第8話 真実を知る者
アルモニア市の朝、街は静かに目覚めていた。
だがアルト・シルヴァンの胸中は穏やかではない。
「……また何か起きそうな予感がする」
リリス・フェンウェイは元気よく飛び跳ね、
カイ・レンフォードは冷静に周囲を見渡す。
その時、市の広場に見慣れない人物が現れた。
中肉中背、深い緑色のマントをまとい、
鋭い瞳でアルトを見据える。
「アルト・シルヴァン……君の力の秘密を知っている者だ」
声は低く、確信に満ちていた。
アルトは眉をひそめる。
「……誰だ、お前は?」
リリスは不安そうに後ろに下がる。
カイも剣を握り直した。
「……弟子たち、静かに。敵意は感じない」
人物はゆっくりと歩み寄る。
「私はルイアン・ベイル。君の質問力――
人の潜在能力を引き出す力を見抜いた」
アルトは小さく息をつく。
「……やっぱり、誰か気づく者はいるんだな」
リリスは目を丸くし、カイも眉をひそめる。
「アルト様、質問力って……そんな力が?」
アルトは肩をすくめ、淡々と答える。
「俺自身、よく分かっていない。ただ、人の行動や
考えを引き出す質問を投げるだけだ」
ルイアンは頷き、言葉を続ける。
「その力が、弟子たちの成長を促し、都市での伝説を
作っている。君は無意識に英雄を作っているのだ」
アルトは苦笑する。
「……俺は何もしてないのに、全て誤解されている」
リリスが驚きの声を上げる。
「アルト様、すごい力だったんですね!」
カイも静かにうなずく。
「なるほど、だから俺たちは勝手に成長できたのか」
アルトは少し照れたように笑った。
「……照れる話じゃないだろ」
ルイアンは街の噂にも触れた。
「都市での称賛も、君の質問力の結果だ。弟子たちの
行動は全て君の影響下にある」
アルトは苦笑しながらも、少し誇らしさを感じた。
「……勝手に伝説が膨らむわけか」
その日、街の広場では、市民たちが弟子たちを称賛していた。
「賢者アルト様、弟子たちを導いたのね!」
「山脈の試練も突破したなんて、伝説だ!」
アルトは静かに見守る。
「……俺は横にいただけなのに」
リリスは嬉しそうにアルトに話しかける。
「アルト様、これからも一緒に修行しましょう!」
カイも剣を肩に掛け、静かに微笑む。
「俺も、もっと強くなる」
アルトは小さく笑った。
「……分かった、怪我だけはするなよ」
ルイアンは静かに告げる。
「君の力の本質を知った者は少ない。だが、弟子たちと
共に歩むことで、伝説はさらに大きくなる」
アルトはふと考える。
「……これが、追放された俺の本当の価値か」
夜、広場の街灯の下で、アルトは星空を見上げる。
都市は騒ぎ、弟子たちは成長し、俺は静かに観察する――
無能扱いの青年が、伝説の賢者として歩む日々は
今、確かに始まったのだった。




