


「なんだ!?モンスターか!!」



 地を揺るがすようなブオオオオオオオォォォォ!という音が聞こえてくる。テントから顔を出すが、周りに何も見えない、一体何なのだ!



「おい、お前達、様子が変だ!このままテントに入り姿を消す!良いな!」


 俺たちは全員テントに集まる。


「このままやり過ごす、大人しくしていよう。」



 そして、




ドンッ、ドドドンッ!


 と、凄まじい衝撃が我らを襲った。


(テントごと薙ぎ払われたのか…)


 地面に打ち付けられ、体に尋常ではない痛みが走る。これはマズイ…無事な者は…いない…皆…行動出来そうもない…)


「作戦失敗…誰か…草に連絡を…」



 こうして、我々の意識は無くなっていった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










 今日の明け方、普通に街の門から入った。りゅうは樹海で遊ばせ、佐藤さんはその保護者である。この間知り合ったスロープや、樹海の住人とも遊ぶ予定だ。なんせ、りゅうの姿は街では見せられないからな…




 そして、アイギス様と合流し、変わったことが無かったか確認する。一応毒対策に、皆で社長から貰った万薬の腕輪を装備している。



「我々は通常の任務に戻るが、君はどうする?」


「ホテルで寝ています。さすがに疲れました。」


「ならば、何かあった時の為に、家に泊まると良い。」


「本当ですか?ありがとうございます。」


 ホテルよりは男爵邸の方が、ゆっくり出来るだろう…


「それと、もしもの時の為に…」


「…ああ、裏切り者のことを頭に入れておく。特に私の部隊にはな…仲間を疑いたくはないのだが…」



 まぁ、何十年と、親子代々外国に住み、いざ攻める時には工作員になる。なんて狂気の沙汰をしてくる相手だ。相手に取り入るために、信頼できるポジションに付く、という考えを持って行動していると思った方がいい。


「あと、一応救援には駆けつけましたけども、俺の実力はその辺の兵士と同じか低いと思ってくださいね。」


 だって普通のサラリーマンだし。レベルアップで多少強くなったけど、それでも一般人レベル…りゅうにかみ殺されるレベルだ…ぐすんっ





「ああ、そちらの方は我々が担当する。君にはサポートに回ってもらいたい。」



 一応社長から貰ったお金で、社長からショップで様々なアイテムを買って貰った。護身用のアイテムもいくつか持っているので、何とかなるだろう。



















 そして、部屋で休んでいると、


「山田、盗賊、大量」


「何があったんですか!?」



 佐藤さんから通信が入った。携帯という便利アイテムです。これがあるとパートナー同士で会話できます。社長は「これ使えるんだ…ただのインテリアアイテムだと思ったのに…」と供述していました。


 何でも佐藤さんが言うには、森に数十人の盗賊が居たらしいです。りゅうと樹海の子供たちを見つけ、金になると思ったのか攫おうと姿を現したようです。しかしそこには、佐藤さん含む森の猛者が居り、盗賊たちをボコボコにして、縛っているらしい…なんでよりによってこんな時に…


「一応アイギス様に連絡してみるから、そのまま拘束しておいてください。」




「~~~~~という訳です。どうします?」



「……本来、あの樹海にそれだけの盗賊が居ることはあり得ない。なぜなら討伐者が頻繁に入り、兵たちも定期的にモンスターの間引きをしているためだ。」


「ならば誰かが集めたと?」


「その可能性がある。」


「なら陽動の為かも知れませんね。」


「陽動?…そうか、この街の兵を減らすために…」


 態々森に配置するということは、それを捜索するために多くの兵を割かなければならない。そして、一度森に行くと、恐らく数時間は帰ってこられないだろう。つまり、この街の警備が薄くなる。



「狙いはカリム様か?」


「次期当主と、その弟、出来ればあなたも背後からブスッとしたいんじゃないですか?俺ならそう考えますね。」


「…この情報を知る者は?」


「まだアイギス様だけです。」


「このことは内密にしておいてくれ、もし、盗賊が見つかったとあり得ない報告があれば…」


「ですね、そいつが草の可能性がありますね…なら討伐者ギルドにも手を回した方が良いかと、討伐者からの報告があったと言われる可能性が高いです。」


「そうだな、もし賊を見つけた場合、ギルドへの報告が義務付けられている。これを怠ると、治安維持の観点から厳罰、最悪拘束もあり得る。必ず報告があるはずだからな…その場合、最優先で私に連絡が来るようにしておこう。私以外にはその情報を入れるなともな…」



「…!こういうのはどうですか?」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








 俺はエリック、この街の防衛部隊の分隊長をしている。しかし、本来は祖父の代からガハマカタラの草としての裏の顔を持つ。その存在意義が今日、証明される。俺はアイギス隊長からの信頼も厚い、そして、部下からも慕われている。なので俺の言葉を無碍にされることはあり得ない。さて、そろそろ作戦の時間が来たようだ。



 本国から舞台と共同での作戦遂行、俺の任務上、過度な接触は草の存在の露呈することに繋がるため、暗号文を使ってのやり取りになる。作戦変更の場合、その合図が来る手筈になっている。合図は…ない。作戦決行だ。スケジュールは秒単位で決まっているため、此処からは時間のズレがないようにするのが肝要だ。



 俺は、衛兵の詰め所にいる。ここに、手の者が走りこんでくるはずだ。



「すいません。樹海に盗賊みたいなのが居たんですけど!!」


「はい、詳しく…!」


 ゴブリン!本国に魔族はいないはず!まさか一般人に見つかった!!マズイ。



「樹海に盗賊がいました。身なりがボロボロだったし、討伐者じゃありません!」



「分かりました。すぐに確認のため調査に向かわせます。貴方の連絡先を教えて頂けますか?」


 厄介だ…すぐに連絡しなければ…俺は詰め所の休憩室に居た他の人間に番を頼み、詰め所を出る。



 そのまま作戦実行ならば。30秒間何も合図がない手筈になっている。なるべく接触は避けるためにそのような合図に決めた。逆に何かあれば即座に指示が出るようになっている。…よし、合図無し。作戦は続行だ。


「分かった。そのまま作戦継続ということだな。」


 そう呟き、俺はその脚で、アイギス隊長の元にやってくる。後から思えば、予定外の事で動揺していたのだろう。だがこの時俺は、実行部隊が失敗するなどとは夢にも思っていなかった。





「まさか盗聴器を取り付けた奴が一発で当たりとは…」












「アイギス隊長!至急お伝えせねばならないことがあります!樹海に数十人に及ぶ盗賊が出現とのことです!」


「詳しく話せ。」





 そこから俺は盗賊のことを伝えた。



「…相手の人数は間違いないのだな?」


 間違いなんてある訳ない。俺が手引きしたのだから。


「調査はしたのか?はい、私が調査に向かいました。間違いありません。この目で確認しました。」



「報告があったのは何時だ?」


「はい、3時間ほど前です。」


 まずい、時間的にあり得ないことになってしまった。少しでも無理のないよう、そう報告した。


「調査には最低3人以上の人間で行う規定になっていたはず。分隊長のお前が知らないはずがないだろう?何故規律違反を起こした?」


 そんな場合じゃないだろう!だが、確かにそうなっていた。焦り過ぎたな…


「申し訳ありません。あり得ない報告があり、気がせいてしまい、つい一人で行動してしまいました。」



 ここは正直に話す。


「今度からは気を付けるようにな。」


「ギルドには確認したのか?」


「いえ、報告は一般人からです。」



 ギルドならば嘘がすぐバレる。そんなヘマをするはずないじゃないか。



「一般人がこの時間に盗賊の報告?それをお前は信じたのか?」


 !!しまった。確かに不自然だ。


「もう一度聞く、確かに調査はしたのだろうな?」


「…はい、間違いありません。遠目で確認しましたが、確かに数十人の盗賊が居ました!」



 強引に通すしかない。



「そうか、報告ご苦労。おい、こいつを拘束しろ!」


「「「はっ」」」



「隊長?いったい何を?」


「…盗賊は確かに存在した。だが、夕方の時点で既に拘束してある。何よりギルドには本日の夜間に活動している討伐者の名簿も貰っている。だからギルドから報告があるとすればその名簿の人間になるはずだが、あろうことか一般人からの情報とは…お前の頭に呆れるよ…」



 !!?俺は嵌められていたのか!!ならば、


「本国の部隊は捕まったのか!?」


「自白したな…本国の部隊など知らんよ…残念だよエリック、此処からはお前に敵として接しなければならないとはな…」


「…っ」


 俺は作戦が失敗したことを察した。

ドジっ子工作員

 いくら工作員でも、一般人である以上、この世界では教育はほとんど受けられません。基本親が教師です。ですので、基本、貴族や良いところの出の人間でないと教育を満足に受けていないというのがこの世界の実情です。ですので国民の多くは肉体労働、割と脳筋です。

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作者の別作品もよろしくお願いします。 終末(ヘヴィな)世界をゆるふわに!
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