最悪と運命の出会い
彼らの出会いは入学して2週間程たった頃。
暖かい春の陽気が眠気を誘うある晴れた日の事だった。
「それでさ、5組にすっごいイケメンがいるんだって!
見に行ってみようよ!」
同じ中学出身の友人と話しながら食堂へ向かう楓。
「それこの前も聞いたって…
5組って私たちの教室から結構遠いし、イケメンを拝むためにそこまで労力使いたくない」
「楓のケチー」
この時までは少しめんどくさがりなだけの普通の少女だった。
…この時までは。
「わっ」
「うおっ」
曲がり角でぶつかるという古典的な出会い方。
何とか転ばずに済んだが、ぶつかった相手を見て、楓は一瞬だけ言葉が出なかった。
すらりとした長身に整った顔付き。
楓を見つめる瞳にかかる髪は綺麗な夕焼け色だ。
彼が、女子たちの騒いでいたイケメンだろうか。
「痛いねん、ちゃんと前見て歩け」
この地域のものではない訛りの入った声は、とても不機嫌そうで。
隠そうともしないその声音に、あまり気が長い方ではない楓がぶちっと切れた。
「はあ?
そっちがぶつかってきたんでしょ?
私が悪いみたいな言い方しないでくれる?」
「は…」
まさか言い返されるとは思わなかったのだろう。
呆気に取られたようにポカンと口を開け、関西弁の少年は固まった。
ざまあみろ、と心の中で毒を吐き、友人に行こうと声をかけ立ち去…ろうとした。
「ごめん、大丈夫?」
完全に油断していた。
まさか二度もぶつかるなんて。
今回は尻餅までついてしまい、恥ずかしさもあって相手をじろりと睨み付けた。
「怪我、してない?
ちょっと余所見してたから…
本当にごめんね」
差し出された手、光の加減で緑にも見える黒髪の下の目は、申し訳なさそうに楓に向けられている。
一瞬で、恋に落ちた。
「あ、えっと、大丈夫!
転んじゃっただけだから!」
「そう?なら良かった。
僕は草田真。
そっちにいるのが親友の火狩昶」
「私、水森楓です」
…ん?
「親友!?」
「小さい頃から一緒にいる幼馴染なんだ」
「何や文句あるんかい」
「別に文句があるなんて誰も言ってませんけど?
鬱陶しいんで話しかけないでもらえますー?」
「調子乗んなよボケ女!!」
「ぎゃあぎゃあうるさいのよ馬鹿男」
「すっかり仲良しだなあ」
「「違うから!!」」
「ってハモんな!!」
「こんな奴と仲良くなんて出来る訳ないから!!」
「聞けや!!」
「あはは、仲良しだ」
その日が、楓と昶が犬猿の仲として有名になった最初の日であった。