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夢売りのミン  作者: 赤砂多菜
第一章 夢売りと復讐者は出会う
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02話

 はい?


 村人相手に商っていたミンは突然の叫び声に内心首を傾げた。

 が、どうやら相手の目標は自分らしい。

 他に夢売りいないようだし。


 とりあえず、痛い思いをするのは嫌ですね。


 彼女は立ち上がって錫杖を持った。

 彼女を囲んでいた村人が割れて、襲い掛かって来ているのが誰か分かった。


 なんと、死の川で拾ったあの方ですか。これは予想外。


 目には狂気に近い怒りの光を放ち、もう瞬きする時間で間合いに入る。


 とりあえず、言葉じゃ止まらなそうです。という訳で。


 辺りに金属が激突する音が響き渡る。

 彼の一撃を錫杖の尖った先端と円の外側で受け止めたが、予想以上に重い。

 なんとか、力を横にそらして一歩下がる。

 そして、彼を観察する。

 精かんな顔つき、歳は二十代半ばだろう。服装や筋肉の付き方から生粋の剣士という訳ではないようだが、若さと感情が生み出す一撃の威力は侮れない。


 困りました。どうしましょう。


 彼女には困った事を先送りにする癖があったが、さすがにこれは先送りという訳にはいかない。

 何より、村人達にとばっちりがとんでも困る。

 暢気に考えながら、彼の斬撃を錫杖で防いでいたが。


 仕方ありません。成仏してくださいね。


 物騒な事を考えつつ、彼の後頭部に空いている側の腕で肘撃を見舞う。

 一撃では落ちない可能性も考慮して、錫杖は構えたままだったが、彼は糸の切れた人形のようにその場に倒れ伏した。

 村人達が駆け寄る。


「ご、ご無事ですか? 夢売り様」

「この通り、傷一つありませんよ。ただ……」

「ただ?」

「……また、意識なくしちゃいましたね、この人」


 やった当人が困ったように言うが、村人達はそれ以上にどうすれば良いのか困っていた。



*---*



 唇に柔らかな感触を感じた。

 イヌカイはまだ意識が朦朧としたままだった。

 唇の間をやわらかいものが割ってはいって、何か粘性のある液体がおくられてくる。

 無意識にそれを飲み込んでしまった。

 そして、それまで無意味でしかなかった視界の情報が、急速に意味を把握し始める。

 言葉どおり、目と鼻の先に女性がいた。さきほどから唇に感じていた感触は彼女の唇だった。


「――――――っ!!!」


 唇を押さえて、急バックする。

 痛そうな音がした。

 家の柱を後頭部が直撃したのだ。

 イヌカイは涙目で後頭部を押さえる。はっきりわかるほどのこぶが出来ていた。

 よく見ればここはさきほどいた家の中だった。戻された訳だ。


「?」


 声が聞こえた気がした。

 目の前の女性。そう、イヌカイが切りかかった夢売りの女性。

 彼女の肩が震えている。ただでさえ、眠たそうにも見える細い目がさらに細められている。

 なんとなく、彼女が何を我慢しているのか察しはついた。


「笑いたければ笑えよ」


 窒息するのではないか? そう思えるほどしばらくの間、彼女は笑い転げていた。



*---*



「えー、失礼しました」

「……あれだけ、笑い尽くして失礼も何もないと思うが」

「ま、まぁ。それは脇へ置いて」


 女性は横に置く仕草をする。


「とりあえず、お名前を教えていただけますか?」


 仮にも切りかかった相手に最初に聞くべき事かとも思ったが。


「イヌカイだ」

「イヌカイさんですか。あ、私はミンと申します」


 深々と頭を下げる。


 こいつ本当に神人なのか?


 そんな疑問が頭をよぎったが、頭を上げた彼女の左目はたしかに銀色だった。


「よろしければ、私に切りかかった理由を伺ってもよろしいですか? 正直心当たりがなくて困っているのですが……」


 本当に困ってそうなミンの言葉に、ボソっと言った。


「焔の地、四越村。覚えは?」

「焔の地には行った事はありますが……その村には行った事がないですね」

「そうか……」


 嘘を言っている可能性もある。

 だが、冷静に考えてみれば、行き倒れを助けるような者が、彼の故郷にした振る舞いをするとも思えなかった。


「すまないな。こちらの間違いだ。命の恩人にとんだ無礼をしてしまった」


 イヌカイは姿勢を正して深々と頭を下げた。


「誤解ならいいのですが、事情を伺ってもよろしいですか?」

「なぜ?」

「あなたは私を夢売りと知って切りかかってきた。つまり、あなたは私ではない夢売りを殺したい程の恨みがあるという事ですよね」

「……仇だ。四越村のな」

「話してくださいな。もしかしたらお力になれるかも知れません」

「力?」

「もし、夢売りの――神人の不始末であるのならば、同じ神人が後始末をつける義務があります」


 ミンは相変わらず眠たそうな目をしていた。だが、その目に宿る光は真剣だった。


「後始末と言われても、そうされると俺の仇討ちの行き場がなくなるのだが……。

 まぁいいだろう。あんたには迷惑をかけたからな」


 そして、イヌカイは語り始めた。滅んだ四越村の話を。


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