不安な未来
「楓ー、お昼食べに行くよー」
「あ、ごめん先に購買行ってくるよ」
「じゃあ先食堂行ってるねー」
友人と別れて購買へ向かい、ペットボトルのミルクティーを購入。
彼女の待つ食堂への道を歩きながら、そういえば今日は一度も真と話せていない事に気付いた。
朝は家の用事で少し遅刻すると連絡があったらしく、喧嘩腰の昶から言われてテンションが急降下し、朝一の授業が全く耳に入って来なかった。
休み時間に真の教室に行ってみれば、タイミング悪く移動教室で不在。
真不足で泣きたくなった。
「(って、別に彼女でも何でもないんだけどさー…)」
楓が真に対してとやかく言う筋合いはない。
「(それはそうなんだけど…
…って、ん?)」
中庭に今正しく会いたいと思っていた真の姿があった。
「草田く…!!」
「ごめんね草田君。
急に呼び出して」
思わず草むらの陰に隠れる。
楓の方に背を向けてしまっている真の表情は窺いしれないが、彼と向かい合う頬の赤い少女の顔は見た事があった。
「(確か隣のクラスの…)」
学年でも可愛いと評判の女の子。
彼女も、真の事を。
「私、草田君の事がずっと前から好きでした。
私と付き合ってください」
不安そうに、けれど一生懸命想いを込めて気持ちを伝える。
ただ傍にいるだけで充分だった自分に、彼女を羨ましがる資格などない。
「…ごめん。
今は誰とも付き合う気ないんだ」
困ったような声の真の返事に安心すると同時に、酷く胸がざわついた。
もし、楓が真に告白したとして、彼は同じようにそれを断るのではないか。
未来の自分を見せられている気がして、楓は膝を抱えて顔を埋めた。
「――――…何しとんねんお前」
呆れたような声にハッと顔を上げる。
パックジュースのストローを咥えて窓の中からこちらを見る昶だった。
「…………」
「って、無視か!」
いつもなら5倍10倍で返ってくるはずの暴言が今日はない。
眉をひそめて窓枠に足をかけ、外に飛び出した。
「おーい、聞こえとるかー」
「…………」
「おい、ボケ女」
「…………」
「何やねん本間…
何とか言えや」
「…………」
調子が狂う。
大体何故こんなところに、それも隠れるように座り込んでいるのかと草むらから顔を覗かせて、なるほどとその理由を察した。
「アイツもまあモテるからなあ…。
つか、いつもの事やろ」
「…うるさい」
やっと返ってきたくぐもった声。
少しだけ、それにホッとする。
「――――もしかして、水森さんの事が好きだから?」
「え?」
真が目を丸くさせる。
そしてそれは、楓と昶も同じだった。