二日目
昨日は突然のことに驚いて何もできなかったが……今日はそうはいかない。
あの後。社の上に着地、もとい粉砕した彼女は、一応まずいことをした自覚はあったのか、僕と目を合わせるや、野狐の如く軽敏に逃げ去った。……まあ、僕は野狐なんて見たことはないのだけれど。とにかく、風が過ぎ去るように、気付けば何もいなくなっていた。
一瞬、田舎では妖怪が出るものなのだろうか、なんて考えたが……どう見てもあれは、ただの女の子にしか見えなかった。
たんたんたんたんっと。
今日もまた石段を登りきる。昨日のまま、やはり社は、ちゃんと崩壊していた。
そして、
「こんにちは」
「っ!!」
野狐少女もそこに居た。
野生動物の様な警戒の目で睨み据えられる。
「……きみ、は?」
が、流石に言葉を話せるあたり、やはり人間で間違いはないだろう。
「あっ、あの、僕は雨矢弓夕。今は東京から、父の居るこの村に遊びに来ていて……それで昨日は、少しこの辺を散策してたんだけど……」
「ぁあ、他所の人間か……」
「あのぉ、もしかして、僕、ここに来たらまずかったのかな?」
「そんなことないよ、ただ、この村のヒトたちにとって、この山は特別な場所らしくてね、だから普段は誰も登っちゃ来ないんだよ」
話を聞いて、社の残骸に目が移る。
「もしかして、その社が特別な何かだった……とか?」
思い付いたまま尋ねてみたが。
「…………」
「…………」
ふたりして残骸を見つめ黙る。
どうやら正解だったらしい。
「ねえ、雨矢弓夕くん。きみ、工作は得意?」
ザックリと説明すると、父の研究している分野は『建築学』だ。
「うん、たぶん、そういうの結構得意だよ」
こうして始まる建築の夏、僕と野狐少女の二日目。