第18話 しばしの別れです(2)
3日馬車に揺られ、辿り着いた湊町セスナ。私は馬車を降りて背筋を伸ばす。
「馬車での長旅はさすがに堪えますね…」
初日の宿で人拐いに逢い、2日目の野営で熊に襲われ、3日目の今日でようやっと目的地に着いた私は早速宿を探す。
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一時間後…
どこもかしこ満室、貸し切り、満室、貸し切り。
それもそのはずもうじき新月祭…。すべての月が新月となる年に一度の祭り。各国から貴族がこぞって船を出してこの湊町に停めるためその船を操る船員達が宿を独占してるのだ。この時期は基本貸し切りにしないのが暗黙の了解となっているが、貴族はそんなもの知ったことかと言わんばかりに金にものを言わせて貸し切りにしているのだ。
「さて…どうしたものかな…」
最後の宿屋を出て途方にくれていると中から身なりのいい眼鏡をかけた犀族の獣人が出てきた。ガタイがよく、豪奢な服がピチピチで今にも破けそうな勢いである。
「ん?」
犀族の獣人は眼鏡を上げ下げして私をまじまじと見て顔面を蒼白にして宿屋に駆け込んだ。まったく…人の顔を見て血の気を失せさせるとは失礼ですね…。
ここで途方にくれてても仕方ないので今日は町の近郊の森か下水で野宿ですね。私が立ち上がって埃を払っていると宿屋の中からドタドタと騒々しい足音が近づいてくる。
「フェルナトゥーレ様!フェルナトゥーレお嬢様はいらっしゃるか!」
先程の犀族の男性が野太い声で誰かを呼ぶ。私は知らん振りしながら宿屋を離れようとした。が、肩をガシッと武骨な大きな手で掴まれた。
「お主のことだ…探しておったのだぞ」
「人違いでは?私はクレアと言う一介のメイドです。」
「人違い…そうか…だが銀毛の狐系獣人はお嬢様以外…ぶつぶつ」
腑に落ちないと言うような表情でぶつくさ文句を言う犀族の男性の手をやんわり払い
「獣王様に呼ばれてきたのですが宿がとれないので今夜は野営するつもりなのでこれにて…」
「やはりお主ではないか!」
「いや、だから私はクレアです。決してふぇる何とかではありません」
「ご自分の名前もお覚えではない。それも致し方ありません。」
驚くことに犀族の男は衆人環視の中、私の前に膝をついて手を地面につけ、オイオイと男泣きをし始めるではないですか。はっきり言ってすごくめんどくさい。
冷ややかな視線で犀族の男を見てると宿の奥の方から軽快な駆け足の音が近付いてくる。
残り30歩ほど距離を残したところでソレは跳躍する。
「さっさと姫様お連れしろって言ってるだろにゃ!こんのウスノロがぁぁぁぁぁぁあああああ」
空中で3回転ほどして両足揃えて地響きのような泣き声をあげる犀族の頭を踏みつける。
底抜けに明るい黄色に茶色の斑点は豹を連想する。しかし耳は大きく尻尾は豹種よりは短い。
「豹種?」
「ちっちっちー。にゃーはただの豹種ではないにゃぁ。これでも世界に7人しか確認されていにゃいサーバルなのにゃ!」
右手をVサインして顔の横につける変な人に私は冷ややかな目線をプレゼントする。
「…………」
「ごめん。普通に話すから引かないで…あの話し方王命なの…」
私の親って一体…。
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