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関ヶ原に棲む悪魔  作者: 双鶴


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終章 神話の影

 時が流れた。


 関ヶ原の戦から幾年も経ち、

 人々の記憶は少しずつ形を変え、

 やがて物語となって語られるようになった。


 新たな政権のもとで、

 史料は整理され、

 語るべきことと語らぬことが選び取られていった。


 石田治部少輔三成は、

 「天下を乱した奸臣」として記されることが多くなった。

 その筆致には、どこか均一な調子があった。


 大谷刑部少輔吉継は、

 友のために命を捨てた忠義の士として讃えられた。

 白い仮面は“清廉の象徴”と呼ばれ、

 その物語は美しく整えられていった。


 史料には、

 吉継が三成を支え続けたこと、

 その死が友情の証であったこと、

 そうした言葉が並んでいた。


 だが、

 史料の行間には、

 誰も触れようとしない“影”があった。


 三成がどのように語られ、

 吉継がどのように美化されたのか。

 その過程を記す筆は、

 決して中立ではなかった。


 治部が処刑の直前に語った一言――


  大谷刑部少輔は善人であった。


 その言葉が、

 後世の筆を導き、

吉継の像を決定づけた。


 人々は信じた。

 吉継は善人であり、

 三成の唯一の友であったと。


 やがて、

 三成は“悪”として、

 吉継は“善”として定着していった。


 しかし、

 その仮面の裏にどんな顔があったのか、

 語る者はいない。


 歴史は、

 語られた形のまま残っていく。


 そして、

 語られなかった影は、

 静かに沈んでいく。


 物語はここで終わる。


 光の中に立つ者たちの名だけが残り、

 影にいた者の心は、

 誰にも触れられぬまま、

 深い闇へと溶けていった。


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