天下統一
いろいろ迷った末、俺は思い切って北海道を目指すことにした。
この時代なら蝦夷地である。
この頃は蠣崎氏が完全に函館付近を制圧し、津軽の安東氏から独立しようとしていたころだと思う。
津軽海峡で隔てた地であり、徐々に南下していけばよほどのことがない限り、敵に背後をつかれることなく天下をとれる、という計画である。
俺はそのことを3人に話した。
3人はそのことに反対はしなかったものの、たったの3人で行くことは反対だった。
確かに兵もないのに攻めることは出来ない。
どうやって兵を集めるかが問題である。
そういっている間に安東氏が治める津軽へとやってきた。
村はどこも生活が苦しいようである。
津軽を治める安東氏が重税をしいているのかもしれないが、それ以上に山賊達が暴れまわっていることが分かった。
「この際、山賊の大将を倒し、俺たちが山賊になろう」
俺がそういうと、3人は一瞬考えたが、俺の考えに気づいたのか、すぐ賛成し、早速俺と有紀で山賊達のところへ向かった。
山賊もたった2人でやってくるとは思わず、驚いていたが、数にものを言わせて攻撃を仕掛けてきた。
そこで、俺は真とマイクが近藤に頼んで取り寄せた材料や道具で作った鉄砲で応戦した。
2人が作った鉄砲は、はっきり言って「機関銃」だった。
・・・こんなもん使ったら相手が可哀想・・・・とは言ってられないし、仕方ないな。
やらなきゃやられる。
毛利家で使えていた時もそうだった。
今は戦国時代。
可哀想とは言っていられない。
しかし刀や弓でやってくる山賊たちは、俺が撃ち続ける機関銃に驚き、逃げ始めた。
その間に有紀が山賊の大将を捕らえことに成功した。
俺は山賊の大将に命と引き換えに、俺の子分になるよう説得すると、すぐに応じ、配下の山賊80人と共に俺の子分となった。
俺はこの方法で近隣で暴れている他の山賊も子分にし、いつの間にか2000人を超える山賊の大将となっていた。
俺が山賊の大将になってからは、村への略奪を禁じ、真の指導で作った鉄砲を、マイクの下でロシアと交易し、収入を得るようにした。
そのおかげで、村人からも感謝され、主君の安東氏ではなく、俺たちに年貢を納めるようになった。
俺は山賊たちが食べられるだけの食料があればよいので、安東氏に治めていた時の半分の年貢を受け取り、更に交易で儲けた金の一部を分け与えた。
当然安東氏が俺たちに攻撃を仕掛けてきた。
その頃には真の作った機関銃も増え、更に交易に使っている鉄砲もあるので、簡単に追い返すことが出来た。
しかし、安東氏は懲りずに何度も攻めてくる。
この際なので予定を変更し、安藤氏を攻め滅ぼして、津軽の大名になることにした。
これまで攻めてこなかった俺達が攻めてきたので、安藤氏も驚き、しかも機関銃には全く抵抗できず、有紀の活躍もあって、3日で城を奪うことが出来た。
捕らえた兵や武将はなるべく殺さず、安東一族だけを追放したところ、生き残った兵や家臣は皆俺の家臣になった。
こうして、俺は津軽の大名となり、これまで以上にロシアとの交易に力を入れ、奥州最大の勢力、最上氏や伊達氏よりも豊かな国となった。
また、蝦夷地のアイヌとも交易を行い、蠣崎氏も俺たちに恭順の意を示した。
大名となった俺は内政をマイクや真に任せ、有紀と共に南下して、他国を攻め、天下統一に向けて動き始めた。
最上や伊達も意外と簡単に降伏し、奥州を2年で制圧した。
時代があと10年遅ければ、伊達政宗が頭角を現すはずである。
そうなってはなかなか奥州を制圧するのは難しかっただろう。
引き続き関東や越後へと攻め込み、北から南へと俺の領土を拡大していった。
そうしている内に、織田信長が本能寺で死んだ。
本能寺の変である。
俺はこの機会に次々と攻撃を仕掛け、歴史を変えていった。
柴田勝家は羽柴秀吉に撃たれるはずだったのに、俺に撃たれた。
そして、羽柴秀吉も俺に敗れ、俺の配下となった。
本州で残るのは、毛利輝元が治める中国だけとなった。
毛利輝元に使えていた俺に恭順するとは思えないが、一応羽柴秀吉を使者として出したところ、すんなり認め、俺の配下になると返事をよこしてきた。
俺は急いで広島城へ行き、毛利輝元に会った。
毛利輝元をはじめ、俺の元同僚達は皆、いつか俺が大名になり、天下をとろうとするときは、俺の配下となることを決めていたらしい。
俺は毛利輝元に頭を下げて礼を言った。
もう、元就は亡くなっており、隆景と元春が輝元の補佐をしていた。
俺は毛利輝元と共に九州へ攻め込み、羽柴秀吉や伊達政宗に四国へ攻め込ませた。
こうして天正14(1586)年、俺は天下統一を果たし、天下人となった。
天下人となり、俺のこの時代での目的は達成したはずである。
しかし、近藤は
「まだです。」
と言った。
ま、ま、まさか・・・。
世界統一はいくらなんでも・・・。
・・・しかし、結局朝鮮出兵をすることとなった。
羽柴秀吉がどうしても朝鮮へ攻めることを主張して聞かなかったからでもある。
しかし、近藤も朝鮮への進出を勧めたことから、俺は攻めることにした。
俺は30万の大軍を率いて朝鮮へと進出した。
日本は毛利輝元に任せることにした。
毛利輝元は、毛利元就が生前、「情けない」と言っていたほど、主君の資質に問題があったとされるが、毛利輝元は野望がなく、しかも俺には義理を感じている。
毛利輝元なら日本を平和に治めることが出来ると思ったのだ。
真が新たに開発した大砲を搭載した軍艦で次々と攻めて行き、朝鮮半島から明国、金、モンゴルを制圧、交易を続けていたロシアと同盟を結んで次第にヨーロッパへと進出した。
そして、慶長3(1598)年ついにヨーロッパ全土を制圧、俺は信長が目論んでいたという、世界制覇を成し遂げた。
その頃には近藤も俺と行動を共にしており、周りからは俺の正室という見方をされていた。
さすがに俺も未来に妻子がいるので、近藤には手を出していない。
しかし、近藤から「妻ということにしておいてください」といわれていたので、近藤の好きなようにさせていた。
これで戦国時代での俺の役目は終わったはずである。
俺は近藤と相談して世界政府の枠組み作りに奔走した。
経済関係はマイクや真に任せ、情報収集は有紀率いる忍者達が活躍した。
世界政府の枠組みが決まり、初代大統領に俺が就任した。
就任後、ようやく近藤が「そろそろ私達の任務も終了です」と言ってくれた。
戦国時代での日々も60年が過ぎていた。
長かった。
本当に長かった。
早く妻と子供に会いたい。
俺の想いはそれだけだった。
近藤は俺と共にローマへと向かった。
ローマのある教会の中に入り、古いドアを開けると、そこには懐かしい「転送機」があった。
「これは戦国時代へ来た本社の人たちが作ったものです。」
そうか、それで世界征服をしないといけなかったのか。
「何で日本に作らなかったんだろう」
「場所的にローマしかなかったそうです。」
「何で?」
「ローマは未来から多くの人が来ていたので、彼等にも協力させれば比較的早く完成させることが出来ることがわかっていたのです。日本で作るとなると、100年以上はかかったかも知れません。」
そう言って、俺たちは未来へと、俺の時代へと帰って行った。
「おかえり」
懐かしい声が聞こえた。
島村のにこやかな顔が見えた。
気がつくと、俺はヘルメットをかぶったまま椅子に座っていた。
「しばらくそのまま座っていなさい。体が馴染むまで時間がかかる」
そう言って島村は部屋を出て行った。
俺の隣の席には近藤が座っていた。
近藤もまだ体が馴染んでいないのか、何も言わず、じっとしていた。
少しずつ体が馴染んできた。
この戦国時代へ行く前の記憶が戻ってきた。
それでも早く妻と子供に会いたい気持ちに変わりはない。
しばらくすると島村が戻ってきた。
「二人ともお疲れさん。計画は大成功だよ。」
「では、未来も・・・」
近藤はうれしそうに言った。
「ああ、未来は変わったよ」
・・・・え?
「変わった・・・?」
「ああ、人類は火星に行かなくてもよくなったんだ」
・・・・え?
何がどうなったのか、まだ完全に馴染んでいない俺には理解できなかった。
俺が世界を統一したことで、未来の人類は引き続き地球に残ることとなった。
火星に行く必要がなくなったらしい。
環境の悪化で火星に行かなければならなくなったわけだから、環境が悪化しなかったということだろう。
それはそれでよいことだが、この時代にも影響が出ていることになる。
「すると、この時代にも変化が?」
「それは大丈夫だよ」
「未来に影響があれば、この時代にも影響があるのでは?」
「そうではないんだよ」
「?」
「未来だけを変えることができるんだ。」
「どうしてですか?」
「話せばながくなるし、難しい話だが、この時代には大きな変化はない。歴史は変わっているがね。」
島村はそう言って、歴史の本を俺に見せた。
島村が見せてくれた歴史の本を見ると、俺が世界統一を成し遂げた事が書かれていた。
そして、初代大統領就任後暫くして妻と共に姿を消したと書かれている。
俺と近藤が姿を消した後、マイクが二代目の大統領となり、その後10年程平和な時代となったが、各国で再び戦争が始まり、統一政府は消滅、後は今までの歴史とほぼ同じとなっていった。
日本では、毛利輝元が治めていたが、配下となっていた徳川家康が力をつけて台頭、関ヶ原で決戦となり、東軍の家康側が勝利し、輝元は萩以外の領地を没収された、とあり、後はやはりこれまでの歴史のままだった。
「歴史が元に戻ってますね」
「戻したんだよ」
「え?」
「今回の我々の目的は、地球の環境悪化を押さえ、未来でも地球に住めるようにすること。それ以外は元に戻したんだよ。」
それなら世界統一なんかしなくてもよかったんじゃ・・・。
「未来を変えるのはなかなか容易じゃない。思い切ったことをしないと駄目だし、どうすれば環境悪化だけを変えられるか分からないからね。」
なるほど。初めはら分かってればそれだけをすればいい。
分からないから思い切ったことが必要だったのか。
「すると、未来商事の本社も地球にあるんですか?」
「いや、火星だよ」
「え、火星に移住しなくてもよくなったんじゃ・・・」
なんか訳が分からない。
「地球の環境悪化だけを変えたんだ。火星に人類は移住しているし、未来商事の本社も火星にある。」
「ところで、俺達が戦国時代に行ってから、こっちはどれくらいたっているんですか?」
「8時間位だよ。今日の仕事はもう終りだ。明日は今回の事の報告書を作ってくれ。」
こうして、60年分の仕事をした一日が終わり、帰宅することにした。




