三日目
「……ミネ、サキ」
「えっ、何?」
崩れた社の木材を、まだ使えそうなモノと、完全に折れてしまっているモノにより分けていると、しばらく無言だった彼女は、突然そういった。
「あたしの名前。まだ言ってなかったよね」
「うん」
「これから、しばらく一緒に作業するんだし。名前くらい知らないと不便でしょ」
「そうだね……でも、ミネサキさん。コレ、よく考えたら、僕関係ないよね。壊したの僕じゃないし」
ってか君だし。そう言うと。ミネサキさんは、
「はあ!? 何言ってんの? そもそも雨矢くんが来なければ、こんなことにはなってないんだからね!?」
と、よく分からない怒りをあらわにしてきた。
「え? ……え? 君が勝手にどっかから降ってきてぶっ壊したんじゃないの?」
僕はもう、ポカーン? である。怒られる理由が分からない。
「だぁかぁら! 突然ヒトが来たりしなければ、あたしもびっくりして木から落ちたりなんかしなかったでしょ!」
「君なにしてんの!?」
見たところ、彼女は僕と同年代だから、高校生くらいだろう。……そうかぁ、田舎の高校生は、独りで木登りとかするものなのかぁ。
なんて、偏見満載な妄想をアクセル全開で膨らませていると、ビシッ! と音が聞こえそうな程のキレで腕を振り上げ、近くの木の上を指差した。
注連縄が巻かれているから、御神木か何かなのだろう。かなり幹が太く、手が届く様な低い場所に枝は生えていない。おそらく、この木に素手で登るのは無理だろう。
「あそこ見える?」
そう言われて、指の先を探すと、なんとか鳥の巣の様なものが見えた。
「鳥の……巣?」
「そう。あそこの親鳥が他の動物にやられちゃったみたいでね。だからあたしが毎日餌をあげてるの」
餌をあげてる、って。
「これを登って……?」
「そうよ。ちょうどいいから、今あげてきちゃうわ」
何やら袋を取り出すと……昆虫が入った袋を取り出すと、それをポケットに詰め込み――虫が入ってるのに――躊躇なく詰め込み。御神木を駆ける様にして――土足で遠慮なく……地を駆けるが如く登って行った。
人間の運動能力であの枝まで届くんだ……いや、問題はそこか? 僕。
「野生の人間……もうサルだろ、あれ」
サルも木から落ちることを知った、僕とミネサキさんの三日目。