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タカ

作者: すずねこ
掲載日:2026/03/18

 私はタカ。

 この遊郭で花魁をしている。毎日、お客の相手に明け暮れる日々。でも、まだ私はましな方かもしれない。

 店主から私は信頼を得ている。だから、遊女だけど、階級が最初から高い。個室を与えられ猫も飼える。

 階級の低い遊女たちとの生活は申し訳ないほど違った。嫉妬ややっかみは日常茶飯事。

 私はあまり部屋から出ない。

 外は、地獄である。

 部屋から外は、地獄のような世界。

 だから、私はこの個室で、ひっそりと暮らしている。

 人気をしのんで、必要な時しか出ない。

 いつも私は部屋にある小さな窓から愛猫を抱きかかえ、外を眺めている。

 いつも、あの人を思っている。


 私のお客は、ある程度身分の高い人が多かった。医者や、御武家様、商人でも経営者クラスや、たまに歌舞伎役者のような顔の整った方もいた。あと、お金持ちの御曹司等、、


 全てはやり手の店主からまわされていた。あの方の時も突然に呼ばれた。


 タカ、お客だよ。お医者様だ。長く通ってもらえるように失礼のないようにたのんだよ。


 部屋の襖がさっとあいた。

 丸い眼鏡をしたお医者様が、店主のあとから入ってきた。


 タカと申します。

 どうぞよろしくお願い申し上げます。


 私はお客様に頭を下げてお辞儀をした。


 店主は、私が花魁で、以前は大奥に勤めていたので、教養もありなかなかいない遊女であると語り、早々に襖を閉めた。


 2人きりになった。


 頭をあげなさい。そんなにかしこまらなくていいから。


 医者は、そんなことを言って部屋に用意された豪華な食事のお膳の前に座り


 こちらへ来て、お酌をしてくださいと遊女の私に敬語で話しかけた。


 私は医者の横に座り小さなとっくりを手に取りお酌をした。


 医者は、目を合わせずぐいっとおちょこのお酒を飲んだ。


 医者はまるで私が花魁でないかのように、1人の女性として話してくれた。


 とても新鮮だった。


 私はその瞬間だけ遊女を忘れ、1人の女性として過ごせていた。


 医者は、私の方をあまり見ないで私の生い立ちや、飼い猫がいることをめずらしがり可愛がり逆に私に優しくしてくれた。


 やはり、医者は知識や教養が広く様々な話を私に教えてくれた。私はいつもいる狭い部屋から外へ出されたような気持ちになり、清々しくなった。


 医学など知識のない私はただただ医者が話すことに尊敬してただただ頷いた。


 はじめは、そんな会話をしてまた来るからと言われ、しばらくすると本当に医者はまた来てくれた。


 あまり、愛想がないので、もう来ないのかと思っていたが、白々しい態度とは真逆に定期的に医者は私に会いに来てくれた。


 いつも、白い飼い猫が医者と私の間を取り持ち笑顔になり、楽しい時間が過ぎていた。


 ある日、また医者は来てくれた。

 私はいつものように、知的な話をまた聞けると喜んでいたら、急にかんざしの贈り物を渡され、医者は私の目を真っ正面からはじめて見つめ、


 あなたが好きです。今日は泊まってもいいですか?と真剣な表情でぎゅっと両手を握られた。


 ・・・私は遊女です。お客様のお気に召すままに、、と小さく答えると、、


 遊女だからじゃない!私はタカさんが好きなんだ!貴方じゃないと駄目なんだ!


 そういって、医者は私を抱きしめ、唇を押し付けて私を求めてきた。


 布団へ移動して、医者は私とひとつになった。


 医者は、優しくずっと抱きしめていてくれた。私の壊れかけそうな心が、癒された。


 朝方早くに医者は帰った。

 帰り際、医者の背中を見送る私は、医者は今から家に帰り妻子のもとへ帰ることを思い、1人寂しくなっていた。


 どうせ客なのだから、気を許してはいけない。私とあの方は所詮遊女と客の関係。

 仕方のないこと。これは仕事。


 疲れた顔を見つけた店主が、近づき


 タカ、あのお医者様に気に入られたようだね?これからも、よろしくたのむよ!


 にやにやとしながら、やり手の店主はぽんと肩をたたいた。


 やり手の店主は、遊郭の経営で成功し何軒か手広く遊郭を経営していた。


 私は、医者を好きになっていた。

 客だと自制しながら。


 遊女ではなく、人として扱ってくれる医者が好きだった。


 そうして月日は過ぎていった。


 その日は、ひどい土砂降りの日だった。


 医者が来たと店主から耳打ちされ、その日別のお客様の相手をしていたため少し遅れて医者の待つ部屋に行った。


 襖越しに、


 タカです。お待たせ致しました。


 と呟くと、


 入って!


 とやけに怒った口調の医者の声がした。


 はい、、


 襖をあけると、もうだいぶお酒を飲んだ医者が1人私の部屋にいた。


 ごめんなさい。お待たせしてしまいましたね。


 医者は、私を見ないまま


 他の客といたんでしょ?

 誰なの?そいつとは、どんな関係なの?


 医者は、束縛が激しかった。

 私が隠そうとしても、正直に話すことを強要してきた。


 ・・・私は、遊女だ。

 仕事は、男性と接すること。

 稼がないと、生きていけない。

 それなのに、どうしてそんなに怒られなきゃいけないの?

 あなたは、妻子があって、他の遊女と遊んでいるかもしれないのに、

 私は何にも言わないのに、、

 どうしてそんなに怒られなきゃいけないの?


 医者は、しばらく怒っていたが、

 布団で寝ると言って、私に灯りを消させて、暗くなると私に口づけをしてきた。

 お酒の味がして、私まで酔っぱらいそうになる。

 着物の帯をほどかれ、その日も医者は私とひとつになった。

 激しい雨が地面をたたきつける音だけが、聞こえている。

 医者は、ずっと私を抱き続けた。

 自分のものにしたいと何度も呟いていた。


 早朝になり、いつもは帰るはずの時刻になっても二日酔いと言ってその日も延長して医者は帰らなかった。


 店主は、客の滞在を喜び、私と医者は部屋で1日を過ごした。


 仕事はいいのですか?

 

 医者は、

 今日は休診だからいい。


 タカと、ずっといたい。


 そういって、医者は片時も離れず私にまとわりついてきた。


 医者は、もう他の男とは相手をしないでほしい。自分だけにしてほしいと無理なことを言っては、まるで我儘な子供が母親に駄々をこねるように小言を言っていた。


 昨日に引き続き、雨が降り医者は夜になっても帰らず、2人は布団から出なかった。


 タカを身請けするから、もう他の男とは相手をしないでほしい。


 医者はそういって、私を強く抱きしめた。


 そうして雨音が聞こえる部屋で、私を何度も何度も抱いた。


 私は遊女であることを忘れ身も心も医者を受け入れ愛していた。


 まっすぐな医者を愛していた。


 かすかな絶望を感じながら。


 これが嘘かもしれないという絶望。


 嘘だったら、私はボロボロになってしまう、だからこんなにいれこんじゃいけない。本気になってはいけない。


 だけど、身体を重ねると理性がふっとんでしまう。自分では制御できない。


 医者の強い束縛と性欲の強さにはただただ驚くばかりで冷静にそれをみつめる自分がいた。


 次の日の早朝に医者は、店主に私を身請けするから、もう他の男とは会わせないでほしいと話して帰って行った。


 店主は、それはそれは驚いていたが、高額を支払うことに納得をした。


 私は、その日から客をとらなくてよくなり、小さな自分の部屋で相変わらず猫を抱き抱えて小さな窓から外を眺めていた。


 医者は、その後も定期的に会いに来ては、一泊して明け方に帰って行った。


 そんなある日、突然の吐き気に襲われ、しばらく床にふせる日々が続いた。


 もうそれがどういうことか、最初からわかっていた。


 医者の子を身ごもってしまったこと。


 店主は素早く感づき、私に妊娠の兆候があるから、産婆の診察を受けるよううながしてきた。


 私は、言われる通りに産婆の診察を受けた。


 診察をした産婆は、手を洗いながら


 妊娠してるよ、堕胎するなら早い方がいいよ。


 と冷たい口調で話してきた。


 遊女の妊娠は、ほぼ堕胎である。


 しかも、その後の身体に影響が出るほど堕胎したあとは命をおとす遊女も沢山いた。


 私は、布団から天井を眺めてしばらく考えていた。


 身請けするからと言った医者は身ごもった私をどう思うだろうか、、


 捨てられるのか、、

 

 妻子のある人が遊郭で身ごもらせた子供を受け入れる等聞いたことがない、、


 大抵は、捨てられる、、


 私は捨てられる、、


 こんなに好きになってしまった人の子を堕胎は出来ない。


 たとえ捨てられたとしても、、


 涙が溢れて私は、泣いた。


 1人で泣いた。


 

 私の妊娠の知らせを聞いて店主は、私の部屋を訪ね、床にふせる私を見て不憫そうに言ってきた。


 タカ、堕胎をしなさい。

 辛いだろうけど、身請けの話が流れてしまう前に堕胎をしたほうがいい。


 私は店主をみつめて


 堪忍してください、、

 私は堕胎をすることができません。

 身請けの話しはどうなっているのでしょうか? 



 店主は、苦い顔をしながら、

 

 タカ、堕胎をすることがお前のためだよ。

 身請けの話しは、確かに言われた。前金として、お金も頂いているけど、全部はまだ払っていない。

 あの人は、医者でしっかりとした家柄の方で信用できる。

 だけど、奥さんと子供が5人もいるようだ。

 それを思うと、お前の子供までみる気持ちはないだろう。


 わかるだろう。お前もここの遊郭で働いてきて何度も身ごもった遊女が捨てられるのを、、


 堕胎をして、身請けされたほうがまだいいとは思わないか?


 身請けの話が流れたらどうするんだ!!


 店主が怒鳴る心情の奥には、私を思いやるようにしながらも、しっかりと身請け金という商売の頭が働いている。


 タカには、それがわかっていた。だから、従いたくなかった。


 堪忍してください!私から話してみます。

 私の我儘を今回は聞いてください。

 子供を産ませてください。

 私の借金を増やしてもいいですから、どうか産ませてください。



 何度も店主は、堕胎をしろとうるさく言ってきたが、私が従わないのを最後には産むことを許してくれた。しかし、子供のいない夫婦のところへ里子に出して借金にあてると言われた。


 その後、遊郭を訪れ具合いが悪いと聞いた医者は、店主から私の妊娠を知らされたそうだった。


 最初驚いた様子の医者は、すぐにでも私と子供を引き取り身請けできるように頑張りたいと約束をして、私の妊娠にかかる費用を前金として支払って行ったそうだった。


 店主もそれには驚き、私に対して特別に栄養のある食事や休養を与えて、甲斐甲斐しく気を使ってくれた。


 相変わらず、他の遊女からの視線は冷たく、私は自分の部屋からは出なかった。


 大きくなるお腹と白い猫だけが私の味方だった。


 時折届く、医者からの身体を大事にして、元気な子供を産んでほしい。という手紙を読みながら、


 捨てられるかもしれないから、あまり優しくしないでほしいと天邪鬼になる自分と、愛する人の子供を産める幸せを願う自分に揺れていた。


 何ヵ月か過ぎた頃、私は無事に出産をして、我が子の横で産後の疲れで床にふせていた。


 店主は、無事に出産できたことを喜び、医者に連絡を取りに行ったようだった。



 しかし、その後帰宅したはずの店主が、私の部屋を訪れることはなかった。


 私はすぐに気の早い店主が、報告しにくい返事を医者から言われたと感じ取った。


 涙が、真実を感じてとめどなく流れてしまう。

 

 医者は、お金が用意できなかったのだろう。

 我が子とも一緒にいれない。

 やっぱり捨てられてしまった。


 だから、優しくしないでほしいとあれほど言ったのに、、


 どうして、私をその気にさせたの?

 あんなに真剣な表情で、私を本気にさせたの?


 私は遊女だった。

 本気になって馬鹿だった。

 所詮、皆客だったじゃない。

 皆遊女と遊んで発散させればそれでよかった。仕事の疑似恋愛だった。

 のぼせ上がる私が馬鹿だった。

 花魁なのに、何人もお客としか思わないでこれたはずなのに、、

 もう終わったんだ。

 全て脱け殻になってしまったんだ。

 


 その後、タカの子供は半年程母子の時間を許され、店主から子供のいない夫婦のもとへ里子に出された。

 タカは、心労で仕事ができなくなり、また、病にかかり数年後に亡くなった。

 タカの傍に居続けた白い飼い猫も寄り添うように同時期に亡くなった。


 店主からタカの子供が里子に出されたこと、タカが病で働けなくなり亡くなったことを逐一聞いていた医者は


 何度も何度もタカに会わせてほしいと店主に願い出たが、店主はもう忘れてやってほしい。会うとタカが傷つくから、もうそっとしておいてやってほしいと言われ、


医者は、深い後悔と共に店主にお詫びと、慰謝料を払い遊郭との縁を切った。


この続きがまだあるのです。


来世、再会することになります。



 





 



 


 




 


 

 

 


 


 


 



 




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