第12章 処刑:英雄の終わり
秋の空は澄み渡り、
その青さが残酷なほど美しかった。
石田治部少輔三成は、
護送されながら静かに歩いていた。
縄で縛られた手。
疲れ切った身体。
だが、その眼差しには曇りがなかった。
(刑部……あなたは、あなたの正義を貫いた)
治部は、吉継の死を聞かされていた。
「大谷刑部少輔は、あなたを思って自害したのだ」と。
治部はその言葉を聞いたとき、
涙を流した。
だが、その涙は悲しみではなかった。
(刑部。
あなたは最後まで、私を支えてくれたのだな)
治部は、吉継の“真実”を知っていた。
吉継が家康側と通じていたことも。
吉継が自分を利用していたことも。
だが、恨みはなかった。
(刑部は、刑部の正義を貫いた。
私が私の正義を貫いたように)
処刑台が見えてきた。
群衆がざわめき、
石を投げる者もいた。
だが治部は、静かに微笑んだ。
「皆の者。
私は、正しさを貫いた。
それだけだ」
その声は、敗者のものではなかった。
**正義を貫いた者の声**だった。
処刑人が刀を構えた。
治部は最後に、空を見上げた。
(刑部。
あなたは、どこかで見ているだろうか)
治部は、静かに口を開いた。
「大谷刑部少輔は――
善人であった」
その一言が、
群衆の空気を変えた。
処刑人の手が震えた。
見物人たちはざわめき、
やがて誰かが呟いた。
「……大谷殿は、忠義の士だったのだな」
その呟きは、
瞬く間に広がっていった。
治部は微笑んだ。
(刑部。
これでいい。
あなたの悪は、永遠に隠れる)
刀が振り下ろされた。
治部の身体は崩れ落ちたが、
その言葉は生き続けた。
――大谷刑部少輔は善人であった。
その言葉が、
後世の史料を形づくり、
美談を生み、
吉継の悪を完全に覆い隠した。




