20 ドヤ顔
冬也は権力者を毛嫌いしています。つまり反抗期です。
皆さんこんにちは、カトリーナです。今とんでもない事になっています。なんと私の護衛のリンが、デーサン男爵を二つに折りました。折ったのです。信じられません。
思えば今朝から様子が変でした。昨日までは普通だったのですが、寝る前からトーヤ様の名前を何度もつぶやき、今朝になると以上にテンションが高く、トーヤ様の魅力を雄弁に語って見せました。そしてお昼時に、ジープ子爵家のシリウス様と、デーサン男爵家のジャガート様が私たちの所に来て、リンを自分たちの所へ連れて行こうとしていました。
(まだ11のガキのくせになんてませてるんですか!?)
思わず討伐者時代の言葉遣いになってしまいましたが、リンを連れて行って彼らはどうするつもりなのでしょう?周りの大人に助けを求めようと見回しますが、誰もかれもが困った顔をしています。
(身分差の所為ですね、確かにこの国は貴族優位な法律がありますので、下手に手を出すと責任問題に発展してしまいます。)
しかし、私が心配しているのはリンが暴走しないかということです。彼女なら容赦なく二人を叩き潰すでしょう。ですがこの場で騒ぎになることは、非常にマズイのです。下手をするとこの場の兵士たちも彼女の敵に回りかねません。
バキッ!
って、考え事をしているときにいつのまにか彼らがリンに手を出してしまったようです。そして予想通り潰されました。むしろ予想よりもエグイです。私の手には負えません…
そしてリンは何もなかったかのようにトーヤ様の魅力を語り続けます。しかし、リンの様子が突然変わりました。なんでも2000m以上も離れたところにいるトーヤ様の気配を感じたようです。野盗に襲われかけていると言って止める間も無く、走り出していきました。そして、しばらくしてトーヤ様を抱えたリンが戻ってきました。
トーヤ様も何というかその…目が死んでいました。というか私たちって別行動のはずですが?!
その後、タリアお姉さまと、マガージ家のマリオ様と、ピオン家のクレア様を交え、いろいろな話をしました。マリオ様とクレア様は、隠しているつもりなのでしょうが、お互いを思い合っているようです。このまま見守っていようと思いましたが、トーヤ様が
(「ところでマリオとクレアって恋人同士なの?」
「いや、二人とも手を繋ぎたそうにお互いソワソワしてたから、遠慮なく繋いでもいいよ?恋人同士なんでしょ?」)
と、言い放ちました。デリカシーがありませんよトーヤ様!?
タリアお姉さまも、ついつい面白がっていたことを白状していましたし、それを聞いたお二人は真っ赤になって固まってしまいました。しかし、あれだけハッキリと言われると、お二人が婚約するのは近いのではないでしょうか?
そんな和気藹々(わきあいあい)としている時に、物々しい集団が近づいてきました。
(間違いなく大騒動になりますね。)
そして予想通り、リンが予想外な形でデーサン男爵を折ってしまいました。
(もうこれ無理です。私では対処できません。トーヤ様にお任せしましょう。)
彼なら何とかしてくれるはずです。だって私の救世主なのですから。
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(ねぇ、一緒に遊びに行こうよ!君と一緒ならどこでもきっと楽しいよ!)
「もちろん喜んで!やっぱ癒されるね…最高だよマリアたん」
「マスター、今日の夕飯は何がいいですか?」
「久しぶりにすき焼きを食べたいね。セバス材料ってあった?」
「はい、車の冷蔵庫には一通りの食材が揃っています。毎日午前0時に自動的に補充されるようで、在庫の方は心配ございません。」
「じゃあ、すき焼きでよろしく。」
「わかりました。」
「「「あはははははははっ」」」
「ちょっとトーヤ様!皆さんも何現実逃避しているんですか?!」
「リンさんが大変なことになっていますわよ!さすがに私でも現行犯では庇えません。」
「いやだなぁリーナ、俺は2次に生きる廃課金者だよ?現実なんてクソくらえだね。タリア様、逆に聞きますがなぜあなたはこの現状を私が解決できると思ったのですか?」
「いいから何とかなさい!」
「はーい」
今ジープ子爵たちは臨戦態勢に入っているが、リンを警戒して迂闊には攻め込めないようだ。そして、フォーチャー侯爵たちの天幕はここから200mと離れていない。このままこの状態が続けば彼らが騒ぎを聞きつけ、いったんはこの場が収まる可能性が高い、しかし、リンの身柄は拘束されてしまうだろう。
「今リンさんが拘束されると恐らく相当不利になります。」
「それは目撃者が何人もいる前で男爵を折ったからね。」
「いえ、それだけでは無く、現在いる場所はジープ子爵の治めるエーシュ町が近くにあります。彼らは今朝合流したために、此処から馬で1時間も飛ばせば街に付くのです。」
「それは…このまま拘束されると相手の本拠地に送られる可能性が高いか…そうでなくてもリンが再度暴れる可能性が高い…」
何かいい方法は無いか…解決策がない場合、最悪強行突破も視野に入れなければならない。アイギス様はあまり心配いらないだろうが、彼と同等の実力者が何人もいればさすがにきつい。周りの人間のステータスを今のうちに見るか…
そう思い、周りを見ると、子爵率いる討伐者の中に、一人異常な奴が居た。
賞金首 ヴァイパー
HP1300
MP120
攻280
防170
魔攻140
魔防260
素早さ390
器用さ220
賢さ90
ラック4
暗殺術
薬学
隠密術
小隊級賞金首 320万
こいつは確か…ギルドの掲示板に掲載されてた賞金首…そして盗賊たち…武闘派貴族…
スマフォでアイギス様達がこちらに近づいてくるのを確認する。
(よし、この手で行くか…頼む、上手くいってくれよ…)
「皆、俺から離れていて。セバス、田中、お凛、あそこにいる男は暗殺者らしい。ギルドの掲示板に遭った賞金首だ。警戒していてくれ。」
「「はっ」」「にゃーん」
「何か思いつきましたの?というかそれは事実ですか?」
「ほとんど運任せですよタリア様。そして間違いありません、あの男は賞金首のヴァイパーです。」
「危険なことは止めてくださいね。そして、リンをお願いします。」
「任せて、まあ、最終手段はこいつらを蹴散らして全力で逃走するからよろしく。」
「「そうならないように祈っています。」」
皆が離れたのを確認し、リンたちの方に近づく、何人かは俺に気づいた。が、俺は構わず近づき…
「ウォーターボール10倍」ボソッ
空に向かって5mほどの巨大な水球(中は空洞)を発動した。
「「「「「「「!?」」」」」」」
皆一斉にこちらを見る。
「何奴だ!?」
「ハイハイ皆さん落ち着いて。」
「冬也君。」
「リン落ち着いて、後は俺に任せて。」
「…はい。」
リンが後ろに下がり、俺が前に出て子爵と対峙する。
「子爵、落ち着いてください。」
「貴様もその娘の仲間か?」
「ええ、そうですよ。アイギス様に雇われた護衛です。」
「ほう…アイギス殿に…」
「ところでなぜ彼女を拘束しようとしたのでしょう?事情を聴けば先にそちらが手を出したとか?息子の教育に敗して、エロざるに仕立て上げ、そしてたった一人の娘にコテンパンに返り討ちに遭い、恥の上塗りのように大の大人数人で囲んで報復ですか?子爵様は大変面白い方ですね、昔ピエロにでもなって小遣い稼ぎでもしていましたか?」
「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」
「貴様…死にたいらしいな?」
「冬也君?!」
セバス、田中、リーナやタリア、兵士たちが思いっきり目を見開き、信じられないものを見るような目で俺を見つめる。リンも驚きが勝って素に戻っている。
(これでいい、俺にヘイトを集めつつ、周りが下手に要らんことをしないよう特大の爆弾をぶち込む。誰も俺が挑発するとは思っていなかっただろう。)
そして、あの男が動こうとする。が、ベストタイミングだ!
「これは何の騒ぎだ!」
「お父様。」
「リーナ、これは一体何の騒ぎだ?」
やっと、アイギス様とフォーチャー侯爵が来た。
「子爵、説明せよ。」
「は、この娘が我が息子とデーサン男爵の息子に危害を加えました。その為、貴族に手を出したことにより、不敬罪が適応され、拘束しようとしたデーサン男爵にさらなる危害を加えました。あまりの危険さにこの場でこの女を討とうとしたら、この少年が現れ、危険な魔術を行使し、さらに我々を侮辱したため、同様に不敬罪でこの場で討とうとしました。」
「ふむ…タリア、お前から見てどうであった?」
「はい、こちらのリンさんはカトリーナと昼食の準備中に談笑していました。その時、シリウス様とジャガート様が無理やりリンさんを連れて行こうとし、彼女がしました。その時二人が負傷し、今は医者にかかっています。そして、お二人が貴族に対する不敬罪で彼女を拘束しようとした時、デーサン男爵が負傷され、ジープ子爵が彼女を討とうとしているのが現状です。」
「話を聞く限り、先に手を出したのは、シリウスとジャガートの方か?」
「確かに手を出したのは息子が先です。しかし、事情を聴いてみると、息子たちが話しかけているにもかかわらず、彼女は無視をし続けました。そして、決して危害を加えようとしたのではなく振り向かせるために肩に触れようとした息子の顔を無慈悲に打ち付けたのです。」
「…リーナ、君から見てどうだった?」
「…確かに今子爵様が仰られた状況です。しかし決してワザとではなく、彼女がそこにいるトーヤ様のことを楽しそうに話していました。夢中で話していたために気づかなかったのでしょう。そして彼女は戦闘の達人でもありますので、無意識でも背後から近づき、彼女を掴もうとしたシリウス様に腕が当たってしまったのでしょう。」
リーナ、その言い方はリンが悪いって言ってるよ!っていうか聞いているだけなら本当にリンが悪く聞こえるから不思議だね!と言うかこのおっさんオーラが半端ねぇ!ただ話しているだけなのに何か後ろめたいことをしている様な気がしてくる。俺みたいな凡人とは違うね!
「君は何か言いたいことがあるかね?」
「あります、私に触れていいのはここに居る冬也君だけです。そしてレディーの背後から近づき体に触れようとした痴漢ですよ?多少反撃されても仕方ないのではなくて?」
リンさんは王女だけあっておっさんに対抗している。強えぇ…
「では、危害を加えたのは事実なのだな?」
「さあ?気づいたらなぜかそのようなことになっていただけです。」
「気づいたらとは?」
「彼らの存在自体に気づきませんでした。ただここは外ですのでハエかと思ったので追っ払ったという認識です。」
言葉だけ聞くとリンさんメッチャけんか腰じゃない?俺これからの展開に不安になるぞ!
「…ではデーサン男爵に危害を加えた件はどう説明する?」
「そのようなことを急に言われ、拘束すると言われました。そしてあのような体格の男性に迫られては自衛しても仕方ないのではありませんか?」
「もっと他に方法は無かったのか?例えば今の現状なら私の耳にすぐ入る。であるので、私が来るまで大人しく待つという選択肢もあったはずだ。彼らも大人しくついていけば手荒な真似はしなかっただろう。」
「それは…」
パンパンッ!
俺は手を叩き、注目を集めてから発言した。
「侯爵、あなた頭沸いているんですか?」
「「「「「「「「!!!???」」」」」」」」
「君は?」
「初めまして、討伐者の冬也です。今回依頼があり、この近くに居ました。」
「アイギス、確か彼女達はお前が雇ったのだったな?」
「…はい…」
「違いますよ?アイギス様が雇ったのはリンです。俺は別件です。」
「ほう?ならば君は関係ない第三者ではないかな?」
「それは今のところ言えませんね。依頼の機密に関わることなので、ただリンは同じパーティーの一員なので今回助太刀しました。」
「では、先ほどの発言の真意を聞こう。」
ここが踏ん張りどころだ、狂人を演じきれ!論点をずらしまくるんだ!
「まず1つ目、リンが手を出した理由、当たり前でしょ?知らないやつがこっちに来いと言って誰が付いて行くんです?抵抗するのもやむを得ないでしょう?それにジープ子爵家の人間は平気で平民に傲慢な態度を取ってるって有名ですよ?そんな奴らならなおさら抵抗するでしょう?結論、手を出したあちらが悪い、リンに一切の非は無い。無理矢理にでも落ち度があると思わせるあなたの話し方は頭沸いてるとしか思えませんよ?我々を見下しているんですか?」
「ただ事実の確認をしただけだ。ではデーサン男爵に手を出した件は?」
「今言ったでしょう?ジープ家の人間は平気で手を出すって、しかも今度は体格の優れた男です。当然抵抗するでしょう?なにされるかわからないし、あなたを待つことも無理でしょ?あなたは彼らの親玉だよ?何で公平な判断を下せると俺たちが思うと考えたんですか?実際今の聞いていると、無理やりにでもリンにも落ち度があると認めさせるような言い方してたじゃないですか?現状で有効な手段は目撃者が多いこの場で自衛し、決して人目のないところに連れて行かれないことです。子爵たちに連れていかれてたら味方のいない状況で権力者に好き勝手されますよ?自分を守るためには当たり前じゃないですか。」
「ふむ…」
「大人しく聞いていればもう我慢出来ぬ!!御屋形様!!この者の無礼な態度、もはや良い訳のしようもありますまい!!この場ですぐに討って見せます。」
「ああ、待って、こちらからも提案がある。」
「ふざけるな!!!」
「子爵、落ち着け、何かなその提案とやらは?」
「子爵様に決闘を申し込みたい。」
「ほう…」
「こちらの主張は、先に手を出したそちらが悪い。故にリンには何の落ち度もなく、言いがかりである。そちらの主張は、こちらが暴力に訴えた。そして、拘束しようとして反撃され、どうしても身柄を拘束したい。それで合っていますか?」
「概ねその通りだ!そして拘束ではなく不敬罪での死罪を受け渡したいだ!」
「つまりこのままでは話は平行線、いつお互い武力を行使して衝突するかわからず。周りにいる者たちにもいらぬ被害が起きるでしょう?でもそんなことは俺たちは望んでいないんですよ。何より別の任務がありますからね。ですので、お互いに代表者同士での決闘を望みます。
こちらが勝てばその場で終わり、全てを水に流す。貴方方が勝てば、俺とリンの身柄をあなた方に引き渡し、大人しく罰を受ける。それでどうです?」
「子爵、どうだ?」
「私はそれで構いません。」
「では私が立会人になろう。30分後開始する。ルールは互いに代表者一人、相手の降参・戦闘不能・死亡が確認された時に勝敗を決するものとする。なお、周りの者に被害を出すことも禁ずる。これでよいな?」
「承知いたしました。」
「俺もそれで良いです。」
「では30分後この場で開始だ。」
「あなたは何をしているんですか!?お父様に食って掛かるなんて正気ですか!!!!???」
タリアがメッチャ怒ってる。
「決闘なんて馬鹿げています!!なぜあんな事になるのですか!!!」
リーナも怒っている。というか魔力も漏れ出してる。
「冬也君?私が出て奴らを八つ裂きにしてもいいのですよ?」
リンは殺る気満々である。この人たち怖い…
「お父様!何頭を抱え込んでいるんですか!そんな暇は無いですよ!!」
「いや、しかしだなリーナ…」
「しかしも案山子もないんですよ!!このままだとトレーター家にも何かあるかもしれませんよ!!」
「ああ、それは無い。」
「何故ですか?!」
「リーナ落ち着いて、侯爵も言ってただろ?周りの者に被害を出すことも禁ずる。って、あの人はきっとこちらがこの状況に持っていきたかったことを知っているよ。」
「それはどういうことです?」
「仮にトレーター家が敵に回ったとしましょうか?どれくらい被害が出ると思いますか?タリア様。」
「…考えたくはありませんね。」
「でしょう?そして、俺が魔術を使いましたよね?あれは、あの場に俺たちが居ることを知らせるためと、今非常にひっ迫した状況だということ、そして俺たちの実力を知らしめるために行いました。」
「確かに、凄まじい魔力でした。」
「凡そ一般人の5,6人分の魔力を込めましたからね。そんな俺達とアイギス様を敵に回せばどうなります?しかもデーサン男爵を一蹴したリン達もいますからね。」
「この人数では確実に壊滅しますね。ただし、アイギス様はこちらに付くと思いますが。」
「そのアイギス様が雇い主ですよ?」
「…」
「そして、あらかじめ子爵を挑発して怒らせましたので、彼は冷静ではありませんでしたからね。彼が下手に手を出せば戦闘が始まってしまいます。」
「御屋形様はそれを危惧していたという事か?」
「はい、そして俺が侯爵に対して考えられないような無礼な物言いに対して、侯爵は危機感を持っていたと思いますよ?いざとなればこちらに手を出しかねないと。」
「…」
「ですので、あのような泰然とした態度でしたが、内心頭を抱えていたと思いますよ。そんな時に回りに被害を出したくないから決闘しようと提案され、内心ほっとしたのではないでしょうか?」
「それで、あのようなことをすんなりと決めたというのか?」
「ええ、俺とリン以外に手を出せば、残ったメンバーによってせっかく収まった場がまた荒れますからね、しかも今度は行くとこまで行ってしまう惨劇が起こるでしょう。そうならないために周りに対して手出しは無用としたんです。」
「勝算はあるのですか?」
「代表は是非私に、自分の尻拭いはしてみせます。」
「いや、此処は俺がやる。それと皆にはこれを渡しておくよ。」
そういって万薬の腕輪を取り出す。これからやるのは大取物だ。タリアにも被害が出るかもしれないから彼女にも渡す。
「これを今から絶対に肌身離さず身に着けていてくれ。恐らく相手の代表は 殺し屋 ヴァイパーだ。」
「「「!!?」」」
「あの有名な殺し屋か…毒使い。」
「ええ、子爵の連れていた討伐者の中に居ました。人相が違っていたので変装しているのだと思いますが、俺の能力は知っているでしょう?」
「ああ、なら私は。」
「彼らが暴走した時の対処をお願いします。」
「分かった。」
「セバス達もこれを付けておいてくれ、そして万一の場合は、トレーター家を含めて車で逃げる。山田達に用意するように伝えてくれ。」
「畏まりました。」
「冬也君ごめんなさい!私の所為で…」
リンが抱き着いてきた。しかしいつもと違い、弱々しい力しか込められていない、そして彼女は泣いている。
「きちんと収めてみせるから。安心して。」
それではいざ決戦の場に!
「こちらの代表はこのコブラです。」
「こっちは俺が出ますよ。」
「うむ、では確認だ。子爵が勝てば、トーヤとリンの身柄を大人しく差し出す。トーヤが勝てば全てを水に流す。また、勝敗に限らず周りの者への手出しは厳禁。勝敗は、降参・戦闘不能・死亡のいづれかの状態になった時。で良いな?」
「「はい」」
「では他の者は下がれ。」
そして俺たちを中心として半径10mの範囲に人はいなくなった。
「俺はお前を殺す。」
「出来るならやってみたら?」
「それでは始め!」
ヴァイパーが俺に向かってくる。早い!この距離じゃ詠唱できない!
「シッ!」
奴はナイフでこちらを切り刻もうとしてくる。超反応があるから何とか追える速さだ。そして、ナイフをしゃがんでやり過ごし、奴の懐に入る。狙うは顎だ!
「ハッ!」
全身のばねを使って掌底を繰り出したが、避けられる。
「動きは素人だな。」
(うるせぇ!こちとら暗殺術なんて習ってない一般人なんだよ!)
俺の強化された身体能力で何とかついていけてるが、対人戦に特化した訓練を受けたプロに対して決定打にならない。
そして、
「シィィィッ!」
首を狙って相手のナイフが迫る。ここだ!
水魔法を使い相手の顔面に当てる。これで怯…まない!!?
「うおっ」
何とか転がりながらその場を離脱する。いったん仕切り直しだ。
「水を目に当てるか…喧嘩慣れはしてるようだが。俺はそういう訓練も受けている。」
「あんた何処の刃○の住人だい?」
「なんだそれは?」
さて、どうするか…正面からいっても技術差が大きく決定打に欠ける。
(奇策しかないな…)
「う
ザッ!
ぐェ、っぺっぺ」
詠唱をしようとしたら砂を蹴り上げてきた。口に思いっきり入り思わず口を拭ってしまった。当然その隙を逃すはずがなく。
「終わりだ。」
「ぐっ、いてぇ」
腕を切り付けられた!そしてあいつのナイフに何か塗ってある!
(毒か?!)
俺は膝を地面につける。
「トーヤ様!!?」
「冬也君!!?」
「手を出すな!リーナ、リン!!」
アイギス様がリーナとリンを取り押さえる。助かった。
「降参するか?」
「するわけないだろ!!」
俺は詠唱無しで水を浮かべ、奴に放つ。
「素人だな…」
水を放ちまくって地面が濡れて行くが、奴はそれが何でもないように避けまくる。
「ふっ!」
いつの間にか背後に迫っていた。とっさに大きな水の塊を背に出し。コンマ数秒稼いだ時間で前方に転がる。準備は出来た!
再度水を撃ちまくる!
「あと数年戦闘訓練を受ければいいところまで行けたぞ?」
「なら負けてくれない?」
「それは無理だな。」
その場から動けないので、水を撃ちまくる。そして、
「何度も同じ手はプロには通じん。」
またしても背後に回った奴がナイフを突き出してくる。そして俺はまた水を浮かべる。
「無駄だ。」
そして奴の突きはその水を無慈悲に貫き、
「通じるんだなそれが。」
奴の右腕が凍り付く。
「????!!!!」
「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」
奴も周りの人間も驚く。その隙に奴の両の手足と体を氷漬けにしていく。
本来、水魔法では氷を作れない。PGでは、上位魔法の氷結魔法と言うものが存在するからだ。いくら想像力があってもこの法則だけは覆せなかった。ではなぜ奴の腕が凍り付いたのか?
水は0度を下回ると氷になることはご存知だと思う。温度とは分子の熱運動によって上下する。これを限りなく動かなくなるようイメージし、氷点下に温度を下げた。しかし法則は覆せず。水が凍ることは無かった。しかし、
(水の温度を下げて、過冷却にしたんだよ!)
過冷却という現象がある。水で言うと、0度以下になっているのに氷にならないという現象だ。水全体をゆっくり冷やすとこの状態になる。この過冷却の不思議なことは、この状態で衝撃を加えると、即座に凍り付くということだ。今回冬也は水の玉を多く放った。そして、詠唱も出来ぬ状態で、苦し紛れに撃ちまくったと周りは思った。(実際8割がた苦し紛れだが…)
そして、追い詰められたが故に同じ手に出たとヴァイパーに思い込ませ、1度目と同じ展開に持って行った。しかし、2度目の背後に展開した水は、イメージによって、この過冷却の状態にしていた。
(そこに手を思いっきり突っ込めば、その衝撃で凍り付く!)
あとは相手が隙を作っているうちに、自由を奪うだけである。
「あんたは危険だから容赦しないよ!」
ヴァイパーを氷付けにした後。魔纏術を発動した。そして彼の手足を問答無用で砕く!
「ぐあああああああっ!?!?」
「ついでに変装も解いたら?」
そして、ヴァイパーの顔に手を伸ばし、引っ張る。すると、今までの顔だと思っていたものがマスクであり、それが破け素顔が現れる。そして、
「悪いけど眠ってな!!」
ヴァイパーの顎を打ち抜き、意識を刈り取る。そして、彼を立会人の侯爵に見せ、左手でマジックボックスから手配書を出し。
「これで勝負は俺の勝ちですね?そして、依頼も1つ完了しました。賞金首のヴァイパー捕獲完了!」
今年最高のドヤ顔である。
フォーチャー侯爵がそもそもの不幸の原因だと思っているので、冬也は彼に対して当たりがきついです。




