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第一回 現在のヘッドギア型に至るまで





貴方達はゲームは好きだろうか。

私は大好きだ。もうすぐ老人の区分に入りそうな私だが、新作の発表には未だ心躍らせている。

そんな年甲斐もない私の話を聞いてくれるとありがたい。


ゲーム、正確に言えばコンピュータゲームに出会ったのはPC-98のころだろうか。

物心ついてすぐのあの頃、ドットで描かれた簡単なゲームであったが心底わくわくしたのを覚えている。

あれから年月が流れ、未だゲームは進化を続けている。

キーボードが専用コントローラになり、今は考えるだけで済む。

粗いドットは、現実と見間違うばかりに。

カセットは無くなり、ネット上からデータを購入してヘッドギア型の本体にインストールするようになった。


関係ないが、今は見ることも少なくなったドット絵。あれには不思議な魅力があると思うのだがどう思うかね。

最低限の描画で表現するさまは、見えないものが見えるようで、人間の想像力とはかくも素晴らしいものかと思い知らされる。

CGやアニメが発達して徐々にドット絵を描ける人が減り、ほぼ絶滅したのだが実に残念なことである。



このヘッドギア型のハードウェアは『装着型完全VR対応ゲーム機』と呼ばれる。

VRというのはヴァーチャルリアリティの略称だ。

『仮想現実』と訳されることが多いが、『実質的現実』と訳すほうが個人的に好みである。

たしか『存在しない、または現実と異なるものを使用者の五感に働きかけて錯覚させる技術』だったか。

今でこそ個人用ゲーム機なんてものになってはいるが、とんでもない技術の塊である。



昔から完全に五感を操るVRが想像されていた。想像の世界に飛び立つ夢の機械。不可能を可能にするもの。

それを題材にした小説やアニメ、漫画も多い。盛り上がり始めたのは私が二十歳ぐらいだっただろうか。

空想は現実にしてみたいものなのである。ここ30年の技術の進歩はそういう夢を追う馬鹿どもが支えていたに違いない。

ネットにはVR機器に関しての情報をまとめ、完全なるVR機器誕生までを記録するスレができた。

スレタイが「二次元彼女とラブイチャまでの道のりスレ」だったのは流石と言えよう。

かくいう私も初期からの住人で、様々な話題に一喜一憂したものである。










最初、VRは視覚に訴えるものだった。

一昔前まで教習所でシミュレーターとして使われていたのはこのタイプ。

ディスプレイに映した風景に対処するゲームセンターの筐体みたいな奴で、私もこの世代だった。


画面にさらなる臨場感を与えるため、聴覚に訴えるリアルサラウンドなどの立体音響が誕生。

実際に周囲をスピーカーで囲むタイプや、ヘッドホンタイプが主流となった。


次に触覚。最初に誕生したのは、空気で膨らむベストのようなものを着るタイプ。

テレビ電話越しに人形を抱きしめ、その感触を相手に伝えるというロマンチックな使用法が流行ったらしい。

私はそんな遠距離恋愛どころか恋人さえいなかったので無縁だった。

まぁ、「リア充爆発しろ」と叫んでいたから全く縁がないわけでもなかったのだが。

主流になったのは、膨らむスーツで全身を包むタイプと、カプセル内をジェルで満たしたタイプだった。

エロゲ対応のものもあったが、高い上に場所をとるので私は購入を見送った。


嗅覚と味覚はずいぶんと発展が遅かった。

人間の感覚ってのは複雑なものらしく、無数の化学物質の刺激によって成り立つものらしい。

その刺激物質をとことん調べ上げ、組合せるといった気の遠くなる作業があったのだとか。

私には難しすぎて詳しいことはわからん。

話題になったのは、口や鼻にチューブで化学物質を入れて再現するタイプ。食感は再現されなかった。

いや、再現するタイプもあるにはあったが、硬さが調節された無味無臭の寒天と化学物質の同時摂取だった。


この時点で五感すべて再現できるようになったが、まだまだ改善の余地ありは十分にあった。

触覚に関して言えば、実際の体に圧力や温度を与えることによっての再現。

つまり、痛みを再現出来なかった。正しくは実際に体が傷んでしまうのでそれって仮想じゃねぇよってこと。

嗅覚・味覚は数百もの化学物質の小瓶が必要。味覚では、化学物質に加えて寒天の形状と硬さ、温度を調整するという工程の多さ。

五感すべてを体感するためにはかなりの重装備になる。

視覚はヘッドマウントディスプレイ。聴覚はヘッドホン。触覚は全身スーツまたはジェルカプセル。

嗅覚は酸素チューブに似たようなもの。味覚は食感を諦めてチューブを咥える。

ドン引きするぐらいの重装備だ。しかも顔は他の機材が邪魔をして触覚を伝えない。

つまり、二次元の彼女とのキスは無理だったのだ。ネットでは大勢の奴らが枕を濡らした。





さて、そうなると完全なる『完全なVR』を求める人々は刺激する対象を変えねばならなかった。

末端である体の各位ではなく、電気信号を受けて判断を下す脳へと。

脳を自由に扱えるようになれば、さっき例に出した問題は解決できる。

加えて、空腹感や平衡感覚などの体の深部で起こる状態も再現できるようになる。


すぐさま、どのような状況でどのような信号が体のどこをどのように流れるのか調べられた。

脳がどのような反応し、どの神経が伝達するのか。

それは人というものを調べ上げることであった。

これにより、医療も多大な進歩を遂げた。

たしか、この頃に体中にセンサーを付ける被験者を集める広告をちらりと見た覚えがある。

この進歩に貢献した被験者の何割が、ネットで枕を濡らしていた奴らかは知らないが応募者多数だったとか。




さてお次は信号をどう流すか、である。

脳へ電流を流すだけでは感覚を伝えることは出来ない。そんなことをすれば命さえ危うい。

脳は繊細な神経が無数に集中する場所である。

特定の神経に電流を流す。それは周りの神経を刺激せず、奥の神経だけを刺激する必要がある。

この方法が難航を極めた。この段階で数年話題が途切れたほどだから

漫画や小説のように首に電極を取り付ける方法も考えられた。

首に電極を付ける。つまり首の神経に電極を当てるということだ。

神経まで届かせるとなると動くたびに神経に触れ、ヘルニアのような痛みに苛まれるだろう。

下手をすると神経に傷がつき、首から下が動かなくなるかもしれない。

まあ、素人の私が思いつくのだから当然却下だ。


そして、最終的に考え付かれたのは脳腫瘍の治療法を真似たもの。

ガンマナイフ治療というものをご存知だろうか。

ガンマ線で脳腫瘍を死滅させる方法なのだが、強力なガンマ線を照射すれば周囲の健康な部位まで死滅させてしまう。

ゆえに、多方向から少量ずつ当て、その収束点で効果を発生させる。

これを電磁波で行うのである。


だがまぁ、言うは易く行なうは難しである。

強い電磁波は肉体に悪影響を起こすらしい。電子レンジのマイクロ波は白内障を発生させるとか一時話題になったものである。

それゆえに多方向から微弱なものを無数に放つ必要が出た。

肉体によって電磁波は吸収・屈折・散乱・回折・干渉・反射され、一点に集中させることは至難の業。

数が増えればその難度は増す。

VR内で日常生活と同じ感覚を得るには、人間の発する信号と同速度の信号を発する必要がある。

その信号は一秒のうち何度発せられているのだろうか。いや途切れることなく続いているに違いない。

途切れることなく電磁波を発した状態で、後から発せられたものが前に発せられたものの影響を受けないものだろうか。

屈折して届くのが遅れたものもあるだろう。異なる場所を刺激するために発せられたものがたまたま重なって収束する可能性は高い。



脳への入力だけでなく、脳からの出力に関しても問題があった。

どのような信号が出ているかの観測法はすでに確立している。

問題は、ゲーム内で動くために送られた信号をどうやって現実の体が受信しないようにするかである。

ゲーム中では現実の体を動かすのと同じ方法で動き、現実の体は椅子に身動きせずに座っていないといけないのである。



ほかにも莫大な問題が生まれたが、技術者達は一つずつ解決していった。

それは服用薬が必要であったり、特殊な帽子だったり、時間制限だったり。

そして技術を高め、手順を減らしていった。





その努力は実り、完全VR機器は完成した。

被れば目と耳が隠れ、鼻と口しか外に出ない。まるで頬当てのような部分もあり、西洋の兜であるヘルムを彷彿とさせた。

ゆえに発表された名称は「装着型完全VR機器 イマジネーター」。

この時点では脳への刺激を少なくするために視覚と聴覚は、ヘッドマウントディスプレイとヘッドホンであった。


さらに改良されて、すべての感覚を脳へ直接送る現在のヘッドギア型になる。

これによって、長年の問題であったゲームによる目と耳を悪くする可能性が無くなった。


イマジネーターは初めゲームセンターの筐体として一般公開されるなど語れることは多いが、今回はここまでとしよう。

また付き合ってくれるとありがたい。






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