第二回 ゲーセンにおけるイマジネーター
また年寄りの話に付き合ってくれてありがとう。
そうだな。今回はイマジネーターが一般公開されたゲーセンでの話をしようか。
「装着型完全VR機器 イマジネーター」はゲーセンの筐体として一般公開された。
ジャンルは1人用ガンシューティング。
プレイヤー以外にも見えるようにヘッドギアとは別に大きめのディスプレイも用意されていた。
データ量を減らしたカクカク映像、リロードはしゃがんだ状態でトリガーを引くだけ、細かな動きは反応しない。
動作的には、従来のガンシューティングのペダルがなくなっただけのようなものであった。
だが、銃の反動を感じ、ダメージを受ければ少し痺れ、花火程度の火薬の香りを感じれば楽しかった。
椅子に座り、西洋鎧のような兜を被るだけで操作ができる。
それは思い描いていた理想だった。
私も年甲斐もなく仕事帰りにゲーセンに通い、列に並んだものだ。
運動不足な体でも若者以上の動きが慣れれば可能というのも、私を熱くさせた理由だろう。
通いつめて高得点を出していたせいか、若い子達に話しかけられ、一緒に夢中になったのも良い思い出だ。
女性向けのゲームとして着せ替えものが出たのも同時期だったと思う。
初期設定のキャラまたは、写真をもとに作る自分の分身に服を着せるというもの。
服の肌触りとか、香水の匂いとか、アクション性を排した分、感覚的なものはこちらで進化していたように思う。
髪型を変え、服を変え、喫茶店のテラスで数種類の飲み物と食べ物をとる。
それだけだが、人気が出た。頻繁に服などのアップデートが行われていたし、データ量はガンシューティングを軽く超えていただろう。
味覚を刺激し満腹感を与える行為は、現実世界での食事摂取に影響する可能性が開発段階から問題視されていた。
だが、ゲーセンでは長時間の占有が難しいこと、個人アカウントによる1日の稼働制限を設けることでGOサインが出たらしい。
私も数回遊び、紅茶とコーヒー、シュークリームを食べた。
味や香りは実際に食した人の脳内信号を参考にしたとかで、確かにおいしかった。
実際の喫茶店とのコラボレーションも行われ、プログラマーとパティシエの妥協を許さない真剣勝負であったとか。
装置は同じでも中のデータを変えるだけで別のゲームとして使える。
イマジネーターはゲーセンにとって初期投資は高いが都合の良い筐体だった。
瞬く間にイマジネーターを設置したゲーセンが増えた。
漫画や小説で題材にされた『電子仮想空間での多人数プレイ』は、対戦もしくはテラスでの相席という形で実現した。
その後、ジャンルを変え、リアルさを求め、イマジネーターは新しいゲームを提供した。
さて、ここで欠かすことのできないゲームタイトルがある。
出来は間違いなく最高傑作だが、稼働筐体が著しく少なく、設置期間も短かった。
そんな伝説となったゲームの名は「フリーフォール」。
スカイダイビングを題材にしたゲームである。
オープニングで実写が用いられ、スカイダイビングの装備を背負った人達がヘリに乗り込む映像が流れる。
そして、ステージセレクト。実際に存在するドロップゾーン、つまり降下場所を選択できる。
日本は6か所で四季の選択ができる。海外はハワイ、グアム、ラスベガス、ニュージーランドなど。
そしてゲームスタート。スタートと同時に自動的にヘリから空へ飛びだす。
モードや場所によって滞空時間は異なるが、空中にいる間は自由に操作できる。
一定の高度になると自動的にパラシュートが展開する。もちろんそれまでに展開することも可能だ。
この落ちる感覚に耐えられない人用にリタイアボタンが用意されており、いつでもステージセレクトに戻ることができた。
単純にダイブを楽しむ他に、落下中に特定の動作や指定されたフォーメーションをとることで得られるポイントで競える。
実際には存在しないダイブも、隠しステージとしていくつか存在する。
ステージ「冥界ダイブ」はひたすらに闇の中を落ち続け、腕の計器を頼りに闇の底に着地するというもの。
ここでは降下時間の最短を競い、パラシュート展開のチキンレースが行われる。
遅すぎると、視界が真っ赤に染まり、全身が痺れるエフェクト付き。
ステージ「永遠落下」は名前通り。終わりなき青空が楽しいステージであった。
このゲーム、実際のダイビング映像と音に風を受ける感覚を加えるという手法をとっており、風景は素晴らしくリアルであった。
多人数での降下では他の人がCGになり、リアルさが半減するという欠点もあるが許容範囲。
このゲームはプログラムデータの量を減らして質を高めた作品と言えよう。
そのあまりのリアルさに現実で失禁する者が出たため稼働停止になったという嘘か誠かわからないような話もある。
そうして、いくつものイマジネーターを使用したゲームが発表された。
広く認知された頃、兜型からヘッドギア型に変更された。
これにより視覚聴覚の臨場感はより一層高まった。いや、実写を使用したものに限って言えば現実と変わらないレベルになった。
さらに技術革新は進み、満を持しての個人用発売となる。
満腹感を与えるコンテンツには一日の使用制限がかかるなどの対策済み。
当然、最初のジャンルはガンシューティングと着せ替えものであった。
続けて発売されたソフトだが、実際の映像と音を使用したものが多かった。
伝説のゲーム「フリーフォール」も発売され、人気を呼んだ。
『高所恐怖症の方はご遠慮ください。防音モードでプレイしてください。自宅内1人プレイ推奨』
と大きく書かれたパッケージは流石であった。
イマジネーターには、プレイ中に現実で誰かに話すための外話モード、ゲーム内に完全に入る場合の防音モードが存在する。
外話モードで「フリーフォール」をプレイすると雄叫びが近所迷惑になるため、この注意書きである。
自宅内1人プレイ推奨は失禁した場合を考えてかもしれない。
新規ステージとして追加された場所は明らかに街中で、撮影のためにカメラだけを落とすという荒業を使用したらしい。
日本の日常ステージ「東京スカイツリー」「50階建て高層ビル屋上」は設定高さが低い分怖かった。
今回は短いがここまでだ。
つまらない話だっただろうが、聞いてくれてありがとう。