僕の憧れ
「草田君のところカフェするの?
絶対遊びに行くね!」
「あはは、ありがとう。
宣伝で外にいる事が多いけど、もし会えたらサービスするよ。
水森さんのところは確かお化け屋敷だっけ?
委員長たちも張り切ってたよ」
「今年は特に怖いの作るから!
私も宣伝とか見回りとかで当日はいない事の方が多いんだけど」
「大変だね文化祭委員も。
僕に出来る事があったらいつでも言ってよ。
雑用くらいなら手伝えると思うから」
「そ、草田君…!!」
「…相変わらず俺の事は無視かい」
文化祭当日までもうすぐ。
副委員長として忙しく校内を駆け回る楓にとって、真と話せる朝の登校時だけが唯一の癒しの時だった。
「そう言えば昶、今日日直じゃなかった?
早く行かなくて良いの?」
「…お前の無駄に良いその記憶力がめっちゃ憎たらしいわ…」
俺のおらんとこで悪口言うたら許さんからな!と大声で宣言する昶の後ろ姿を見ながら、「子供か」と楓は小さく突っ込んだ。
「最近昶と水森さんが前よりも仲良くなってるみたいで嬉しいよ」
クスクス笑いながら真が言う。
「全然良くないよ。
草田君と話してたら毎回割り込んでくるし、いつもくだらない喧嘩売ってくるし」
それをついつい買ってしまう自分も自分なのだが。
「ああ見えて昶は水森さんの事結構気に入ってるんだよ。
アイツ、あまり他人に深いところまで踏み込ませないんだ。
高校に入るまで僕以外に友達っていなかったみたいだし。
昶が自分から関わろうとした人なんて、水森さんくらいだよ」
あの赤い髪といつも不機嫌そうな顔、独特な話し方で昶が怖がられている事は知っていた。
子供の頃はそれに悩んでいた事も。
だから、自分が昶と他人との橋渡しをするくらいしか出来なかった事が、
「悔しかったなあ。
昶は僕にとって親友で、憧れだったから」
いつだって虚勢で本当の自分を隠して、誰よりも寂しがり屋な彼の事を知ってほしくて。
「きっと昶は素直に言わないだろうけど、僕も昶も水森さんと出会えて良かったと思ってるよ」
「や、やだな草田君。
急にどうしたの」
「何となく伝えたくなって」
どうか、本当の彼を理解してあげてほしい。
心の底から、そう望む。




