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第3話 山脈の試練


エルシオン山脈の朝は、冷たい霧に包まれていた。

アルト・シルヴァンは厚手のマントを肩にかけ、

深呼吸をひとつする。山脈の空気は、都市とは違い

鋭く、緊張感を孕んでいた。


「ここが、試練の地か……」

アルトはつぶやき、目の前に広がる険しい山道を見た。

岩場、急斜面、魔法生物が潜む森――全てが課題だ。

弟子たちの成長を試すには、最適な場所だった。


リリス・フェンウェイは元気よく走り出す。

「アルト様、早く早く! 魔法の力を試せます!」

小さな手から光の球を放ち、岩場を軽やかに飛び越える。

アルトは慌てて手を振る。

「落ち着け、リリス! 順序がある!」


一方、カイ・レンフォードは冷静に周囲を観察する。

剣を軽く握り、岩陰に潜む魔獣の気配を察知した。

「……よし、攻撃のタイミングはここだな」

アルトはただ見守る。指示らしい指示は出さず、

弟子たちの判断を尊重する作戦だ。


山道を登る途中、突然、強風が吹き荒れた。

岩場に立つリリスがバランスを崩す。

「危ない!」アルトは咄嗟に手を伸ばすが、間に合わない。

だが、リリスは魔法で自身を支え、無事に着地する。

「ふぅ……やった!」彼女は満面の笑みを浮かべた。


アルトは目を細める。

「……この子、本当に勝手に成長してるな」

無理やり教えるより、自由に挑戦させる方が効率的だと

気づかされる。弟子たちは、知らぬ間に課題を突破していく。


進むにつれて、魔獣の姿が増えてきた。

巨大な灰色の狼、鋭い爪を持つ猿型生物、空を舞う魔鳥。

リリスは魔法で攻撃、カイは剣で迎撃。

アルトは少しも手を貸さず、後方から観察するのみ。

しかし、全てがうまくいく。


魔獣を倒すたび、弟子たちは自信を深めていく。

アルトはふと考える。

「これが、無能と呼ばれた俺の逆説……

俺は何もしていないのに、評価だけが上がる」


試練の核心は、知恵と勇気を試す場であった。

難解な迷路、崖を渡る綱、魔法で守られた結界。

リリスは魔法の閃光で結界を突破し、

カイは剣技で迷路の罠を無力化する。

アルトはほとんど助けていないのに、二人はすべて

クリアしてしまった。


「……都市に帰れば、どうなるんだろうな」

アルトは苦笑した。弟子たちの活躍は、すでに都市に

噂として伝わりつつある。

「伝説の賢者アルト」――勝手にその名声が築かれて

いくのだった。


山脈の頂上に近づくと、霧の中に古代の石碑が現れた。

「賢者の試練はここで終わり……だ」

アルトは小さく息を吐く。弟子たちはそれぞれ、達成感で

顔を輝かせる。リリスは小さく飛び跳ね、カイは剣を

軽く掲げた。


アルトは二人の姿を見つめながら、心の中でつぶやく。

「……俺は、ただ横にいるだけなのに、こんなに人が成長

するのか」

これほど、自分の存在意義を感じた瞬間はなかった。


下山の道すがら、リリスが楽しそうに話す。

「アルト様、次はもっと大きな魔法を覚えます!」

カイも微笑む。

「俺も、もっと強くなる」

アルトは苦笑しながら答える。

「……好きにしろ。ただし、怪我だけはするなよ」


こうして、アルト・シルヴァンは山脈の試練を無事に

終えた。何もしていないはずなのに、弟子たちの活躍で

評価は急上昇。都市に戻れば、さらに伝説は膨らむだろう。

彼の静かなる反撃は、山脈の霧とともに確かな一歩を

刻んだのだった。


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