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1章:団子と情報と依頼

 

 広く広大な大地、人はその大地をカルバヌの大地と呼んだ。

 それは古くから変わらぬ大地の名、そして今、その大地に

 灰色のローブを纏い、薄汚れた風呂敷包みを背にして

 青年が一人、滝から流れ出る激しい水しぶきを眺めながら

 数本の団子を口に含みゴクリとそれを飲み込んだ。

 しばらくして、手元にあった湯気を上げるお茶を手に取り

 ソレを飲み干すと、吐息を空に吐きかける。


「ふぅーさて行くか」


 青年は僅かにそう漏らすと、長いすのあるその場から

 立ち上がり、銅貨二枚をテーブルに差し出す。

 ソレを見ていた頭巾をかぶった30代半ばの女性が声を上げる。


「まいど~~~」

「おいしかったです。またこの町に立ち寄るときはここに

 団子を食べに来ますね?」


 フードの下から青年は微笑を浮かべ、そう言うと

 その声に店の主がにっこりと笑い、言葉を返す。


「そりゃーありがたいねぇ~団子屋にとってソレは

 何よりもほめ言葉だよ。うん」

「あぁー後、最初に言ったように魔物の事について

 聞きたいのですが」


 それに、思い出したかのような表情を浮かべ

 女は答える。


「そういえばそうだったねぇ~団子を食べる代わりに

 その魔物の情報を教えてほしいって言ってたんだっけ

 うん、あんたはいいお客だから教えるよ」

「はい」


 普段、彼は甘いものを食べない。

 そんな彼が団子を、しかもみたらし団子を食べる羽目になった 

 経路が、最初に提示された店の亭主との口約束がためである。


「アレは確か……一月ほど前になるかねぇ~町の東にある

 奇妙な屋敷で夜な夜な化け物の声が聞こえると……それで……」

 

 □□


「付きましたぜ学生さん方」


 揺れる馬車が突然停止し、ガタンと音を上げると

 馬車の先端で縄を引いていた男がそう声を漏らした。

 それに荷台に乗っていた数人の人々が立ち上がり

 荷台から降りる。同じようにエリィーナもそっとその身体を地面へとつけた。


「皆さん降りたようですね。ではこれより町の長、依頼主に会いに出向きましょう」


 同じ黒い色のローブを纏い、藍色の髪をした女は眼鏡を整え

 そう言うと、滝からあふれ出る水滴を額にしてその先を進んだ。 

 その後を追うようにして他の数人も足を進める。

 エリィーナも同様に進んだ。

 その道中、山の先より流れ出る巨大な滝を眺め、エリィーナは呟いた。


「本当に町の近くにこんなに大きな滝が……一体どうなっているんでしょうね?」


 この町に来る前に、滝があるとは聞かされていた。

 しかし、これほどの規模だとは想像だにしなかった。

 同時に、滝の先がどうなっているのか興味も湧いた。


「エリィーナは知らないの? この滝は地下から噴出してきた

 温水が元になって出来ているんだ」

「え? そうなの!? でもなんでそんな事シルフィーが知ってるの?」


 眠気を誘う表情を浮かべつつシルフィーは頭を描きながら言う。


「常識だよ? だってほら、この辺り温泉街で有名だし

 怪我とか治療とかでよくこの町に来たからさ」


 エリィーナはそれに首をかしげ、シルフィーの顔を目視して言う。


「ここって温泉街で有名なの? それに……え? 怪我の治療? それってどういう……」

「あぁ~アレだよ。僕って昔からドジでさ、転んでは怪我するような奴で

 ほら今までだってそうだったろ?」

 それに納得するようにエリィーナは声を漏らし頷く。

「あぁ~そう言うこと、まぁーシルフィーらしいわね。

 でもなんかむかつく……だから一発殴らせて」

「え……なんだよソレ」


 一瞬表情を曇らせシルフィーは一歩後ろへ下がる。

 しかしエリィーナは容赦なくそれに一打を浴びせようと動く。

 彼は避けようともせずただ、眠そうな表情を浮かべてそのまま

 放たれた拳が彼の腹に入った。


「う……」 


 苦痛に耐える声が男の元からもれ出る。しかしその頃にはエリィーナは

 そそくさと男の前に出てその足を進めていた。

 それを見て男は言う。


「酷い……」


 しかし、その声はエリィーナの耳には届かなかった。


 □□□


 町の歩道を進み、しばらくの所、一際目立つ大きな佇まいの 

 社がエリィーナの前に広がっていた。

 町の人々から聞いた話によれば、あの社がこの町の長

 依頼主がいる住居だと言う。

 その社へと続く扉が音と共に開かれ、その内装をあらわにする。


「お待ちしておりました。シドニアの学生の方々ですね?  

 さぁーさぁー中へ、主がお待ちです」


 開かれた扉の先から現れ、声を漏らしたのは黒服の

 執事姿をした初老の男。それにこうべをたれた後、案内されるようにして

 社の中へと通された。

 中には仄かに香る麦の匂いと畳が広がり左右には巫女服を

 した女たちが立ち並んでいる。


「やっぱり……ここって宮だよね?」


 エリィーナは耳打つようにして隣を歩くシルフィーに告げると

 彼は頷きこう答えた。


「うん、見る限りはそうだね。でも少し妙な事がある」

「妙な事?」

「そう、妙な事。一つは言うまでもなくここは神域でも

 神を祭っているわけでもない。つまり宮だと言うのに

 神聖さがどこにもないんだ。宮とはつまり神を祭る

 もしくは称える場所なわけなんだけど、ソレがないと

 なると、ここは宮の姿をしたただの建物という事になる」

「それってつまり趣味って事?」

「う~ん、最初は僕もそう思ったんだけど……ほらみてごらんよ」


 彼の目先には左右に佇む巫女服をした少女たち。

 しかし、何を言いたいのかまだエリィーナにはわからなかった。


「何が言いたいのよ?」

「この場所には別に妙な気配があるんだ。その中でも

 嫌に気になるのは彼女たちが胸元にかけてる

 あの妙な黒石、なんかいやな感じがするんだよね

 まぁー僕の直感っていうか、五感があの石に

 敏感に反応してるだけなんだけど……」

「シルフィーの感覚なんて当てにならないわよ

 多分、単なる気のせい。この建物はきっと

 ここの主の異常な趣味なのよ。うん! そうに違いない」

「そうだといいんだけどね……」

 

 それから間もなくして依頼主の部屋へと通され

 そこで長いすに座り、依頼主の話を聞く事となった。


「私はエルナ・フロードと申します。シドニア魔法学園から参りました。

 そして、彼らが私と共に依頼にあった魔物を退治するチームのメンバーです。

 右から、高等部三年死炎の使い手、グリア・ジャックス。高等部二年、雷鳴の淑女

 エリィーナ・ルイナス。同じく高等部二年、呼び名無し、ディエル・シルフィ。高等部三年

 氷結の剣士、ライル・ザーク。そして最後に高等部4年、王剣の騎士、ジーク・ロード」


 最後の名と言葉に前に座る頭の寂しい初老の男が反応し、目を見開いてジークの方向

 に声を上げた。


「王剣の騎士……貴方が……」

 

 その目は珍しい物を見る好奇な目でも羨む目でもなく、尊敬するような目で

 老人はそう言った。

 エリィーナにもこの男の気持ちはわかる。

 『王剣の騎士』ソレはこの国、カルバムの大地を収める

 もっとも権力のある王から与えられた名誉ある呼び名なのことである。

 その呼び名を名乗れるのは王に認められ、最高の技術と腕、魔法を習得した

 者だけ。そしてその呼び名を得た者はこの50年間の間にまだ二人だけなのだ。

 その一人が彼、ジーク・ロード。


 そこで、黄金色の髪の先からポツリと低い声音を口にする。


「はぁー俺の事はどうでもいいでしょう。ソレよりも

 これから駆逐する魔物の事について教えてくださいよ」


 その声に周囲の生徒が同様したように声の主の方向へ視線を向けた。

 つられるようにしてエリィーナやシルフィーもその方向を向く。


「珍しい」

「先輩がしゃべるなんて雨でも降るんじゃないんですか?」

「へぇー」


 三人がそう一斉に口にしパチパチと手の甲を合わせ拍手するのを見て

ジークはただ何も言わずため息を漏らすと

 うつろな目で一人立っている藍色の髪のエルナを見据える。

 ただ、それだけの行為にエルナは『わかった』と頷きを返し

 視線を前に転じて言葉を漏らす。


「そうですね。彼の言うとおり今は魔物の情報が最優先です

 長話をする暇もありませんし、本題に入りましょう」

 

 その頃、町の片隅にある湯煙のあふれる森の中。

 背に包みを抱える青年が一人、無数の影と距離を取って

 間合いを確認しながら周囲を警戒し、拳を空中に震わせていた。

 同時に空中で苦痛の人ではない声が漏れる。

 ソレは次々と漏れ出て、青年の拳が振るわれるために声は漏れる。


「はぁ……後どれくらいいるんだよ……」

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