第1話 追放の真実
アルト・シルヴァンは、今日もまた、肩を落として
アルモニア市の広場を歩いていた。周囲の人々は
彼を無視するか、冷たい視線を送る。無能と呼ばれ
追放された青年。彼に残されたのは、わずかな荷物と
破れた夢だけだった。
「どうして……俺は、こんな扱いを受けるんだ?」
アルトは小さく呟いた。振り返ると、遠くに立つ
ノア・タルクスの影があった。アルモニア市の権力者で、
アルトを追放した張本人だ。無表情のまま、アルトを
見下ろすその瞳には、冷たい光が宿っていた。
だが、アルト自身は諦めていなかった。彼には他人に
理解されない「力」があった。それは、質問力――。
人の思考や行動の核心に迫る、常識外れな質問を投げかける
能力だった。しかし、それを他人は理解できない。
「……賢者の試練だって? 冗談じゃない」
アルトは突然、聖地エルシオン山脈への招集通知を
手にしていた。無能とされた彼に、誰もが避ける
「賢者候補の試練」の任務が舞い込む。誰かが誤解して
送ったのだろう。
「俺に試練? しかも賢者の?」
彼の眉がぴくりと動く。内容を読み進めると、試練は
弟子を引き連れ、山脈の各地で課題を達成させること。
アルトは肩をすくめた。弟子? 自分には弟子なんていない。
ところが、街の魔法学校で弟子希望者が殺到していた。
理由は簡単。アルトが賢者扱いされ始めたという噂だ。
「伝説の賢者が、今ここにいる」――都市中に広まる
噂に、若者たちは夢中になった。
最初に現れたのは、リリス・フェンウェイ。小柄で
明るい少女だ。長い金髪を揺らしながら、にこやかに
手を振った。
「アルト様! 弟子にしてください!」
「……弟子? いや、俺は別に教えるつもりは……」
アルトは言いかけて言葉を飲んだ。何を言っても、
この少女は全く動じない。
続いて現れたのは、カイ・レンフォード。冷静沈着な
青年剣士だ。無口だが、その瞳には強い意思が宿る。
「俺も、弟子にしてください」
アルトはため息をついた。こうして、知らぬ間に
弟子が二人できてしまった。
山脈に向かう道中、アルトは思った。
「……これ、どう考えても俺が教えるのは無理だ」
だが、弟子たちは勝手に行動を起こし、課題をクリア
してしまう。リリスは魔法を暴走させながら、だが
結果的に敵を撃退。カイは剣技を磨き、森の魔獣を
退けた。
アルトは呆然とする。自分は何もしていないのに、
弟子たちの行動が街に伝わり、「賢者アルト」の評価が
うなぎ上りになるのだ。
「……これが、俺の追放理由かもしれないな」
アルトは苦笑した。周囲は理解できないだろうが、
彼にとってはこれも一種の修行だった。弟子たちとともに
山脈を登る中で、アルトは少しだけ未来に希望を抱く。
そうして、無能とされた青年の、静かなる反撃の物語が
今、幕を開けたのだった。




