可愛くないヒーロー
人で賑わう校舎内。
原則2人1組でと決まっている文化祭委員の見回りを、楓は1人で行なっていた。
「何かあったらすぐ報告してね」
「はい!!」
今年入学したばかりの1年生は皆楽しそうに笑いながら初めての文化祭を楽しんでいる。
何も怒らないのが一番だ。
「水森先輩大変です!
うちのメイド喫茶でナンパがしつこくて…!!」
…何も起こらないのが一番なのに。
「良いじゃん別にー。
連絡先くらい教えてよー」
ヘラヘラと笑う2人組の若い男。
絡まれている1年生の女子生徒は今にも泣きそうだ。
「あれです水森先輩!」
「ドラマにでも出てきそうな典型的なナンパね…」
ここは私が何とかするから先生を呼んできてと指示を出し、教室内へ。
「や、やめてくださいっ…」
「おいおい泣いちゃったじゃねぇか。
その辺にしとけよ」
「だってよー、連絡先交換してくんねぇんだもん」
「…ウザ」
おっと、つい本音が。
「モテないからって自分より弱い子狙ってナンパとかダサ。
まず自分たちの顔、良く見直せば良いのに」
「ああ!?」
「何コイツ、調子乗ってね?」
「せ、先輩…」
「怖かったね、もう大丈夫。
皆のとこ行っておいで」
ニコッと笑って女子生徒を逃がす。
そんな楓の腕を男の1人が掴んだ。
「何、俺らの相手お前がしてくれんの?」
「…触んないでくれる」
「怖ー。
めっちゃ睨んでんじゃん」
掴む力が強くなる。
流石に力では勝てそうにない。
先生たちはまだだろうか。
「俺こういう生意気な女泣かせんの結構好きなんだけど」
男が楓に下卑た笑いを浮かべた顔を近付けたその時。
ガスッ
「いって!!」
殴打された腕を擦る男。
楓を庇うように立つのは、
「…ネコ?」
ニヤニヤ笑いのあまり可愛くないネコの着ぐるみ。
「何すんだテメー!!」
激昂した男が掴みかかろうとするが、間一髪で避け、ネコは楓の手を握って逃げ出す。
「待て!!」
「待つのはお前らだ」
「じっくり話聞かせてもらおうか」
「げっ」
応援に駆け付けた教師たちと、それに焦る男たちの声が背後で聞こえたが、
「ちょっ、ちょっと!」
「…………」
ネコと楓は、止まらずに走り続けた。




