第4話 ツンではなくヤン
その後、デスクについてからも何度もチラッチラッと横から視線を感じたが、全て無視した。
これこそ昨日の
「あ?てめ今こっち見てたか?」
「言いたいことあんだったら言えよ!」
状態じゃないのか…。
関わるのも邪魔くさいのでとっとと仕事を終わらせることにした。
だが…
「鵜木、この資料明日までに人数分頼めるか?」
もうすぐ帰れると思ったら、残業確定の鐘の音(上司の頼み)が頭の中に響いた…。
「はい。今からかかります」
そう言って、上司から手書きの箇条書きになった紙を受け取った。
これをちゃんとした文章に起こして、打ち込んで人数分コピーして、明日取引先の人に渡すんだろう。
まあ新卒だしな。雑用は断れない。
急いでいるのか上司は会社用携帯を片手にそそくさと部屋を出ていった。
「おい、貸せよ。やるから」
また多摩川美桜だ…。
なんでこんなキレた顔で見てくんだよ。
もう仕事終わって帰るところだろお前は。
「いや俺が頼まれただけだからいい。」
「チッ」
また舌打ちしやがったな…
いやでもこの場合は、俺が先に礼を言うべきだったか?
ありがとう、気持ちだけ受け取るよとか?
あんな顔で言ってこなければそう言えたのかもしれないが、どうしても喧嘩を売られているようにしか受け取れなくて、ああなってしまう。
ああ、でも朝コイツはコイツなりに歩み寄ったんだったか…
昨日のよくわからない一件もあって、俺の中での多摩川美桜の印象が少し変わってきていた。
これは、本当に、ただの好奇心だったと思う。
なぜ舌打ちをしたのか、俺に対してだったのか、本音はどうだったのか気になって、わざと上司から受け取った用紙を右隣の多摩川美桜のデスクに落とした。
そしてサッと拾うふりをして彼女の左手に少し触れた。
「健太郎君の力になりたかっただけなのに何で素直に言えないの私っ!!」
あ…。
やっぱそうか…。
あの舌打ちは、自分への歯痒さからだったか。
多摩川美桜はまた真っ赤になって俺を見た。
「ちっ…ちげーし!!!」
「ありがとう。一人で出来るから大丈夫だよ。お疲れ様。」
うん、やっぱり素直に好意を表してもらえたら、俺も感謝できるんだな…。
彼女は顔を隠すように下を向くと、退勤カードを今回はそっとかざして静かに出ていった。
何でだろう。
苦手と思っていたんだけどな。
あれはツンデレ…ではなく、ヤンキーがデレただけだな。
ヤンデレと略すと変わってくるから、なんて名付ければいいのかわからない。
関わりたくないと思っていたのに微かに興味が湧いてしまった。
こんな人間もいるんだなとちょっと口角が上がってしまった。




