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1章:出会いの形跡

 四方を草木に囲まれた湯煙の上がる森の中

 無数に散らばる魔物たちの死骸を眺め、エリィーナは困惑の色を隠せずに

 その場に立ち尽くしていた。


「外傷らしき形跡は……無いようですね」


 水色の髪をした、美しい瞳を持つ、氷結の剣士

 ライルがそう言うと、すぐ側で同じように魔物を見ていた

 黒髪の青年が頬に手を当て興味深そうに言う。


「外傷はありますよ? ほらここ」

 

 彼は魔物の首筋を指差してそう言う。

 それに男は覗き込むようにしてそれを目視する。


「痣……ですか? しかしこの程度で魔物が息絶えるものでしょうか?」

「残念ながらこれは痣ではありません。痣に見えてそうでない。

 これは切り傷です」

「どうしてそんな事がわかる?」

 

 その問いに彼はこう答えた。

 どこか悲しげな表情を浮かべながら。


「昔よくしてくれた友達が……この傷と同じような痣を

 作り出して魔物を倒していた事があって……」

「それは興味深い、本当にこの痣が切り傷だとすれば

 君の友達はすでに武人の極みまで達している。

 出来れば一度手合わせしたいものだ」

「それは無理だと思います」

「どうして?」

「その友達はもうこの世にはいないからですよ」

「……」

 

 その言葉にライルは頭を一度下げ、申し訳なさそうにその口を開いた。


「すまない……そうとは知らず私は……」

「いえ、別にいいですよ。もう4年も前の事ですし

 自分なりに整理はつけましたから」

「本当にすまない」

「だからいいですって、それよりも……

 僕はこの傷を作り出した存在が気になります

 もしかすると……」

 

 鋭い視線を魔物の亡骸に向けてそう言う彼を呆然と眺めていると

 突如、エリィーナの背後で声がもれ出る。

 同時に飛んでいた意識を呼び戻し、ハッとその声に反応した。


「君たちの意見は理解した。もしもこの魔物がその痣の傷で

 命を奪われたのなら、それは危険視するべき相手がこの森に

 いるということだ。したがって我々はよりいっそう警戒し

 この森を進むことになるだろう。気を引き締めて先へ進むぞ」

 

 その場にいた全員がエルナのその言葉を耳にして

 ある者は鋭い眼で、ある者は笑いながら同時に頷いた。

 エルナも全員の顔を確認して同様の仕草を見せる。

 そのまま彼ら湯気の上がる泉を横目にその足を森の奥へと進めた。

 

 □□□□

 古くから森には神が住まい、その加護によって森は緑豊かな

 恵みのあふれる場所として知られてきた。

 その神の姿は動物や魔物、時には人の姿をしていることすらあるという。

 何より一目見ればそれが神だとすぐにわかるのだと、そう昔から言われている。

 しかし、神は滅多に人の前には現れない。

 神は臆病なのだ。

 人を恐れ、見られるのを嫌う。

 だが、極々稀に人の前にその姿を自ら現す時がある。

 それは古くから災いの前兆だと人々に語り継がれてきた。

 

 世界に運命の赤い糸という

 幻想があるように、人は時に導かれるようにしてその場

 出向き、そして引き寄せられるようにしてある種の出会いをする。

 その出会いで恋人になるか、はたまた心友になるか。

 出会いには様々あるが、今現在の状態をこれらの出会いに

 当てはめる場合、この出会いもまた、運命なのだろう。

  

 泉からもれ出る蒸気がその場の視界を妨げ

 霧のように展開する朝露のあふれる森を連想させる空間。

 しかし霧は冷たくひんやりした物ではなく、仄かに熱を持っている。

 それらの熱を肌に感じながら、青年は前に立つ四足歩行の魔物に

 透き通るような声音で言葉を漏らした。


「土地神は一目見ればわかるって言うけれど……本当にわかっちゃう

 もんなんだなぁ~」

 

 顔は獣の犬に近く、両足には緑鱗みどりこけがびっしりと

 根を生やし、背中には無数の草木が生える異形の存在。

 その姿を見て青年はすぐにそれが土地神だとわかった。

 

「汝……黒き時を統べる魔を持つ者か……」

 

 荒々しく吐き出される吐息と、かもし出す重い空気を持つ異形のモノはそう続け

 白く染まった瞳をギョロリと動かした。


「どうして私の事を君たちはそう呼ぶのか知らないけれど

 でもまぁーそうだね。神々は私の事をよくそんな風に呼んでいる」

「そうか……」

 

 吐き出される凍えるような吐息とカビの匂いを全身に浴びながら

 一歩後ろへ吐き出された風圧によって下がる。

 

「で、何か用があって私の前に現れたんでしょう? 

 そうでなければ、君たちが好んで人前に現れる

 はずが無いからね」

「フォーハァー確かに汝の言う事は正しい

 我はそなたに、いや……人なればだれでもよかった

 やも知れぬ。だがこれも運、運命。汝に事の事情を語ろう」

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