可愛くない
「――――水森さんの事、好きなの?」
真が聞こえなかったと思ったのか、少女はもう一度同じ事を問う。
楓は息を殺して真の次の言葉を待った。
「水森さんは仲の良い友達だよ」
ああ、予想はしていたけれど聞きたくなかった。
「――――おい、真たち行ったで」
「…………」
「…まただんまりかいな」
小さくつかれたため息。
そっちこそ、いつまでここにいるつもりだと、楓は目線で訴えた。
「別に、何となくや。
お前こそ飯まだなんちゃうん。
行かんのか」
「…別に、何となく」
「何やそれ」
ふっと昶が笑う。
もう秋口とはいえ日差しは強い。
いつまでもこんなところにいて倒れでもすれば、真も心配するだろう。
聡い彼の事だ、楓がどこで何を聞いてしまったのか気付いてしまうかもしれない。
そう思っていても、楓はその場から動けなかった。
「――――まだ、チャンスはあるやろ」
ポツリ。
独り言のように昶が言った。
「真本人がお前の事を友達や言うとった。
他の女はそのラインにすら立ててへん。
お前の方が他の奴より一歩リードしとるっちゅー事やろ。
落ち込む必要ないと、俺は思うけど」
少しぶっきらぼうで、それでいてどこか労るような昶の声音に、楓が埋めていた顔を上げる。
遠い場所を見つめる昶の目が楓を映した。
「…アホ面」
「うっさい」
いつも通りの言葉の投げ合い。
馬鹿らしくなり、楓はようやく立ち上がった。
「何や、復活か?」
「ご飯食べに行くだけ。
友達待たせてるし」
さよかー、と返し、昶も出て来た窓に足をかけて中へ戻る。
ふと何かを思い出したように振り向き、「水森!」と声をかけた。
「これ、やるから元気出せよ」
軽く放ったそれを両手でキャッチする。
黄色い包装をしたレモン味の飴を、楓は不思議そうに見つめた。
「アンタ本当に馬鹿男?」
「どういう意味やコラ」
「冗談。
仕方ないから貰っといてあげる」
「相変わらず可愛げの欠片もない…」と、小さく昶は呟いた。
「ああ、それともう1つ」
「あ?」
「私、諦めるつもりないし、そもそも落ち込んでないから」
それだけ言って颯爽と去っていく楓。
食堂へ向かうその後ろ姿を窓枠に凭れながら眺める昶のその口角は、
「へいへい…
本間可愛くない女やわ…」
本人も気付かぬ内に、楽しげに上がっていた。