〈二〉
これは…チェロ…?
僕の脳をかき乱す、激しい調べ…続いて規則正しい旋律の繰り返し…
「…ッ!ン!…アッ!……ン…そこ…!…」
ハァハァと乱れる呼吸。
男が同じ調子で腰を動かす。長い。
もう、どれだけイッたと思ってるんだ?
「…ッ…も、勘弁して…」
眦を汗が伝う。
酸素が恋しい。
店を出かかった所で男に声をかけられた。
もちろん答えはイエスに決まってる。
「…ン…スゴイ……壊れ…ちゃう…からァ!…」
男は40代後半頃だろうか。
髪に白いものが混じって、少年好みの年代だ。
「くちゅ…クチュ…」
接合部は外さず、深い口づけを求められた。
「…ん…ン……」
「なんだ…キスがそんなに悦いのか?」
男がニヤリと笑う。
「ん。好きだよ。…僕の大切な食事」
赤い舌でなまめかしく唇をなぞる。
『どういうことだ?』
聞こうとした刹那、男が〈ドゥ〉と倒れ込んだ。
「あーあ…」
思わずため息を漏らす。
「もう~ちょっと、欲しかったのになー…」
〈ヨイショ〉
かけ声と共に便座から降りる。
この人が発見された時に可哀想だから、服装は整えてアゲル。
「さよなら、ムッシュ…」
キスを飛ばして別れを告げる。
「まだ、足りない…」
(ごめんね、マスター。トイレを汚して)
少年イズミは、気配を消して店を出た。
店内には、静かなジャズピアノの音が流れる。
客は数える程しかいない…