第三回 従来ソフトのVR対応パッチとMMORPGの登場
ゲームの開発には時間が必要である。それが五感すべてに働きかけるとなれば尚のこと。
人気のあったゲーセン時代の有名タイトルを看板に個人用ゲーム機として発売されたイマジネーター。
完全新作もいくつか出るものの、ペースは遅い。
私達が夢見た『現実かと思うような剣と魔法のファンタジー』は長らく登場しなかった。
莫大な設定が必要なものなので、金も時間も必要なのだから同然だ。
そこで、メーカーは従来のハードのソフトをVR対応にすることを考え付いた。
とはいえ、何もかも対応させるのでは新作を作るのと変わらない。
よって一部を対応させるパッチを発売した。
例に挙げるとするなら、絶景を眺めるシーンを対応させる。戦闘シーンのみを対応させる。
それは、一枚絵の風景を3次元に直し、リアルに感じ取るようにすること。
それは、平面のエフェクトだけだった戦闘を、システム的には変更せずに主観にすること。
そんなわずかな変更だ。だが、メーカーとしてはノウハウを学べる上に、少しずつ頻繁に発売できる。
昔の人気作を題材にすることで昔ながらのファンを呼び戻し、イマジネーターの普及に貢献した。
ちなみに、これは過去のソフトのデータと追加パッチをインストールすることでプレイできる。
つまり昔のソフトのダウンロード販売も行われ、メーカー的には時間稼ぎとして最良だったようだ。
中には昔のソフトを買ったものの、追加パッチが販売されなかったものもある。
私もそんな苦い経験をした一人である。新着ソフトに並んでいたからパッチが出るものだと思ったのだが……
この追加パッチの総称は「カコジネーター」。
「今」ではなく「過去」という駄洒落のネーミングは賛否両論である。
そうして新作をぽつぽつ、カコジネーターを頻繁にという状況が数年続いた。
ネット上では「もうMMOが出てもおかしくない」「イマジネーターはオワコン」「メーカー何やってんだ」など紛糾。
イマジネーター発売当初は「完全理想現実はすぐそこだ!」と息巻いていた連中だったが、
数年の技術の停滞に「完全仮想現実なんて情報量的にやっぱ無理」という現実的な意見に落ち着いた。
そんなある日、全世界待望の『剣のファンタジー』が発表された。
この伝説のソフトは「ソードファンタジア」通称「SF」
ストーリーは短い。バトルもコマンド。マップも狭い。周回で俺Tueeeeができる程度の1人用ゲームだった。
しかし、情報量の多さは類を見ない程。ゲームソフトがハードディスクだったというのがその証拠。
値段もかなり高額であったが、世界中が熱狂し、爆発的ヒットとなった。
風も特定の場所でしか吹かない。天気は晴れのみ。草木は少ない。飲食は種類が少ないし、一日の回数制限がある。
だが、質感や匂いはリアルであり十分に価値があるとはネット上の評価である。
ソードファンタジアは発売後も追加パッチを出してゲーム内のオブジェクトやマップを増やしていった。
「DC大杉。キタナイ。さすがメーカーキタナイ」との意見があったもののファンは増えたようだった。
廉価盤(現在までの追加パッチ入り)を出して新規参加者を増やしていたのも人気の秘密かもしれない。
続いて、魔法のみ使えるRPG、剣と魔法が使えるRPG、店舗経営の生産ゲームなどが次々と発売される。
再びメーカー各社が経験を積みあげ、コンピュータの性能を上げる期間が数年あった。
そして「ソードファンタジア Online」通称「SFO」が発売。
負荷を抑えるたまに一つのサーバの参加人数は少数だったが、サーバの数を増やすMORPG形式。
それでも抽選で選ばれた人しかプレイできない状態だった。
ちなみに各サーバーは「第○○世界」と呼び、ゲーム内ではパラレルワールド扱い。
プレイの傾向やキャラの成長具合で半年に一度の頻度で所属世界の変更を促され、プレイスタイルの似たプレイヤーと一緒になれた。
だが、まだ自由度は少なかったと言える。
相変わらず戦闘はコマンド。防御回避はキャラのステータス依存。移動可能エリアの狭さなど。
一つが発表されると次々に発表されるのが世の中というものなのだろうか。
魔法を扱えるもの、生産職を追加したもの、後に続くソフトは相変わらず人数制限されていたが人々を楽しませた。
これらは多数の廃人プレイヤーを生み出し、社会現象にもなった。
昔、VRMMORPGを題材にした小説、漫画、アニメのネタが無数に盛り込まれた世界はまさに夢のようであった。
とあるゲームにおけるイベントでは広場上空に浮かぶ人物が現れ「君たちはデスゲームの参加者だ」と宣言した。
当然、ログアウトボタンは使用できるし、死んでも生き返るのだが、プレイヤー達を少しの間大混乱に陥れた。
浮かぶ人影がデスゲームの説明の締めくくりとして「今これより私を倒せたら解放する」と告げた。
同時に、そのゲーム史上最大の集中砲火が始まったのは言うまでもない。
製作者も驚くような集中砲火で、デスゲームからあっという間に解放されたという笑い話である。
「広場は無敵状態にしとけよ」とか「ボスに同情しちまったぜ」とかネットでも話題になった。
そんな歴史のVR界なのだが、現在話題なのは「UFO」である。
正式名称「アンリミッテッド ファンタジー オンライン」
剣と魔法、各種生産、自由度の大幅増加。なにより人数制限がない。3か月に1度はアップデートがある。
「この伝説は終わりがない」のうたい文句通り、一部の廃人以外はクエストを大量に残した状態でアップデートを迎えている。
最初は80レベルが最高だったが、今では270まで上限が上がった。
アイテムは増え続け、クエストと敵の種類は溢れんばかり。
今日もまた廃人を量産している。
さて、今日は何をしようか。
「カコジネーター」でチートパッチ作ってプレイ中に停電、ゲーム世界へ。
神様転生ではない、自分で選んだ能力を持った転生か憑依を考えた結果がこれ。前置きが長すぎるのでボツ。