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第5話 街の危機と迷惑な英雄


アルモニア市は、朝から騒がしかった。

市場では人々がざわめき、魔法の異常な光が空に揺れる。

「何だ、この光は……」

アルト・シルヴァンは眉をひそめ、街の中心へ向かう。


「アルト様! 助けてください!」

リリス・フェンウェイの声が遠くから響く。

彼女は広場で魔法を制御しようと奔走していた。

炎の光が跳ね、商店の屋根をかすめる。


「落ち着け、リリス! 周囲の人に迷惑だ!」

アルトは必死で叫ぶが、リリスは興奮のあまり耳に入らない。

「でも、アルト様、私の魔法なら大丈夫です!」

言いながら、彼女はさらに大きな光の球を作り出す。


カイ・レンフォードも剣を構え、広場の魔獣を迎え撃つ。

「カイ、無理に力を入れるな!」

アルトの声も追いつかない。カイは冷静に戦っているように見えたが、

剣技は大きく振りかぶられ、石畳が砕ける。


「……ああ、もう」

アルトは頭を抱える。弟子たちは勝手に戦い、

周囲は大混乱。だが、なぜか魔獣は次々と退けられていく。

リリスの魔法、カイの剣技、二人の連携は完璧に近い。


市民たちは驚嘆した。

「見ろ! 賢者アルトの采配だ!」

「弟子たちを導き、街を救った!」

アルトは口を開く間もなく、称賛の声が飛び交う。


アルトは必死で説明しようとする。

「待て、俺は指示なんて――!」

しかし、誰も聞く耳を持たない。

すでに都市の目には、アルトは英雄であり、

弟子たちの活躍は全て彼の手腕によるものに見える。


騒動が収まった後、アルトは二人の弟子を見つめた。

「……俺、何もしてないのに、伝説扱いだな」

リリスは満面の笑みで言う。

「アルト様、見てください! 私たち、街を救いました!」

カイも静かにうなずく。

「俺たち、強くなった気がします」


アルトは苦笑した。

「いや、俺は横にいただけだ」

だが、弟子たちは自信に満ち、次の戦いを望んでいる。

アルトはため息をつきつつも、少しだけ嬉しく感じた。


その夜、アルモニア市の広場では、市民たちが話し合う。

「賢者アルト様、すごすぎる……」

「弟子たちを導き、魔獣を退けたって」

アルトの名声は、騒動のたびに膨らんでいった。


アルトは小屋の窓から夜空を見上げる。

霧に包まれた街の光が、星のように瞬く。

「……これからも、弟子たちに振り回されるのか」

しかし、胸の奥には微かな誇りもあった。

自分の無能扱いが、逆に弟子たちを成長させ、

都市を救っているのだから。


リリスは眠る前に、アルトに耳打ちする。

「アルト様、明日も修行しましょう!」

カイも軽くうなずく。

「俺も、さらに強くなる」

アルトは小さく笑った。

「……分かった、怪我だけはするなよ」


こうして、無能扱いの青年は、都市の危機に巻き込まれつつも

伝説扱いされる。弟子たちは自由に成長し、アルトは静かに

その光景を見守るのみ。

迷惑な英雄――それが、今のアルトの立場だった。


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