くるみの物理学講座~αベクトル空間~
この物語は自作小説「トリックエンジェル」に出てくる物理法則の解説です。
ある日の夜の楠木家の夕飯後の会話である。
あきらが珍しく娘の詩音に物理学の話を振った。
あきら:「詩音、今日は少しαベクトル空間について少し教えてくれないか?」
詩音 :「いいよ。何が知りたいの?」
小学2年生ながら、ノーベル学者のくるみの教育を生まれたときから受けている詩音にとって、くるみの統一理論や直交する2次元の時間の話は難しい話ではない。
あきら:「なんで、αベクトル空間では時間が流れないんだ?」
詩音 :「パパ、それとってもいい質問。でも、それって『時間』とは何かを理解しないといけないの。」
あきら:「はあ。」
詩音 :「ねえ、パパ、時間って『絶対』?」
あきら:「『絶対』??」
詩音 :「うん、場所とか環境とか人とかによって時間流れが遅くなったり早くなったりしない?」
あきら:「そりゃ絶対だろう。場所とか人によって時間の流れがまちまちなんてありえない。詩音が俺より早く年寄りになるなんてありえないだろ。いや、待てよ。アインシュタインの相対性理論だと光速が絶対で時間は絶対じゃない。ウラシマ現象とか起こす。」
詩音 :「そうだよね。絶対じゃないよね。でも、感覚的におかしいでしょ。時間がまちまちなんて。」
あきら:「うん」
詩音 :「だけどアインシュタイン先生が時間は相対であるって定義して色々な法則が矛盾無く説明できるようになるうちに、みんな時間は絶対じゃなくて相対と思い込んじゃったの。」
あきら:「ふむふむ」
詩音 :「だけど、矛盾が出始めたのね。特にブラックホールにおいて。シュバルツシルトの半径の中では時間が流れないことになっちゃったの。このシュバルツシルト面で時間が止まってしまい、ブラックホールに吸い込まれる宇宙船はこのシュバルツシルト面に永遠に止まって見えるという理解しがたい話が出てきたのよ。」
あきら:「一気に、難しくなったな。」
詩音 :「うん、こう考えて、シュバルツシルトの半径内では一切の物理法則がきかなくなっちゃうの。なぜなら時間が流れないから。これは絶対変なの。急に物理法則がきかなくなるんじゃなくてこの理論が間違ってるの。」
あきら:「むむ~。もしかして、シュバルツシルトの半径の中では時間は逆行するとか。」
詩音 :「そうそう、そういう発想が必要なの。でも、時間は逆行しないけどね。」
あきら:「なんだ。」
詩音 :「それで、ホーキンズ博士が考えたの。シュバルツシルトの半径内は虚数時間が流れるって。これで矛盾無く説明できるの」
あきら:「ふむふむ」
詩音 :「ふむふむって納得しないでよ。じゃあ、虚数の時間って何?」
あきら:「え?」
詩音 :「数学的にはありえても、実生活にはありえないでしょ。虚数って。」
あきら:「確かにな。」
詩音 :「でも、パパ、虚数って高校のとき習ったでしょ。2次方程式の解で。でも虚数って視覚的に表せないでしょ。だけど解が虚数になる2次方程式を2次元のグラフで表すことができるでしょ。」
あきら:「ああ、X軸と交点がないグラフだな。」
詩音 :「そうそう。それで、くるみちゃんがピンと来たの。虚数の時間も時間の軸が縦横二つの軸で表せば、視覚的に説明できるって。」
あきら:「なるほど。」
詩音 :「それで、くるみちゃんは『時間は直交する二つの時間軸で表される』って言い出したの。これがくるみちゃんの統一場の理論のひとつの特徴。」
あきら:「でも、まだαベクトル空間で時間が流れないという説明になってないぞ。」
詩音 :「慌てないで、今から説明する。実は時間はガウス平面上でαcosθ+iαsinθで表されるの。だって、2次元だからね。このαが絶対時間なの。それで、現実世界はiつまり虚数を認識できないからαcosθでしか表せないの。つまりt=αcosθ。それで、このθを0からπ/2に近づけて行くと時間がどんどんゆっくりになるでしょ。そしてπ/2になった瞬間にt=0になる。だけど絶対時間αは流れてるの。つまり自分の感覚ではα時間が流れているのに、現実の時間は0しか流れていない。つまり流れてないの。」
あきら:「それがαベクトル空間か!」
詩音 :「そのとおり。そしてαベクトル空間の時間の絶対値はt=αsinθで表されるからθがπ/2のときt=αとなって絶対時間と一致するの。」
詩音 :「だけど、現実世界から来た人は虚数時間を認識できないからまるで止まったように感じるの。言い換えれば肉体的には時間が流れてなくて、精神的には普通にながれてるの。」
あきら:「そう言うことか。」
詩音 :「わかった?」
あきら:「なんとなく。それじゃあ、次にくるみの統一理論て何だ?」
詩音 :「重力場と電磁場を統一した理論。超簡単に言うと重力と電磁力にエネルギーを加えるとこの世界とαベクトル空間が曲がるって理論。」
あきら:「ふむふむ、どういう公式になるんだ。」
詩音 :「えっと、それを説明するには古典力学であるアインシュタインの宇宙方程式から前提になるの。アインシュタインの宇宙方程式は...」
あきら:「ちょっとまった。まさかアインシュタインの方程式が前提じゃないよな。」
詩音 :「うん、基礎中の基礎だよ。」
あきら:「ごめん、詩音の基礎って博士号持ってる人にとっての基礎だ。一般人にはわからん。」
詩音 :「え~、もう、大人ってすぐわかんなくなると理屈こねて逃げるんだから。まあ、いいわ。今日の授業はこれでおしまい。お疲れ様でした。」
あきら:「お疲れ様でした。」
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この解説で興味を持たれたなら、きっとSF好きでしょうから3章の0話から読んでいただくのをお勧めします。3章の後、1章、2章、4章がお勧めです。
3章0話は以下のURLになります
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