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第6話 自白剤

俺は自分のデスクに向かうと、隣でパソコンを睨みつけている多摩川美桜を見た。

そしてゆっくり腰を下ろすと、多摩川美桜は視線に気付いてこちらを見た。

目が合うと片眉を吊り上げて、大きな目をさらに大きく開いた。


「んだよ?無言で見てくんな!きめぇな!」


気持ち悪いとまで言わなくてもいいだろう…

よくそんな口の悪さで入社出来たな。

コネか何かか?


「おい!聞いてんの…」

「ありがとう」


イラっとしそうな気持ちを抑えて、多摩川美桜の言葉を遮ってお礼を言った。


「はっ…?はあ!?いきなり何だよ!?」

「昨日、俺の代わりに残業してくれたんだろ」

「代わり!?ちげーし!残業代欲しいだけだわ自惚れんな!」


残業代?

うちの会社は″みなし残業″と言って、給与の中に固定で残業代が含まれてるから、残業時間が多かろうが少なかろうが変わらないんだが…。

まあこれも″ツンヤン″らしいフォローの仕方なんだろう。


「だとしても早く帰れたからありがとう。さっ仕事すんぞ〜」

「こっちはさっきから仕事しとるわボケ!」


顔を赤くしたまま、多摩川美桜はパソコンへ視線を戻して手を動かした。

このやりとりがただの照れ隠しなんだとわかったら、ちょっと楽しくなってきて


「なんか肩に糸くずついてんな」


と調子にのって触れてみた。 


「健太郎くんに2回もありがとうって言われた幸せすぎて無理顔見れない!!!」

「ぶはっ」


流石に吹き出してしまった。

誰があんな表情とセリフでそんな本音だと気付けるんだよ。

ちょっと離れたデスクにいる下丸子さんなんて、声出せないくらい笑ってるぞ。

他の同僚や先輩方は、腫れ物だからツッコミたくても出来ずに無言で仕事を続けたが、あきらかに頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのがわかる。

そうだろうそうだろう。

疲れてるから幻聴だって思うだろう。俺も初めてはそうだった。それでいい。

当の本人も信じられないというような顔をしてなにやらブツブツ小声で呟いてるし。

少し耳を近付けさせて音を拾うと


「自白剤でも飲まされたか…?」


って言ってるのがわかった。

だめだ、これ以上笑うのはさすがに失礼だ。

自白剤って言ってる時点で、本音と認めてるんだがな。

まあ、俺以外にはバレてないから大丈夫だろう。


俺はしれっと仕事の続きに入った。

多摩川美桜はこの後、一度も俺を見ることがなかったから、目が合わないままこの日は終業した。


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