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尻尾と耳と私と主  作者: 青を刻む朱雀
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第21話 しばしの別れです(5)

「さて改めて“私が”シェラディード王国の現王クリア・フェルト・シェラディードよ」


 着物の女性は着物の袖から小さな王冠をとりだし、頭頂部にちょこんと乗せる。


「女王…」

「んでこっちの仏頂面の夫がロフ・クィディフ・シェラディード。入婿なの」


 私が唖然としてるのをおいて話を進める女王クリア様。


「募る話はあるのだろうけど今日は旅の疲れをとることが最優先ね。今夜はこの部屋で3人川の字で寝ましょう?あ、夕飯もまだなのよね?ここの料理は美味しいわよ?それとも先にお風呂にする?」


 クリア様が手をポンと叩くと後ろの扉が開いて宿の従業員…この町では女中と言うらしい方々が入ってきて食事の用意をする。

 私はクリア様とロフ様が座ったのを確認してから私も恭しく座り、ナイフとフォークに手をかけて言った。


「あの私…」

「神妙な話は後にしましょう?折角のお料理が台無しになってしまう」


 クリア様は東洋のナイフとフォークに相当する“箸”を器用に使って料理の臭いを嗅いでからおしとやかに食されました。

 私もおずおずと見慣れない料理を摘まんでいるとクリア様が口を開く。


「そのままでいいから聞いてちょうだい。何、ただの昔話よ…」


 私は一旦手を止め、耳を傾ける。


「約20年以上前、私の赤ちゃんが誘拐されたわ…。当時私達は政治(仕事)に追われ、たまたま後宮に愛しい娘を置いて行かねばならなかったの。」


 クリア様の背景となる窓の風景はいつの間にか暗雲が立ち込め、怪しい天気を醸し出していた。


「そんなときにまるで示し合わせたかのように賊が侵入したの…」


 とてもよく似た話を聞いたことがあります…


「賊は王政に反対の過激派武装集団…迅速に城内を制圧していったわ…まるで城内を知り尽くしているかのように…」


 クリア様は淡々と話す。


「当然後宮にも反乱軍の手が差し迫ったわ。」


 クリア様の真後ろで稲光が炸裂する。


「娘の事を任せた奴隷がいたの…その奴隷は何をしたと思う?」

「自分の身の安全のためにその娘を反乱軍に明け渡したとかではないでしょうか?」


 以前自分の利益のためにお嬢様を殺そうとした傍付きを知っています。私もその運命を辿っていたのでしょうか?

 しかしクリア様は首を横に振った。


「その子は私の娘を抱いて堀に身を投げたの…。冬の海に繋がる堀、自身は泳げない、なのにその子は助かる希望に賭けた。」


 冬の海はよく荒れると聞きます。それなのに蜘蛛の糸ほどの希望にかけるなど…。


「…その人は?」

「私の直属の諜報部隊の報告だとこの大陸に流れ着き、2つ先の町の教会の前で息絶えてたそうよ」


 私を拾ったシスター達は一言もそんなこと教えてくれなかった。


「その情報はいつ…」

「7年前よ。その教会を訪ねたけどすでに居なかったわ。その後足取りが掴めず地団駄を踏んでたのだけどあなたを見つけるきっかけが5年前…」


 5年前というと「クーノル事変」ですね。


「珍しい銀髪銀毛の狐系のメイドが名のある領主邸の娘を守り抜いた…そんな話を聞いて山積みの仕事を片付け、海を渡ってきたの。」

「5年もかかったのですか…」

「えぇ…一日千秋の思いで仕事を終わらせてきたわ…あなたが安全に暮らせるように…ね」

「そうだ…だから帰ってこい。奴隷じみた事なんざしてないで帰ってくれば何不自由なく暮らせるんだぞ?」


 ロフ様が頬に大量のご飯を詰め込みながら口を挟んだ。


「あなた、お行儀が悪いですよ」


 クリア様は素早く袖からハリセンを取りだし、ロフ様の顔面に叩き込む。

 少し軽くなった空気に私は2人に答えを返す。


「とてもありがたい申し出です」


読了感謝です。

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