寂しいドワーフ
この国ではドワーフ達が数多く住んでいた。鍛冶師、炭鉱夫、細工師、冒険者をやるドワーフも居た。
この国のドワーフは気さくな人が多く、酒場に行けばみんな酒を酌み交わし飲んでいる。ドワーフ達は別の種族に対してもとても気さくに絡んでいくので色んな種族の人達が国を訪れていた。
俺はそんな国の小さな鉱山町に住んでいた。小さな工房を使いただただ鋼を打っていた。ツルハシやシャベル、日用品に武具と色んな物を打ちながら過ごす毎日だった。
たまに叩く音に釣られて見に来る人も居るが俺は気にせず毎日叩き続けた。その音はどこか音を取っているかのような感覚で鳴り響いていた。
そして俺の作った物は他のドワーフ達が持っていく事がほとんどだった。
「よう!デルグ今日の調子はどうよ」
「ああ、出来てるぜ」
工房に来たドワーフはとても気さくに笑いながら挨拶をして俺はぶっきらぼうに言葉を返した。
「相変わらずしけた顔してるなデルグよ」
「ああ、打つので忙しいからな」
「じゃあ貰ってくぜ!」
そして大声で笑いながらそのドワーフはいくつものツルハシを持って工房を出て行った。
そして俺はまた鋼を叩いた。
叩く音に釣られるように中を覗く一人の人間が居た。しかし、入っては来なかった。
「どうした?何か用か?」
声を掛けると驚いてどこかへ行ってしまった。
今日も俺は鋼を打つ、飽きもせずに打つ音を鳴らして打ち続ける
珍しいお客もたまにはやってくる
「こんな小さな町にもこんな所があるのですね」
「面白い音を取っているね、でも作ってるのは一般的ですね」
二人のエルフの男性がやってきていた。
「この剣は少し脆そうですね」
「切れ味は良さそうですねその剣は」
俺は気にせず鋼を打ち続けた。
「おじさんこの剣はいくらで買い取らせてくれますか?」
「ああ、銀貨5枚だ」
「それじゃあ材料費くらいにしかならないのではありませんか?」
「おそらくな」
俺は打った鋼を水につけた。水蒸気が上がり部屋が真っ白になった。
「じゃあおじさんここに置いておきますね」
「ああ、ありがとよ」
夜が来れば風呂に入って酒を飲んで寝るそんな生活を送っていた。
次の日も工房には鋼を打つ音が響いていた。そしてまた覗いていた人間が入口の近くに来ていた。
俺は声を掛けずに鋼を打った。人間はその音をずっと聞いている様子だった。
すると、いつものドワーフ達が入口に来ていた。
「どうしたにいちゃん!入ってもいいんだぞ?」
「遠慮することは無いぞ!!」
「ガッハッハ、そう震えるこたあないだろ」
ドアを豪快に開けてその人間とドワーフ達が入ってきた。
「デルグ!!調子はどうだ!!」
「上々だ」
そしてシャベルやツルハシを持ち、見定めに入った。
「確かにいつものより使えそうじゃねえか!」
「こっちのは鋭くて使い勝手が良さそうだ」
そう言ってドワーフ達は満足そうに工房を出て行った。
俺は残った人間を気にすることなく鋼を打った。その様子に人間は大きなため息をついていた。
次の日もその人間はやってきていた。
相変わらず中には来ないんだなアイツは
そんなことを考えて鋼を打つといつもの違う音が鳴り気持ちが悪かった。そしてその打っていた物は失敗作となった。
俺は手を止めてその人間を手で招いた。
「どうして入ってこないんだ?」
「あ、あの僕は、この音が好きで・・・・・・」
「そうか」
俺はその言葉を聞いて鋼を一つ持ち火の中に入れた。
「そんなにこの音がいいか?」
「はい!この音を聞くと色々想像できるんです!」
「想像か」
そして俺はいつものように無心で鋼を叩いた。
その人間はまだ若そうに見えたが俺にはどれくらいか分からなかった。
また次の日もその人間はやってきていた。本のような物を持っているように俺には見えた。
そして次の日もそのまた次の日もその人間はやってきていた。
あのにいちゃん飽きずによく来るな
少し俺は心配になりながら一瞥して鍛造を始めた。
鋼を火に入れると俺はその鋼をジッと見つめ頃合いで引き上げ叩き始めた。
しかし、いつもの調子で叩けていなかったのか少し音が鈍かった。それに反応して人間は慌てて入ってきた。
「ど、どうしたんですか?」
「なんでもない」
その鋼を火に入れて溶かしまた打ち始めた。するといつもの音になり人間は安堵して本に何かを書き込み始めた。
「何を書いているんだ?」
「僕はこの音を聞いて音楽を想像しているんだ」
「住む世界が違うだろ」
「同じ芸術さ」
「夢見すぎだ」
「あなたの音はまさに夢に誘ってくれる」
「寝ちまうのか?」
「その夢ではないよ!」
「そうか」
熱で変になっちまったか?
その後できたツルハシの頭はなかなかの物ができた。
なぜ、話していてこんな物ができたんだ?
俺は不思議に思いつつナイフを打ってみることにした。
人間は耳を澄ませずっと俺の叩く音を聞いていた。
「お前の夢はなんだ?」
「僕は音楽を作って誰かに奏でてもらいたい」
「自分じゃ無理なのか?」
「僕はそっちの才能は無かったから」
「それは諦めただけじゃないのか?」
「そうとも言えるけど、僕は作る方になれればいいと思った」
「そうか」
「おじさんはどうして鍛冶をしているの?」
「生まれてこの方、これ以外やったことが無いんだ」
「色々試さないの?」
「俺にはこれしかない」
「おじさんは他の事を試さずに諦めちゃったんだね」
その言葉と共に俺は手を止めた。そしてナイフを水に浸けてナイフを研いだ。
そのナイフは作ってきた中で一番の出来の物が出来ていた。
偶然じゃなく話のおかげで上手く出来ているとでも言うのか!
「おい人間、暇ならいつでも話に来い」
「お邪魔になりますよ!それでは!」
人間は両手を突き出して遠慮してきていた。
「その程度で失敗はせん。むしろ入口でふらふらされる方が気が散る」
「でも、中に居ると熱くて」
「そうか」
残念そうに俺はそう言うと人間は焦りだした。
「いや、でも!中の方が音が響いて!」
「無理はせんでいい」
「はい・・・・・・」
「後、人間名前は?」
「僕はラクル」
その後、度々ラクルはやってきては入口で本を書き、しばらく中で話をしたりしていた。その間の品はどれも上々の出来だった。
「よう!デルグ!最近調子良さそうじゃねえか!」
「そうか?」
「最近のやつは壊れにくいと喜ばれてたぞ」
「そいつはよかった」
「そこの人間にでも手伝わせてるのか?」
「話し相手になってもらってるだけだ」
来たドワーフは驚いた顔をした。
「お前どういう風の吹き回しだ?あまり喋らなかったはずだぞ?」
「ああ、そんな俺でも他愛もない話しはできる」
「変わる時は変わるもんだな~」
来たドワーフは関心を示しながらシャベルを持った。
「じゃあ今度は俺達とも話そうじゃないか!!」
「気が向いたらな」
ご機嫌に来たドワーフは外へと出て行った。そして入口でラクルに話しかけていた。
「よう!にいちゃん!デルグと仲良くしてやってくれよな!!」
「あ、あの・・・・・・はい!」
工房にも聞こえるくらいの大きな声だった。
鉱山の町にも雨の日はやってくる。その日は来る人は少なくほとんど一人の時間だった。
今日は流石に来ねえよな
工房はどこか虚しく音を響かせていた。出来た品はどれも平凡な物だった。
そして次の日も次の次の日も雨が降り、それでも工房では叩く音が響いていた。
そして次の日、ようやく晴れた。俺はどこかあいつを心待ちにしている気がしていた。
そしてラクルはやってきた。一通の手紙を持って。
「デルグさん、ようやく僕は曲を作ることが出来たよ!」
「そうか、よかったな」
「それでなんだけど、僕は音楽が盛んな国に行こうと思うんだ」
俺は思わず立ち上がり金づちを落とした。
「そ、そうか」
慌てて俺は金づちを広い震える手で鋼を火に突っ込んだ。
「デルグさんのおかげです。ありがとうございました」
「まだ結果は分からねえだろ」
「そうですね、でも、あなたの音を入れたこの音楽ならきっと通用すると思うんだ!」
「気のせいだ」
気のせいだと思いたい、俺の鼓動は早くなっている気がするんだ
「行ってこいラクル」
俺はその時だけ汗か涙か分からなくなった顔で笑いながらそう言った。
そしてラクルとの最後の一振りを打った。
「これは?」
「こんな物作った事無い物だが音楽ってのはこんな棒を持ってするんだろ?」
そこには細い金属の棒が置かれた。
「指揮棒かな?僕は指揮しないよ?」
「使うときが来るかもしれないだろ?それに指揮棒になっているかどうか俺には分からねえからな」
「少し重いね」
「体を鍛えるのには丁度良いだろ!」
「デルグさん段々周りのドワーフさんみたいになってきたね」
「俺はドワーフだ」
「大事にするよ」
「よし俺は仕事に戻る」
ラクルは入口で深々とお辞儀をするとそっとドアを閉めて走って行った。
それからはデルグはいつもの通り一人で黙々と打ち続けていた。
「よう!デルグ!!調子はどうだい!!」
「出来てるよ」
「あの人間が来なくなってからまたいつものに戻っちまったな~」
「気のせいだ」
「そうか・・・・・・んじゃまあ貰ってくぞ」
そしてまた工房で一人音を響かせながら物を作っていった。




