いつか会った少女からの手紙
「雨矢ぁ。何か届いてますよ?」
そう言ってマネージャーの篝さんが、いつも通り名前にだけ丁寧語を発動せずに持って来たのは、一通のエアメール――海外からの航空便――だった。
「海外に知り合いなんていたんですか。意外ですね、どんなヒトなんです?」
彼はそう尋ねながら、カップに注がれた珈琲を二つテーブルに並べ、僕の向かい側のソファに座る。
「ありがとう……うぅん、どんなヒト……と言われても。僕にも心当たりがなぁ……?」
封筒には筆記体の英文字が羅列されていて読むのが少し面倒だったので、手っ取り早く封を切る事にした。
「ん。中身は日本語だ」
お久し振りです、ゆみたくん。あたしのこと、覚えているかな? もう、十一年も会っていないし、その十一年前も、一緒に過ごしたのは、ほんのひと月位だったから、もしかしたら忘れているかもしれないよね……そんなことないかな。とりあえず、改めて自己紹介するね。あたしは峰咲。今は、小さいけど、動物保護団体で獣医として、いろんな世界を回っているの。まだ見習いみたいなものなんだけれどね。それで、本題なんだけど、今度二年ぶりに日本に帰れることになったの。だから、もし良ければ、会ってみない? お互い、中途半端にだけど、夢を実現させた事だし。どうかな? あたし、たぶんあの夏が無かったら、今こうしてられてなかったと思うから。ずっと前から、また会って話がしたいなぁって思ってたんだ。たぶん、八月の二十九日から三十一日まで、実家のあるあの村に居ると思うから。もし気が向いたら遊びに来てね。待ち合わせは、いつもの場所で。
「ふん。なるほど……」
特に意味もなくそう言って、感情を表に出さない様にするのが精一杯だった。
忘れるなんて、とんでもない。これから僕がこの世界でどれだけ活躍できたとしても、どれだけ有名になったとしても、彼女を忘れることだけはあり得ない。
そんな自分は認められない。
「ねぇ篝さん、八月の最後の三日って、何か予定あったけ?」
僕だって、
「はい?」
僕だって、
「忘れたんですか?」
ずっと伝えたいことがあった。
「その日まで雨矢はフランスに居る予定じゃないですか」
ずっと会いたかった。