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Angel Feathers  作者: 奈名瀬
4/4

主人公「庵」は読み方「いおり」

 妹、「苺」は「いちご」

 父、「竜胆」は「りんどう」

 母、「花梨」は「かりん」


「――ちゃん! にいっ――ん!」

 ないっ! 世界でお前と二人っきりになっても、理性の欠片がいっぺん残らず飛んでっても、お前だけはっ――

「兄ちゃん! 火っ! 火っ!」

「えっ? うわっ! あち!」

 俺は弟の声で我に返った!

 あぶねぇ……現実はみそ汁の鍋が噴きこぼれるところだった。

 慌てて火を小さくする。

「どうしたの? ぼーっとして……兄ちゃん大丈夫?」

「ああ、うん。大丈夫、心配ありがとな」

 心配性なつくしの顔がパッと明るくなる。

「うん! じゃあ僕、父さん達起こしてくるね」

「ついでにお前の姉ちゃんも起こしてきてやってくれ」

「ぅんっ、わかったっ」

 はぁ……朝から気が遠くなるほどの妄想の世界へ旅立っていたなんて、今年二けたの弟には、とてもじゃないが言えない。兄として、弟に悪影響な発言は控えねば……

「あにきぃ……」

 純真な弟を称賛したい気分の俺に、今度はだらしなく妹が泣きついてきた。

「あれ? 苺、もう起きてたのか?」

「うんんぅ……めずらしくぅ」

「はぁ……それ自分で言ってて悲しくならねぇか? ほら顔洗ってこい。もう飯できるから」

「うえぇ……めんどくさいぃ。ご飯先でいい?」

「女の子がそういう事めんどくさがるなよ……」

 苺は薄く目をこすっている……朝方、よく目の周りにくっついてるあれをとってるんだろう。はぁ。なんで俺は中学生にもなった妹のこんな醜態を見てるんだ?

「ほら、ささっと顔洗ってこい」

 苺は口から壊れたエアコンみたいにぶうぅという音を出しながら洗面所に向かった。

 そして、ほぼ同時に戻って来たつくしとキッチンから出ようとした苺がぶつかりそうに――

「わっ! 姉ちゃん、おはよう」

「ん、ほよぅ……」

 なったけど大丈夫。そして、つくしはトテトテと俺の隣にかけよる。

「兄ちゃん、父さん達起きたよ」

「おお、ごくろうさん」

 そう弟を労ってみたけど……なんか浮かない顔だな。いつもならもっとひまわりな笑顔全開なのに。

「…………」

「どうした?」

「兄ちゃん……僕なんか忘れてない?」

「なんかって?」

「なんか忘れてるような気がするんだよ……」

「思い出しそうか?」

「うぅーん。びみょう?」

 そのまま、うなりながら考え込んでしまった。

「うぅ、うぅーんっ……まいっか、たぶん何にも忘れてない――」

「体操フック!」

 顔を水浸しにした苺が意味深な造語と共に乱入してきた。

「噛んだのか?」

「今日は噛む日なのっ!」

 心の中で、そんな日あるか! と、つっこみつつ。

「今度はカム、ヒァ、ナウ?」

「言ってない! 今日体操服いるの忘れてたのっ!」

「――あっ! 兄ちゃん僕も!」

 つくしもか……二人揃っておっちょこちょいだな。

 こういうのを見ると、普段はしっかりしていても年相応な反応のつくしが見れて安心する。普段は俺の手伝いをよくしてくれる出来た弟だが、こういう風に手を焼かせてもらえるのは……案外嬉しいものなんだ。苺のちっこい時を思い出すなぁ……

「あにきぃ……体操服ぅ!」

 ……こいつはもう少し何とかならないかな。頭の中がつくしより幼い気がする。もう中学二年だぞ? それかあれか、俺が知らないだけで中二女子ってみんなこんな感じなのか?

「昨日の内に玄関に置いてやってるから、行く時ちゃんと持ってけよ?」

「ありがと! さすがあにき!」

「兄ちゃん、ありがとう!」

 ……あれ? なんだろう、今までの一連の流れがすごくデジャヴだった。それに虚しい。た

だ、今身につけてるエプロンがかわいい女物で無くて心底よかった。

 男の憧れって言ったって自分でやりたい訳じゃねぇだろう? ぐすん。

「ほら、二人とも着替えてこい。苺は顔拭いてこいな」

 はーいと返事して苺とつくしは着替えに行った。

 さて、ここからがまた二人の違いだ。

 苺は今から着替えるのに時間がかかる。女の子だから仕方ないって思った人。あいつに女の子らしさなんて求めちゃいけない。

 苺は部屋に戻ったら着替えずに、学校の制服だけ出して達成感を得てしまう、お手軽な娘なのだ。その後は、二度寝をする為に布団にくるまり俺に起こされるのをただただ待っている。

 髪をセットするなんてあいつにはまだ荷が重いらしい。中学になってから時間割をセットするようになっただけでも誉めてやらなければ伸びなくなってしまうような子だ。

 対して、つくしは着替えるのも早いから、戻ってきたら食器をだす準備をしてもらえる。流石は俺の弟だろうか、兄弟コンビネーションが抜群だ……なんだろう兄弟コンビネーションって? 俺ってあほかも…… ごほんっ! 気を取り直して朝食づくりへ。て、言ってる内にみそ汁のできあが――

「――おい、庵! 新聞取って来てくれてるか?」

 やっと俺の事を名前で呼ぶ人が出てきたと思ったら朝からずいぶんな挨拶だった。てかこっちは朝食つくってる最中だっての! 見てわかりやがれ!

「朝から息子に対してずいぶんな挨拶だな、おい」

「親父なりの愛情表現」

「そんなんでよく母さんが逃げないな」

「この扱いは息子用だからな!」

「はいはい、母さんはお姫様扱いですか」

「たりめぇよ! それが俺のジャスティスよお!」

「オヤジは家庭平和が世界平和の第一歩ってのをちゃんと実践できてると思うよ」

「お前も見習えよ?」

「?」

 そう言われた刹那考えてみる。まぁ、悪い事ではない――ただ、俺の結論は一択だ。

「ま、そんな相手がいませんで……」

「いつかできるさ」

 みそ汁の鍋を火から降ろして、次は洗った野菜を切り始める。今朝は簡単サラダをつくるんだ。生野菜を切って、盛り付け、ドッレシングを添える。な、簡単だろ?

「で、新聞は?」

「自分で取りに行けよ」

 冷蔵庫ともう一品のおかずを何にしようか相談中……ウィンナーとかでいいかな?

「おいおい、俺をアゴで使う気か? 父親をなんだと思ってるんだ」

「誰のおかげで朝飯食えると思ってるんだよ」

「その朝飯の材料は誰の金で買ったんだ?」

 その発言に対して、俺は手に持ったウィンナーの袋を眺めてすこし考える。

「……それ、今日の晩飯つくる母さんにも同じこと言えんのかよ?」

「言えるはずもないな」

 不良中年は即答してから新聞を取りに行った。

 あのオヤジは今みたいに母さんを引き合い出すと素直になる。いまだに、母さんに骨抜きなんだ……お熱い事で。

「おはよう庵。りんちゃんの扱い、うまくなったね。もう母さんから言う事なしだわ」

 入れ違い……多分狙ったんだろうけど、母さんがオヤジと入れ違いでキッチンへ入って来た。

「おはよ、母さん。んなもんうまくなりたくもねぇよ……」

「やあぁ、我が家は安泰安泰。母さんすっかり安心したわぁ」

 そう言って母さんはテーブルに着く。

 俺がオヤジをうまく扱えたら我が家の何が安泰するんだろう……

ウィンナーを袋から解放し、熱したフライパンの中で踊らせ、同時に野菜を切り始める。

 あ。ちなみに、りんちゃんというのはオヤジの事だ。

 本名が竜胆。大層な名前だな、しかも花の名前だぞ? あのオヤジに。

 ちなみに、母さんは花梨。夫婦そろって花の名前で、二人の結婚式に使われたブーケが竜胆と花梨の花束だった事は親戚中が知ってるオヤジ達の惚気話だったりする。

 俺が十七で、三人目のつくしが産まれてから十年経つ今でもファーストネームとニックネームで呼び合うくらい仲がいい。全く、参考にすればいいのか、自重させるべきか……けど、俺が何言ってもどうせ聞かないから、注意する方面は諦めた。もう、十七年息子やってんだ。それくらいわかってくるさ……はぁ。

さて、気を取り直して、再び朝食づくりへ。もう、サラダは出来そうなんだけどな……。

「兄ちゃん、なんか手伝える?」

 ここでつくしが戻ってきた! な、言ったろ! つくしはいいタイミングで戻ってくるんだ。

 なんと、ちょうど俺が野菜を切り終わって盛り付けようとしていたところだ!

「さすが兄弟コンビネーション……」

「ん? なに?」

「いや、なんでも……」

 つい心のツイッターが漏れてしまった。

 つくしは不思議そうに俺を見つめている。なんか、今日はつくしに変なとこ見られる日だな。

「人数分の食器取ってくれるか? あとお椀、五つ持ってきてくれ、みそ汁いれるから」

 「はぁい」と返事してせっせと働く弟……なんだか見ていて微笑ましい。

 お椀を俺に手渡し、サラダの入った皿を受け取って母さんにリレーする。お椀にみそ汁を注いだらそれも同様だ。それが終わると俺に目で『もういい?』と合図してきたので、もういいぞと言ってやる。

 うん、これこそ兄弟コンビネーション……と、また俺があほな事を考えてる間にオヤジが戻って来た。

 俺はフライパンを皿代わりにウィンナーをテーブルへ運び、朝食が出来上がる。

 そして、ここで苺を起こしに行くわけだ……まったく、手の掛かる妹だ。

「じゃあ苺を起こしてくるよ」

 無論。苺が寝ているのは決定事項だ。

「はぁい、いってらっしゃい」

 家族からの異論もなし。実際、起こしに行ったら……やはり寝ていた。

 なんというか、まだまだ兄の手の平の上に収まりが良くて可愛くも思うけど――

「すぅ…………っ! 起きろおおおぉっ!」

「ぎにゃあああぁっ!」

 苺が飛び上がるくらい勢い良く布団を剥ぐ。そして一言。

「飯が冷めるっ!」

 そう、飯が冷めるんだ。

 後は状況を理解してない苺を担いでキッチンへ向かうだけだ。

「――ぅあっ? あにきっ? お、降ろして!」

「断る。お前はまだ兄にとってお手軽な存在でいなさい」

「やじゃ! 意味わからんし!」

 あれ? 担いでて思った事だが……

「苺。お前ちょっと重くなったか?」

「――っ成長したんじゃ! あほ!」

 リビングに着くまでめちゃくちゃ蹴られた。



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